インタビュー

第1回「科学技術を発展させたX線」(石川哲也 氏 / 理化学研究所 播磨研究所・放射光科学総合研究センター長)

2007.08.22

石川哲也 氏 / 理化学研究所 播磨研究所・放射光科学総合研究センター長

「もっと光を!-新しい科学を拓くX線自由電子レーザー」

石川哲也 氏
石川哲也 氏

数々の研究成果を生み出している大型放射光施設(Spring-8)を抱える理化学研究所播磨研究所(兵庫県佐用町)で7月、日本の基礎科学界の期待を集める新しい大型研究施設の建設工事が始まった。化学反応など超高速で変化するナノの世界の現象もリアルタイムで観測できるX線自由電子レーザーだ。国家基幹技術に据えられている重要なプロジェクトである。世界のどの国もまだ手にしていない画期的な装置がなぜ実現可能になったのか、この装置を手にした研究者たちはどのようにそれを利用しようとしているのか。プロジェクトを率いる石川哲也氏(理化学研究所播磨研究所・放射光科学総合研究センター長、理化学研究所X線自由電子レーザー計画合同推進本部プロジェクトリーダー)に聞いた。

—昨年11月の第1回X線自由電子レーザーシンポジウムにおける講演「新しい光が新しいサイエンスをつくる」では、新しい観察手段を持つことの意義を強調されていましたが。

かつて分解写真、高速度写真の登場によって、動いているものの瞬間、瞬間が見えるようになりました。光を使った装置というのは昔から、科学技術を単に発展させるというのではなく、ジャンプさせる道具やきっかけになってきたということを言いたかったわけです。非常に古くには望遠鏡を作って見てみたら、何やら変な動きをする星がある。それを解析してみたら、それまで地球が宇宙の中心だと思っていたのが、真ん中にいるのは太陽で地球はその周りを回っていることが分かった、といったように。

望遠鏡はレンズができたからつくれたわけですが、同じようなものに顕微鏡があります。これで見てみると細かいものがいろいろ見えて、生物が細胞からできていることなどが分かってきた。これも、新しい道具ができると新しい科学の世界が拓ける一例です。

新しい光が見つかると新しい世界ができるということでは、19世紀末にレントゲンがX線を見つけたことが最も典型的な例と言えます。当初、なんだか分からないから、X線と名付けられた。レントゲンは自分か奥さんかの手を撮って骨が見えることを示して、まず医学関係にわっと広がったわけです。

一方、レントゲンの発見から20年くらいたって、X線というのは波長が非常に短い光で、非常に小さいものを見ることができる光だということが分かってきました。

—これを見つけた人も偉いですね。

ええ、マックス・フォン・ラウエというドイツ人の物理学者で1914年にノーベル物理学賞をもらっています。X線というのが単に影絵のように物質の中を透過して中を見るだけでなく、非常に小さな世界、例えば結晶がどのようにできているかといったことを調べることに応用されてきた。また、さらに何十年かたってDNAにX線を当てて解析した結果、二重らせん構造をしていることが分かったワトソンとクリックの研究成果が生まれるわけです。いまやタンパクの結晶をつくってX線で見るということは当たり前になっているわけです。100年前に見つかった新しい光が、100年たって社会の隅々に行き渡り、医学、工学、科学技術などいろいろなところで役に立っているわけです。

もう一つ20世紀の大変な発明発見にレーザーがあります。簡単に言うと沢山の光を出すもの、原子や分子ですが、それが一緒に光を出す。そして波として重なり合って非常に強くなる。波としてきれいなレーザーもいろいろなところで使われているわけですね。パソコンの中のDVDやCDでも読み取りには非常に小さな半導体のレーザーが使われているわけで、一家に一台の割でレーザーを持っていることになります。光通信の光源、高精度計測、制御にも使われている。これも社会の隅々で使われているわけです。

ホログラフィーというのがあります。物の3次元の形を光でつくってしまう。光の波として非常にそろっているから、そんなことができる。蛍光灯など普通の光はバラバラの波ですから、ホログラフィーはできない。しかし、一方、われわれの目は見たものを3次元の形として認識できるわけです。光に当たって散乱する光の波を目のレンズで網膜に結像して、頭で感じるということをやっている。人間の目は、レンズも同じですが数学的に言うとフーリエ変換ということをしているわけです。バラバラの光でもレンズがあればフーリエ変換で像にしているわけです。

建設工事が始まったX線自由電子レーザー建設予定地
(提供:理化学研究所)
建設工事が始まったX線自由電子レーザー建設予定地
(提供:理化学研究所)
X線自由電子レーザーが建設される播磨研究所
右上は大型放射光施設(Spring-8)
(提供:理化学研究所)
X線自由電子レーザーが建設される播磨研究所
右上は大型放射光施設(Spring-8)
(提供:理化学研究所)

(続く)

石川哲也 氏
(いしかわ てつや)
石川哲也 氏
(いしかわ てつや)

石川哲也(いしかわ てつや)氏のプロフィール
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻を1982年に修了し工学博士を授与された後、高エネルギー物理学研究所助手、東京大学工学部助教授を経て95年から理化学研究所主任研究員。大型放射光施設SPring-8のビームライン建設を統括し、コヒーレントX線光学を開拓した。2006年から、X線自由電子レーザー計画合同推進本部のプロジェクトリーダーを務めるとともに、理化学研究所播磨研究所・放射光科学総合研究センター長も。

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