インタビュー

第4回「医療も柱は人材育成」(高倉公朋 氏,松岡瑠美子 氏 / 東京女子医大学長 | 東京女子医大教授)

2006.10.03

高倉公朋 氏,松岡瑠美子 氏 / 東京女子医大学長 | 東京女子医大教授

「たこつぼ型からトータル医療へ -患者のための医療『統合医科学』とは」」

医療に対する関心がますます高まっている。たこつぼ型からトータル、既製服からテーラーメードの医療へ。患者、社会の双方にとって理想的な医療を目指す拠点として国際統合医科学インスティテュート(IREIIMS)が発足した。
この大型プロジェクトを率いる東京女子医大の高倉公朋学長、松岡瑠美子教授に、新しい医療について尋ねた。

—統合医科学インスティテュートのプロジェクトは、人材育成も大きな柱になっていますね?

松岡瑠美子 氏
松岡瑠美子 氏

まさにそこが大切なところなのです。統合という概念はよいけれど、では具体的にどうするかになると、科学者、医療従事者ともに困っているのです。

そこで私どもは、コンピュータの中に統合医科学データーベースとコンピュータソフトウエアでいわば人間の頭脳を作り、コンピュータシステムとして、これを人材育成のために活用することをしております。

半年間、週に2日、コンピュータの端末の前に座り、22ほどの実際の症例について、100項目以上の検査項目の値や種々の医学情報を参照しつつ、いろいろな設問に答えていただきます。それによって何がわかるのか、どのような根拠があるのか、といったことを身に付けてもらい、さらに先生方による講義や討論時間も設ける。このような教育プログラムをすでに始めております。

医者だけでなく、看護師、技師、研究者との討論により、幅広い知識と思考法が身につくようにしたいという願いからできた教育システムなのです。

高倉公朋 氏
高倉公朋 氏

医学情報は複雑で分かりにくいですね。私どもでも生化学の研究者や免疫学者がお互い話しているのを聞くと、専門的なことはよくわかりません。一般の方が聞いて分からないのは当然です。

医学情報をいかに分かりやすく表現していくか。このコンピュータソフトの狙いはそれにつきます。

—このような人材育成法は、どのようにして思いつかれたのですか?

高倉公朋 氏
高倉公朋 氏

学生が、複雑な医学の知識を全部覚えることは不可能です。何が大事なことか、を自分で見つける能力、むしろそれを育てることの方が、重要です。

東京女子医大は、学生の教育にテュートリアル教育というものをずっと取り入れて来ています。5、6人の学生に1人の先生であるテューターがつきます。

討論風景
討論風景

テューターはやたらに助言はしません。「おなかが痛いといっている患者がいる」。このような課題を与え、これに対し学生たちは討論しながら、自分たちで問題を見つけ、考えて解決策を作っていく。ここの学生は、普通の講義、実習に加え、1年生から4年生までこのような教育を受け、それが終わってから実際に患者さんを診ることになります。

グループで、討論もしながらやっていくことが大事なのです。自分ひとりの考えだけでなく、他の人の意見も聞くことが、チーム医療では重要なのです。医者が自分だけが正しい、自分だけが神の手を持っているなどと考えるのは困りますから。

松岡瑠美子 氏
松岡瑠美子 氏

これからは女性の医師がいったん家庭に入り子育てをし、子育てが終わって再び医療の現場に復帰するケースも増えて来るでしょう。その際の再教育にも、このシステムは力を発揮するはずです。

高倉公朋 氏
高倉公朋 氏

このプロジェクトは4年後に終了しますが、その時点で独り立ちが求められています。女性や外国人が広く参加する、ユニークな国際統合医科学研究機関としてです。

高倉公朋 氏
高倉公朋 氏

高倉公朋 氏のプロフィール
専門は脳神経外科。1958年東京大医学部卒。68年国立がんセンター脳神経外科医長。81年東京大医学部教授。92年東京女子医科大教授。97年同学長に就任。東京大名誉教授。国際脳神経外科学会連合名誉会長。米国脳神経外科アカデミー会員。ドイツ脳神経外科学会会員。

松岡瑠美子 氏
松岡瑠美子 氏

松岡 瑠美子氏のプロフィール
1972年横浜市立大学医学部進学課程卒業。79年ウィスコンシン大学心臓病理科研究員。81年ボストン小児病院(ハーバード大学医学部小児科)循環器科分子細胞生物学部門研究員。84年東京女子医科大学循環器小児科助手。2001年同大学先端生命研究所講師、同大学循環器小児科講師。2004年同大学遺伝子医療センター講師。05年同大学国際統合医科学インスティテュート特任教授。

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