インタビュー

第11回「未知なる脳 脳と心の関係を探し求めて」(川島隆太 氏 / 東北大学 加齢医学研究所 教授)

2006.08.22

川島隆太 氏 / 東北大学 加齢医学研究所 教授

「道を拓く 脳のメカニズムに迫る」

川島隆太 氏
川島隆太 氏

脳の研究成果をもとにしたゲームの監修などでおなじみの川島隆太東北大学教授を迎え、脳のメカニズムに迫ります。

今後の脳科学研究の可能性は?川島教授の次なる挑戦、将来展望をお伺いしました。

—現在の研究テーマは?

私の研究室で行っている脳の研究は今、大きく三つのテーマがあります。
一つ目のテーマは「言語に関する研究」です。
特に外国語、第二言語、第三言語を私たちが習得する時に、私たちの脳の中で一体どういうメカニズムが働くのかということを中心的に調べています。これらの研究から今、少しずつ見えてきたのは、外国語というのは脳の中では全く違うネットワークを使っているらしいということ、これは今までもわかっていました。
ただ最先端の研究では、きちんと文法の知識等を学ぶと、学んだことによって、それに応じて反応する脳の領域が左の脳の前頭前野に出てきて、それが出てくることによって学習でスムーズに進むんだということが見えてきたわけです。
さまざまな言語の学び方の学習の方法にしても、脳の働きと関連づけることで、容易に外国語を学ぶ方法というものが見えてくる可能性が、少しきっかけが見えてきた段階に研究が進化してきています。

二つ目のテーマは、これは「高次の認知の研究」と呼んでいますが、私たちが私たちの周りにある外界をどのように認知しているか。私たちが私たち自身のことをどういうふうに認知しているかという、心の働きに迫るような脳研究を、脳機能イメージングを使って私たちは行っています。

こうした研究の成果が出てくる中で、今、私たらは脳のある一か所の働きに非常に注目しています。
それは同じ前頭葉の前頭前野でも外側面ではなく脳の内側に入り込んだ内側の前頭前野と呼ばれているところの働きです。ここの脳の働きが、心の働きの機微とつながるような働きしているというデータがたくさん出てきています。
たとえば自分自身の体、顔など、写真を見ている時、私たちの前頭前野の内側面が働く。自分というものをここが認識している可能性があるというデータが出てきている一方で、他人に上手に働きかけようと、しゃべりかけようとする気持ちが、どうやらこの内側の前頭前野から出てきているのではないかというデータも出てきています。

また自分や他者に対して、外から危険が及んでいる時、危険を察知する、危険が相手に向かっているんだぞということを認識しているのも、どうも内側の前頭前野というところにあるらしいということが見えてきています。
まだまだそこが何をしているということをきちっと言うまでに整理はできていないんですが、今までたとえば実験動物を使った研究ではわかってこなかった、人間ならではの、ものすごく高次な社会性を伴う脳機能というものが、この大脳の前頭前野の内側面の前頭前野と呼ばれているところにあるらしいということが、少しずつわかりだしてきました。
こうした研究のゴール、私たちはこの研究を通してどこを見ているか。
これは脳の科学者全員の夢だと思います。私たちの脳と心の関係を調べたい。私たちが心と呼ばれているものが脳の中にどのように表現されているかということを科学的に突き止めたいというのが最終的なゴールですから、私たちは実験動物ではできない、人間ならではの、脳の働きを、これからの脳機能イメージングで見ていこうと考えています。

そして三つ目の柱は、今までの二つとはちょっと文脈が違うんですが、私たちは「脳のダイナミクス研究」と呼んでいます。
私たちの脳の働きは実際に神経細胞から神経細胞に電気を流すことによって構成されています。電気活動ですからミリ秒の単位で情報が行き交っています。
ところが機能的MRIという画像装置を使って脳の写真を撮ると、脳のどの場所が働くかという空間的な情報は出てくる。ただしミリ秒で移り変わっていく脳の働きは一切見ることができません。場所の情報しか出てこない。
一方で古典的に使われている脳波計のようなものを使うと、脳がどういうタイミングで働いたかは画像に出てきますが、脳のどの場所が働いていたかはわからない。
だったらこれらの二つの情報を一緒に融合したらどうか。それによって脳のどこが、どういうタイミングで働くかを調べようというのが脳のダイナミクス研究と呼ばれているものです。

これを行うために私たちは強い磁場を持っている機能的MRIの装置の中で、脳波計を同時計測するシステムをすでにつくりあげて、そこからノイズを取り去るというプログラムを、すでにつくり終わっています。
さらにこの二つの情報を融合するために、私たちのところにいる数学者が実際に非線形数学のモデルと大脳生理学の生理学モデルを融合することによって、その血管の変化と神経細胞の電気活動の関係をモデル化する研究を、今、着々と行っています。
これらの研究成果が見えてくれば、脳機能イメージングという人間の脳機能計測を行うだけでも、実験動物で見ているような、神経細胞がどういうタイミングで働くかという情報まで得ることができるだろうと期待しています。
これが一つのブレイクスルーになって、先程私が言った夢、脳と心の関係に初めて私たちは少し近づけるのではないかと、こんなふうに期待しています。

—今後の脳科学研究の可能性は?

私の感覚ではこれからの脳科学研究はどこへ行くのか。
脳科学研究の最終目標は脳と心の関連を調べること、究明することにあることは間違いないと思います。

そこに至る道はたくさんの道があります。
今、私が持っている脳機能イメージングという方向性では、まだいくつもブイレクスルーが必要だと思いますが、人間を直接対象として人間の脳をまさにコンピュータとしてとらえることができるかということだろうと思います。
また実験動物等を使った脳機能の研究では脳神経細胞でたくさんつくられているネットワークをシステムとして、システムがどういう働きをしているかを調べていく。
またさらに分子生物学、遺伝学等をやっている脳機能研究の中では、分子のレベルから脳の働きを調べる。

これらはうまく合流した先に、おそらく最終目標が見えてくる。
ただ、それをどう合流させるか、どう親和させるかに関しては、まだまだ答えが見えていません。おそらくたくさんのブレイクスルーが必要で、でもどんなブレイクスルーがいるかも、私たち自身にはまだよく見えていない。
ただ見えていないからといって、その場にいたのでは決して前に進めませんから、私たちができる範囲で、できる範囲のことをしながら前へ進んでいく中で、次のブレイクスルーが見えてくると信じています。
おそらくすべての脳科学者がそう信じて、でも最終のゴールがどこにあるかを皆が自覚した上で、それぞれの道で努力しているのだろうと、今、私は感じています。

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