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科学技術振興機構(JST)理事長定例記者説明会での講演(4月19日)から講演要旨

広島大学大学院理学研究科教授・広島大学ゲノム編集研究拠点リーダー 山本 卓 氏

掲載日:2017年5月1日

山本 卓 氏
山本 卓 氏

ゲノム編集がどのようなものであるか、またこの技術を使ったさまざまな利用の仕方についてご紹介するのが今日の私の仕事かと思っています。ゲノム編集について1から説明するのはくどくなるかも知れませんが初めて説明を聞く方もいらっしゃるかもしれませんので、1から少し説明します。

遺伝子を入れないで品種改良も可能

まずゲノム編集の優れている点についてです。これまでの遺伝子改変技術は、ある限られた生物種にしか、また限られた改変しかできませんでしたが、ゲノム編集という新しい技術によって基本的には全ての生物種でできるようになった。しかもこれまでの遺伝子組み換えはどの部分を改変するかをコントロールすることは難しかったけれどもゲノム編集は狙ったところで改変ができます。しかも自然突然変異と同じタイプの改変を作りだすこともできるところが大きなインパクトかと思います。ゲノム編集と遺伝子組み換えは何が違うのですかという質問をよく受けます。少し説明します。日本では遺伝子組み換え作物を好まない傾向が今もあります。例えば農学の方が品種改良はどうやっているかですが、現品種に放射線を当てたり、DNAを変化させる薬剤を与えて改変したりして、有用なものができてくればそれを取り出して選抜して、ということを何度も何度も繰り返すわけです。この品種改良に時間がどれくらいかかるかですが、これまでは5年、長ければ10年もかかっていた。遺伝子組み換えであれば非常に短時間でできるのですが、「遺伝子が本来持っていないものを入れないで改変する」という意味ではこういう形で長い時間をかけて品種改良をしているのが現状です。

ただ、放射線を当てるにしてもDNAのどこを改変するかは選べません。多ければDNAの何千カ所にも改変が加わって、DNAの塩基配列に変化が起きてしまう。その何千カ所分の一カ所で非常に有用な形質を出す改変が加わればいい品種として使えるわけです。残りの改変はどうなっているかについては、多くの場合、すべてを改変前に戻すということはおそらくしていない。(これに対して)ゲノム編集は、狙った所だけをうまく改変できるという意味で非常に安全である、と科学的には考えることができます。狙った遺伝子部分だけの変異を高効率に導入することが可能になります。

例えば第2世代ツールの「TALEN(ターレン)」は人工の“はさみ”の酵素です。DNAを切断するはさみを自分で用意して、これを細胞の中に入れてやると狙った遺伝子にだけ、人であれば2万何千の中の狙った遺伝子にだけにこれ(はさみ)を働かせることができる。我々の体の細胞のDNAは切れてもきちんと修復するという能力を持っているのですが、何度も何度も同じ所を切ることによって、修復にある確率でエラーが起きる。そうすると遺伝子が変わる。塩基情報AGCTに変化が起きて本来その遺伝子からできるはずのタンパク質ができなくなってしまう。これを狙って起こしてしまうというのがゲノム編集です。

(遺伝子改変は)放射線であれ、あるいは人工の酵素であれ(遺伝子を)切ります。一番よく使われるのは、人工の酵素で切る方法です。切った後に何度も何度も修復を繰り返しているうちにエラーを起こさせて、(遺伝子配列が変わってしまい)それ以降正しい遺伝情報にならなくなって遺伝子を壊すことができる。これは自然突然変異でも起こり得るタイプの変異になります。外からは何も入れていない。外来遺伝子などと我々は言いますが、本来持っていない遺伝子はこの場合入っていない。自然突然変異と同タイプの変化を加えることができる。一方で(遺伝子が)切れた所、切った所に遺伝子を入れることもできます。遺伝子を入れるとこれは、遺伝子組み換えになります。ですがこれまでの遺伝子組み換え作物で使われていた方法だと遺伝子がどこに入るか分からない、いくつ入るかも分からない。ゲノム編集は切った所を狙って(遺伝子を)1つだけ限定的に入れることが可能である点も優れた技術ということになります。“ゲノム編集と遺伝子組み換えは同じですか?”、との質問に対する答えは難しいのですが、ゲノム編集は既存の遺伝子組み換えよりも上位に位置しています。自然突然変異が作るタイプの改変もできますし、正確な遺伝子組み換えを作ることもできる技術という位置付けになります。ですから全く違うと言うわけではない。ただ、自然突然変異でできるものと同じものを作り出すこともできるので、これまでの品種改良と同じように扱える可能性がある。もちろんできたものに対するきちんとした安全性評価が必須になります。

写真1 ゲノム編集の基本的な仕組みを分かりやすく説明する山本 卓 氏
写真1 ゲノム編集の基本的な仕組みを分かりやすく説明する山本 卓 氏

簡単、効率的で安価なツール「クリスパー・キャス9」で基礎研究が進む

ゲノム編集ではさみのように切る酵素としていくつか有名なものがあります。ターレンは我々が作り続けているものですが、(2017 年の日本国際賞を受賞した)ダウドナ博士とシャルパンティエ博士は「クリスパー・キャス」という新しいシステムを作ってノーベル賞候補と言われています。どれを使ってもやれることは同じです。狙って切ることはどのシステムを使ってもできるのですが、「クリスパー・キャス9」はあまりにも簡単で誰にでもできて効率が良くて、しかも安い。第2世代の「ジンクフィンガー・ヌクレアーゼ(ZFN)」やターレンより格段簡単で使いやすいので、応用研究もこれを使って進めようという方向になっています。ある先生は「普通の道路を走っていたのが高速道路で走るようになった」と言われていましたが、まさに高速道路で走るスピード感の技術かと思います。

私は基礎研究者ですので、いろいろな講演に呼んで頂いた時に、若い人たちに「この技術を使わないと基礎研究で海外と戦って行くことは出来ない。いかに早く(クリスパー・キャス9を)取り入れるか、基礎研究ではとにかく早く入れることが大事です」と必ず言っています。

私のグループは第2世代のターレンをずっと作っています。同じターレンでも非常に活性の高いものを作ることに成功しています。細胞の中で狙った遺伝子だけをきれいにいろいろなタイプの改変を加えることが出来ます。(その方法によるゲノム編集でカエルやゼブラやマウスなどでの活用例を紹介)さまざまな動物で高効率に(ゲノム編集が)できる。さまざまな動物や生物で成功して、我々としてはターレンで「よし、これからやるぞ」となった時、2012年ごろ彗星(すいせい)のごとく現れたのが、クリスパー・キャス9でした。クリスパー・キャス9とこのZFNやターレンとの大きな違いは、ZFNやターレンはタンパク質でできている。ですからDNAの塩基配列AGCTの4つの文字配列に正確に結合するタンパク質をそのまま作ることは難しいので大腸菌の中で作ってもらって大腸菌にそのタンパクができるような遺伝子の組み換えをしてもらう。これは、基礎生物学者の皆さんがされていることですが、かなり手間がかかる。一方でクリスパー・キャスは切るはさみはタンパク質です。キャス9と呼ばれるはさみを2つ持っています。DNAの2本鎖を1本ずつ切る。ですが、はさみはどこを切るかを指定することができない。指定するのは「ガイドRNA」というDNAと同じ核酸でRNAという物質。これを作るのはたいへん、と言われるのですが、基礎研究の分野ではいくらでも作れます。化学反応でつなげて作ることさえできるので、メーカーにお願いすれば1、2週間で入手できます。非常に簡単です。誰でもゲノム編集ができる時代になったというのが現状です。またアイディア次第でいろいろなことができるので、基礎研究はどんどん進んで行きます。

もう少し詳しく紹介しますとクリスパー・キャス9は元々細菌、古細菌が持っている獲得免疫システムを利用したものです。細菌がウイルスに侵入されると、侵入したウイルスのDNAが(細菌の中で)バラバラになって細菌は一度自分のDNAの中に取り込んで「これは敵のDNA配列だ」と分かる所に入れ込んで相補的なRNAを作る。そのRNAが敵を認識するとキャス9というタンパク質と一緒になってウイルスを切ってウイルスを不活性化する。この細菌の免疫システムをゲノム編集で使おうと思ったのが、シャルパンティエさんとダウドナさんで2012年に米科学誌サイエンスに論文を発表した。シャルパンティエさんはバクテリアの研究者で、ダウドナさんはRNAの構造、機能解析研究をやっていた。二人がうまくコラボレーションした。細菌の中で(ウイルスのような)敵が入ってきた時にこれをたたくシステムを使えるのではないかという発想でした。このRNAとキャスというタンパク質さえ細胞の中に入れて標的になる部分を改変したい遺伝子配列に合わせるだけでいい。これがこの技術の本質です。簡便かつ効率的。ガイドRNAという小さなRNAの種類を増やせば同時にいろいろな部分を改変することが可能です。
これもクリスパー・キャス9の非常に大きなメリットです。

農畜産物から医学の広い分野での応用へ、一方課題も

2013年にZhang博士がすごい論文を発表したことをその年のゴールデンウイークに知って我々は非常に驚いた。マウスのES細胞で5つの遺伝子を同時に改変してしまった、という発表で、しかも改変マウスの2つの遺伝子を1度の作業で遺伝子改変したというので非常に驚いたわけです。これまでいろいろな病気の解析に遺伝子改変マウスが使われていますが、改変マウスを作るのには6カ月から1年かかっていた。ES細胞を使った改変マウス作製であれば、6カ月、1年かかっていたのが、ゲノム編集では早ければ数カ月、半年はかからないで簡単に遺伝子改変マウスを作ることができるようになっています。

(クリスパー・キャス9に関連して)2015年には1,000以上の論文が出ていますので、ほぼ毎週、複数の論文が出ている状況です。日本はクリスパー・キャス9についての取り組みが遅かったこともありますが、現在ではユーザーベースでこれを使った基礎研究が多数出るようになっています。日本も頑張っていると思います。

写真2 ゲノム編集の可能性について語る山本 卓 氏
写真2 ゲノム編集の可能性について語る山本 卓 氏

応用面についてです。遺伝子を壊すことで有用な農水畜産物や疾患モデルを作ることができる。あるいはウイルスを破壊することもできますし、エネルギー生産微生物の作成も可能になります。遺伝子組み換えにはなるのですが、これまでの遺伝子組み換えでは、遺伝子を入れてもなかなか有用なタンパク質を作ることができなかったものでも、ゲノム編集ではできるようになった。ゲノム編集では、タンパク質をたくさん作ってくれそうな部分を狙って(クリスパー・キャス9などで)切って(入れたい遺伝子を)入れることができる。薬の研究では、例えばある薬の代謝に関係する遺伝子がどのくらい効くかという研究も、ゲノム編集を活用してヒトの薬剤代謝遺伝子をもった細胞やマウスで調べることができる。ゲノム編集は非常に有用です。

(豚や牛などの畜産動物やトマト、ジャガイモなど植物・農産物、養殖マダイ・養殖マグロなどの水産物の品種改良への応用の紹介・略)

医学分野で今後さまざまなところでゲノム編集が利用されていくのは間違いありません。
私自身100ぐらいのグループと共同研究をしていますが半分は医学系です。疾患モデルを作りたい、創薬に使える細胞の改変の技術を教えて欲しい、という話などが(研究機関から)あります。今日は詳しくお話できませんが、がんのモデルにゲノム編集技術を応用する研究が海外では進んでいます。遺伝子治療、再生医療の分野、創薬の分野にも使える技術です。エイズウイルス(HIV)感染治療への応用も可能です。HIVの感染患者からT細胞を採取してHIVに感染するときの受容体を壊してしまえばその細胞は戻してもHIVには感染しない。このため体内のHIVが減ってくる効果が米国の医学研究では確認されている。臨床試験も行われて、治療応用の方向に向かっています。

再生医療の理想図になるのですが、患者さんの細胞を取り出して(それを基に)iPS細胞をつくって、その病気原因となる(遺伝子)変異が分かっていればそのiPS細胞をゲノム編集で改変する。改変したiPS細胞を必要な細胞に分化させて治癒する。これは理想的(な姿)で、分化した細胞をたくさん取れることができるかどうか、などまだいろいろな課題がありますが、このような治療ができるようになれば、免疫拒絶が起きないiPS細胞を患者本人から作ってその患者に提供することも将来は可能になってくると思います。

ゲノム編集を利用して非常に強い免疫細胞を作って白血病の治療をした研究例が一昨年報告されていますし、海外では体細胞の治癒ではゲノム編集が積極的に使われる方向になっています。

ただし、ゲノム編集にも問題はあります。「オフターゲット作用」(の問題)で、遺伝子の狙った配列部分に(ゲノム編集の)はさみで切り込みを入れるわけですが、似た配列があると100%最初に狙った所を改変できるか、あるいはそのはさみの影響が長期間ないかどうか、をきちんと調べなくてはならない。
これはやはり時間がかかりますし、人への利用は世代を超えた影響を調べることが重要です。

受精卵への応用についてです。国内でも海外でも受精卵にゲノム編集をしてそれを子宮に戻すことは今のところは安全性の面でも倫理的な面でも利用は難しいのですが、基礎研究としてゲノム編集による影響を調べるあるいはヒトの遺伝子の機能について調べることは重要です。一方で、受精卵ではなくて受精前の生殖細胞でできる技術を考える必要もあります。この他、ゲノム編集では、細胞が分裂して行く中でいろんな変異が入ったものが体の中に入ってしまい、これをモザイクと言いますが、モザイクになってしまうようでは、やはり技術としては大きな問題であると言えます。

研究プログラム「OPERA」では6テーマ設定して研究推進

最後に少しだけ「OPERA」(科学技術振興機構「研究成果展開事業産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」)を紹介させてください。ゲノム編集技術を使って(国の)「日本再興戦略」が掲げる国内総生産(GDP)600兆円達成のためにバイオ産業が関わる3つのプロジェクトでの技術としてゲノム編集が挙げられています。「ゲノム編集による革新的な有用細胞・生物作成技術の創出」では、研究テーマとして微生物、動物、培養細胞、植物それぞれでのゲノム編集技術開発と国産ゲノムツールの開発、さらにゲノム編集をめぐる社会動向の調査(6つ)を設定しています。非競争領域のゲノム編集の基礎技術開発では、企業の方に投資して頂いて、ゲノム編集のテーマにあるように皆が共通して使える技術開発を一緒にやる取り組みを進めています。

図 JST「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」サイトから(JST提供)。「この技術を使わないとできないこと」を研究者が示すことが重要。
図 JST「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」サイトから(JST提供)。「この技術を使わないとできないこと」を研究者が示すことが重要。

(講演終了後の質疑応答から)

(第4世代ツールについて)現在さまざまなバクテリアの中からクリスパー・キャス9 に類似するものが取られている状況です。人の細胞で使えるかどうか世界中で競争して研究している段階でおそらく5年もすれば(さらに新しいツールが)出てくる可能性はあると思います。ただクリスパー・キャス9と同じような効率ならばなかなか新しいものと置き換わらないでしょう。それだけクリスパー・キャス9は遺伝子を切るはさみとしての「切れ味」がいいので当面はこれで研究が進んでいくでしょうが知財の問題があって商業利用ではなかなか進まないのでクリスパー・キャス9でないとできないゲノム編集とそうではないツールでもできるものと使い方を変える必要があると思います。

(臨床応用への可能性について)ゲノム編集では壊れている遺伝子を治すということが一番魅力的なところです。ですから、ひとつの塩基配列が変わってしまい、その配列でできるアミノ酸が変わってしまったものをもう一度配列を(正常に)戻すということが、病気を発症している体細胞でできれば(治療応用も)不可能ではない。ただ「デリバリー」と呼ばれる、ゲノム編集ツールを送り込む技術はまださまざまな(技術的)制限があります。クリスパー・キャス9はタンパクのサイズが大きく、狙った部分に運ぶかという問題やオフターゲット作用の問題もあります。遺伝子の中の狙ったところの類似配列も切ってしまわない方法の研究が進んでいます。オフターゲット作用の影響を調べる評価方法も確立されつつあり今後5年ぐらいで落ち着く(めどが立つ)のではないでしょうか。例えば肝臓の病気で全ての細胞ではなくても何パーセントかの細胞で遺伝子が治ってタンパク質が血中に出て血中濃度が、治療効果があがるレベルになってそれが持続すれば治療効果も期待できる。造血幹細胞に応用して治療する可能性もあります。ゲノム編集で治療可能な遺伝性疾患については、デリバリーの問題が解決されない限り、特定の遺伝性疾患にしか応用できないということになるでしょう。

(遺伝子組み換えとの違いについて)ゲノム編集は遺伝子組み換えではないという言い方はしないほうがいいでしょう。遺伝子組み換えと同じようなこともできるがこれまでの(遺伝子を操作しない)品種改良のようなこともできるというスタンスを取るべきでしょう。社会的受容を考えた時にゲノム編集の技術を使わないとできないということ、例えばこの技術を使わないとその作物はなくなってしまうとか、そういうことを研究者が示せないと多くの人の賛同は得られないと思います。

(ゲノム編集の倫理問題検討への取り組みについて)私たちのゲノム編集学会も(倫理問題への)判断や審査に加わるべきだ、とは思っていますが、ゲノム編集は非常に幅広い技術なので、それぞれの関係学会も自分のところだけではすべて把握できないし責任持てないということはあるでしょう。(そうした事情もあるので)国(審査検討機関)が学会にすべてを任せるということではなく何らかの形で関与すべきだろうと個人的には思います。

(サイエンスポータル編集長・内城喜貴)

山本 卓 氏

山本 卓 氏(やまもと たかし)氏プロフィール
1989年広島大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、同大大学院理学研究科動物学専攻。理学博士。 1992 年熊本大学理学部助手、2002年広島大学大学院理学研究科講師、2003年助教授を経て、2004年教授に就任、現在に至る。2016年4月に設立された日本ゲノム編集学会の初代会長となり、基盤技術の開発研究を先導するほか、ゲノム編集技術の啓蒙活動や倫理問題などについても積極的に発言している。

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