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基礎科学の重要性もう一度強調したい

東京工業大学栄誉教授 大隅良典 氏

掲載日:2016年10月18日

大隅良典氏(東京工業大学提供)
大隅良典氏(東京工業大学提供)

2016年のノーベル医学生理学賞受賞が決まった大隅良典(おおすみ よしのり)東京工業大学栄誉教授

(受賞が決まった10月3日夜、東京都目黒区の東京工業大学の大岡山キャンパス百年記念館で行われた受賞記者会見から記者会見冒頭の大隅栄誉氏のあいさつ。あいさつ内容テキストは東京工業大学提供)(カッコ内は科学技術振興機構サイエンスポータル編集部)

本日、夕刻にノーベル委員会から受賞のお知らせをいただきました。もちろん研究者としてはこの上もなく名誉なことだと思っております。この数年思いもかけずいろんな賞をいただくことになりましたけれども、ノーベル賞には格別の重さを感じております。ノーベル賞、私は少年時代にはまさしく夢だったように記憶しておりますが、実際に研究生活に入ってからは、ノーベル賞は私の意識の全く外にありました。

私は自分の知的な興味に基づいて、生命の基本単位である細胞がいかに動的な存在であるかということに興味を持って、酵母という小さい細胞に長年いくつかの問いをしてまいりました。私は人がやらないことをやろうという思いから、酵母の液胞の研究を始めました。

1988年、今から27年半ほど前に液胞が実際に細胞の中での分解に果たす役割に興味を持ちまして、東大の教養学部の私自身たった一人の研究室に移った時に始める機会があり、それ以降28年にわたりオートファジーという研究をしてきました。オートファジーという言葉は耳慣れないかと思いますが、酵母が実際に飢餓に陥ると自分自身のたんぱく質の分解を始めます。その現象を光学顕微鏡で捉えることが出来たということが私の研究の出発点になりました。馬場美鈴(ばば みすず)さんが電子顕微鏡でその過程を解析することで、実はそれがそれまで知られていた動物細胞のオートファジーという現象とまったく同一の過程であることがわかりました。

酵母は遺伝学的な解析にとっても優れた生物なので、早速私たちはオートファジーに必須の遺伝子を探すことを始めました。幸いこれも大学院生として所属していた塚田美樹(つかだ みき)さんの努力で、割りに短時間でたくさんのオートファジーに必須の複数の遺伝子をとることが出来ました。それらの遺伝子は実はオートファジーの膜現象に必須の装置であるということが私たちの解析で分かりました。幸いこれらの遺伝子は酵母のみならず、人とか植物細胞にも広く保存されているということが分かりました。こうしてオートファジーの遺伝子が同定されたことでこれまでのオートファジー研究の質が大きく変換をすることになりました。その後は様々な細胞でオートファジーがどのような機能をしているかということが世界中のたくさんの研究者によって解析され、今日に至っています。

写真1 受賞が決定した直後の10月3日夜、東京工業大学で記者会見する大隅良典氏(東京工業大学提供)
写真1 受賞が決定した直後の10月3日夜、東京工業大学で記者会見する大隅良典氏(東京工業大学提供)

私はずっと酵母という材料でオートファジーの研究をして参りました。酵母を使った基礎的な研究が今日のオートファジーの研究のきっかけになったということであれば、私は基礎生物学者としてこの上もない幸せなことだと思っております。もちろん現代生物学は一人でやりおおせるものではありません。この28年間、私の研究室でたゆまぬ努力をしてくれた大学院生、ポスドク、スタッフの方々の努力のたまものだと思っております。それから、酵母から動物細胞のオートファジーへと転換してくれました水島昇(みずしま のぼる、現東京大学大学院医学系研究科教授)、吉森保(よしもり たもつ、現大阪大学特別教授)両氏にも、今現在の動物細胞におけるオートファジー研究で世界を牽引している二人とも、今日の栄誉を分かち合いたいと思っております。オートファジーというたんぱく質の分解は細胞が持っているものすごく基本的な性質なので、今後ますますいろんな現象に関わってくることが明らかになってくるのを私も期待しております。

一つだけ強調しておきたいのは、私がこの研究を始めた時に、オートファジーが必ずがんにつながる、人間寿命の問題につながると確信して始めたわけではありません。基礎研究はそういう風に展開していくものだとぜひ理解していただきたいと思います。基礎科学の重要性をもう一度強調しておきたいと思っております。

写真2 受賞決定の翌日の10月4日、萬理子夫人と東京工業大学での記者会見に臨んだ大隅良典氏(東京工業大学提供)
写真2 受賞決定の翌日の10月4日、萬理子夫人と東京工業大学での記者会見に臨んだ大隅良典氏(東京工業大学提供)

これまで私に研究の場を与えてくれた東大教養学部、理学部、基礎生物学研究所、東京工業大学には厚く御礼申し上げます。これまでの研究のほとんどが文部科学省の科研費によって支えられたことにも感謝したいと思います。この間、私の研究を支えていただいた2人の恩師、この5月に亡くなられた今堀和友(いまほり かずとも、元東京大学名誉教授)先生、安楽泰宏(あんらく やすひろ、東京大学名誉教授)先生にも感謝の意を申し上げます。戦後の非常に大変な時代から常に私を温かく見守ってくれた両親にまず報告したいと思います。私の家族、とりわけ折に触れて私を支えてくれた妻、萬里子(まりこ)に深く感謝したいと思います。

(東京工業大学広報センター)

大隅良典 氏

大隅良典氏プロフィール
1945年2月9日、福岡市生まれ。67年東京大学教養学部卒。74年理学博士。東京大学理学部助手、講師などを経て96年から基礎生物学研究所教授。2009年に同研究所名誉教授となり、東京工業大特任教授。14年に東工大栄誉教授。06年日本学士院賞受賞、15年文化功労者。

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