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鍵握る指標づくり 持続可能な開発目標達成に

国連本部経済社会局統計部次長 大崎敬子 氏

掲載日:2016年2月17日

日本記者クラブ主催記者会見(2016年2月10日)から

大崎敬子 氏
大崎敬子 氏

最初は2、3年と考えていた国連勤務が27年となる。現在、勤めている統計部は、国連統計委員会の事務局として、加盟各国から提供される統計の収集とその提供、統計利用を促進することを任務としている。国際社会において、統計業務に対する関心は近年、ますます高まっている。効果的な政策を策定するためには、経験則的な政策論議に加えて、数値的なデータとその分析に基づいた適切な判断が不可欠という考え方が強まっているからだ。

国際的に比較可能な統計データがないと、各国の効果的な政策づくりには役にたたない。国勢調査をはじめ統計業務というのはお金がかかる。しかし、調査するからには国際的な比較ができないと意味がない。さまざまな国でつくられる統計に一貫性を持たせ、国際比較が容易にできるようにするために、事象の定義、分類、集計手順が極めて重要で不可欠の作業となる。国連統計部は、こうした役割を担っている。

統計能力が十分でない国々への技術協力も重要な仕事だ。私自身も、ミャンマーの国勢調査のお手伝いをさせていただいた。ミャンマーは30年間、国勢調査を実施していない。これからの国土計画に精度の高いデータが必要となったため、ミャンマーから国連に対して協力要請があった。これを受けてアドバイザリー委員会をつくり、国勢調査のやり方について事細かな助言をさせていただいた。

社会的弱者にも目を向けた開発目標

統計部の仕事はさらに忙しくなっている。昨年、9月の国連特別総会で2030年までの15年間をにらんだ国際目標である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されたからだ。「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」が盛り込まれている。2000年の国連ミレニアムサミットで採択された「ミレニアム宣言」に沿ってつくられた「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)」は、昨年までの15年間、国際的開発業務の指針として大きな役割を果たした。かなりの国がMDGsを達成するために必要な統計データを集めることができるようになった。こうした各国が結束した有益な試みを終了させてしまうのはもったいないということで、議論の結果、SDGsが今後15年間で達成すべき新しい開発目標として設定された。

2000年に採択されたMDGsは、八つの目標を掲げていた。社会開発に重点が置かれていたという批判もあったため、次の15年の新たな開発目標SDGsは目標が17に増えている。経済、社会、環境の3分野をカバーするバランスのとれた目標となっている。SDGsの特徴をよく表しているのが、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中に入っている「誰一人とり残さない(leave no one behind)」という記述だろう。貧困を無くし、差別を解消し、公平な社会をつくっていくという考えが背後にある。高齢者、子供、障害者といった社会的弱者も社会に取り込まれていることが把握できるような目標でなければならないということだ。

17の開発目標に229の指標

新たに設定された17の目標は、貧困、飢餓をなくすことから、健康、衛生、教育、女性の地位向上、環境保護など多岐にわたっている。それぞれの目標に細目があり、169のターゲットが採択された。これらのターゲットの進捗状況を測るための統計的な指標づくりが私たちの宿題となっている。昨年の6月から続けているが、これが膨大な作業だ。28の国から参加した統計の専門家が、会議やインターネットを介して169のターゲットに一番適した指標は何か、かんかんがくがくの議論を続け、229の指標を選んだ。MDGs ではターゲットは22で、指標の数は60だったから、ターゲット、指標とも大幅に増えている。

これらの指標を3月の統計委員会に提出し、そこで合意されれば、最終的に国連総会で公の指標となる。229の指標を使って目標達成に向けての進捗状況を測るためには、膨大なデータが必要になり、誰が責任を持ってデータを集め、どこに提出し、どのような報告をつくるか、これから討議しなければならない。

大きな挑戦

MDGsの時もそうだったが、目標は高めに設定される。貧困撲滅という目標を掲げてもゼロにはならない。乳児死亡率を3分の1以下にという目標も設定値が高すぎて達成することはできなかった。SDGsでは達成可能な目標の数値を設定してほしいとわれわれは望んだが、やはり政治的な意向も働き、結果としてかなり高い目標が設定された。

MDGsの国際貧困ラインは1日の生活費が1ドル、後に物価上昇などを考慮して1.25ドルになった。SDGsでは、議論の最中に世界銀行が、国際貧困ラインを1.90ドルにするという発表をした。結局、「国際的に合意した指標を持って」というあいまいな書き方になっている。今後の議論で1.3ドルになるか、1.5ドルになるか分からない。収入だけでなく多面的なインデックスで測った方がよいという議論もある。

指標をつくってみたものの、どのように測るのかという大きな問題もある。汚職、賄賂の撲滅、不正の撤廃といった目標に対しては、それぞれの国の年間の賄賂がどれくらいか、どのように測るか、合意された基準はない。犯罪率や賄賂の検挙数といった犯罪統計から間接的に測るほかないが、それが可能な国がどれだけあるだろうか。モニタリング(監視)は混乱すると思う。環境でも「適正な持続可能な生産とリサイクルを続ける」という目標が設定されたが、リサイクルを数字で出せる国があるのかなど、さまざまな穴を埋めていく努力が必要となる。15年かけてどのような努力がなされるか、大きなチャレンジだ。

(小岩井忠道)

大崎敬子 氏

大崎敬子(おおさき けいこ)氏プロフィール
東京女子大学社会学科卒。(財)国際開発センターに3年間勤務。米ジョージタウン大学院修士課程修了後、国連職員採用試験に合格し、1988∼2005年ニューヨークの国連本部経済社会局人口部に勤務。その間、タイ・マヒドン大学客員研究員としてタイ国内の人口移動に関する研究に従事。米フォーダム大学で博士号(社会学)取得。05年国連アジア太平洋地域経済社会委員会(ESCAP)社会開発部。09年から現職。主に人口社会統計、開発指標を担当。

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