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原子力部門は企業から切り離すべきだ(菅 直人 氏 / 前首相、衆議院議員)

2012.08.09

菅 直人 氏 / 前首相、衆議院議員

日本記者クラブ主催記者会見(2012年8月8日)から

前首相、衆議院議員 菅 直人 氏
菅 直人 氏

 昨年3月11日に発生した福島原子力発電所事故後の1週間を思い起こすたびに、「よくあそこで事故の拡大が止まってくれた」と思う。チェルノブイリ事故(1986年)については当時、一通りのことは聞いている。「核の暴走による爆発だった」と。しかし、当時、専門家に聞いたところでは、「日本の場合、格納容器から放射性物質が漏れることはない」ということだった。今回も「格納容器から水素が漏れて、原子炉建屋の中で爆発が起こる」など、ほとんど想定されていなかったことだ。首都圏の人々が逃げ出さなければならないという状況には至らなかったが、もっと大変なことになる可能性は十分にあった。

 最近の議論、特に経済界の人たちは「原発を稼働しないと電気料金は上がり、日本経済に深刻な影響が出る」といった議論ばかりしている。部分的にはそういうこともあるかもしれないが、「何か忘れてはいないか」という思いだ。あの時、紙一重のところを越えて、3,000万人もの人が首都圏から逃げ出すような事態になっていれば、そのダメージがどれほど大きかったか、ちゃんと計算して言っているのだろうか。きちんと計算した上で「多少危険でも原発をやらなければならない」と言っているのだろうか。

 3,000万人もの人が首都圏から逃げ出すということは、「いつか帰って来られる」という話ではない。経済、生活ばかりか国家そのものが存亡の危機に陥るということを意味している。日本だけでなく世界中に大量の放射性物質をまき散らすことになる。事故を経験した人間として、そういう共通認識をしっかり持って、今後のことを考えるべきではないか。事故からわずか1年あまりしかたっていないのに、それを忘れ去ったかのような議論をするというのは、私には考えられない。

 法律上、通常の原発のオペレーションは電力事業者がやるのは当然として、過酷事故の時、自衛隊に派遣要請をするといった判断を一民間企業が担うことは無理。原子力部門は電気事業者から切り離して、「原子力公社」に集めるということを早めにやるべきだ。その上で、継続するかしないか、継続するならバックエンドまで含めたプラスマイナスを総合して見る必要がある。

 現在、3つの選択肢について議論が行われているが、10万年もの間、隔離しなければならない高濃度放射性廃棄物にかかる費用を計算することができるか。事実上出来はしない。そういう点から言っても、原子力発電は民間企業がやるにはふさわしくない。

 再生可能エネルギーについて、固定価格買取制度は「失敗している」「高すぎる」などと、一部から批判の声が出ているが、ドイツもスペインも失敗したわけではない。間違いなく増えている。まして日本では、まずやってみることが大事だ。

前首相、衆議院議員 菅 直人 氏
菅 直人 氏
(かん なおと)

菅 直人(かん なおと)氏のプロフィール
宇部市生まれ、東京都立小山台高校卒。1970年東京工業大学応用物理学科卒、80年衆院議員初当選、96年橋本内閣で厚生相、96年民主党共同代表、98年民主党代表、2009年副総理、10年財務相、10-11年首相。

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