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国際競争力あるシステム構築とは(桑原 洋 氏 / 日立製作所 名誉顧問、元総合科学技術会議 議員)

2012.03.12

桑原 洋 氏 / 日立製作所 名誉顧問、元総合科学技術会議 議員

科学技術シンポジウム「システム構築による重要課題の解決に向けて」(2012年3月2日、科学技術振興機構研究開発戦略センター 主催)パネルディスカッションから

日立製作所 名誉顧問、元総合科学技術会議 議員 桑原 洋 氏
桑原 洋 氏

 これからはグローバルな事業展開が欠かせない。製造業で言えばこれからの日本の企業活動はGDP(国内総生産)に代わる新しい指標が必要ではないか。海外で雇用を確保、生産を上げ、もうけることを日本の一つの形にしなければならない。政府の成長戦略の中で、システムが重要であることが決まった。われわれの先行するシステムを魅力ある海外輸出製品に仕上げるため、政府の方針に呼応して産業界も動いているところだ。

 対象となる輸出対応産業にはどういうものがあるか。代表的なものを挙げると、今回の事故経験を生かした安全性の高い原子力発電システム、海水淡水化システム、交通システム、新しい運送システムなどがある。

 大学の先生方にもぜひ理解してもらいたいのは、システム設計においてどのような頭脳活動が行われているか、ということだ。それを理解していただかないと、学問、学術の側から産業界を助けてもらえない。

 システム構築で最も大事なことは、目的を明確にすることだ。どのくらいお金をかけて、いつまでに、どういう物をつくり、どれだけもうけて、社会に貢献するか。これらを明確にすることが一番大事だ。目的を明確にした後は頭脳を働かせ、答えを出していくわけだが、その時まず基礎になるのはシステムを構築する個人の知。過去の悪い経験、よい経験、学校で学んだこと、周囲から教えられたこといろいろあるだろう。しかし、それだけでは足りない。チームとして知の統合が必要になる。それでもほとんどの場合、まだ不足だから、全世界の知を目的に応じてどれだけ取り込めるかが大きな勝負になる。

 いずれにしろ限られた人間で知の構造を練り上げるわけで、そこで重要なのが気力、特にマネージャーの気力だ。答えが一応、出されたときに「これじゃ勝てないじゃないか。駄目だ」と言い続けないと、よいシステムはできない。気力、ひらめき、発想力で目的に応じたシステムを練り上げることが必要だ。それからは学術界にサポートしていただき、モデリング、シミュレーションで定量的な評価をする。さてそれでよいかとなると、ほとんどの場合は駄目だ。新しい知、技術を加えてさらに練り上げ、世界で勝てる最終的なシステムに持っていかなければならない。

 ここでもう一つ大事なのは、必ずシステム構築には妥協があるということ。ここまでやりたいけれど時間が間に合わない、そんなにお金を使えない、といった妥協があって、最終的なシステムの構築に移行していくわけだ。この過程においても全世界の知をいかに集められるかが鍵となる。学術界には、知の集積とともに目的に応じて役立つ検索エンジンとしてのサポート機能を期待したい。それと発想法も。

 こういう活動が実際のシステム設計の中身であることを理解してもらいたい。

日立製作所 名誉顧問、元総合科学技術会議 議員 桑原 洋 氏
桑原 洋 氏
(くわはら ひろし)

桑原 洋(くわはら ひろし)氏のプロフィール
埼玉県立浦和高校卒。1960年東京大学工学部電気工学科卒、日立製作所入社。大みか工場長、取締役機電事業本部長、専務取締役、代表取締役 取締役副社長などを経て、99年代表取締役副会長。2003年日立マクセル取締役会長、日立電線取締役会長、日立国際電気取締役会長。06年日立製作所特別顧問、07年日立マクセル相談役、09年から日立マクセル名誉相談役、10年から日立製作所名誉顧問。01-03年総合科学技術会議議員。08年11月海外の水ビジネスに意欲を持つ企業が設立した「海外水循環システム協議会」の理事長も。

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