コラム - ハイライト -

科学者と政策立案者の役割分担を明確に

米科学アカデミー原子力放射線研究委員会運営責任者 ケビン・クロウリー 氏

掲載日:2011年12月26日

シンポジウム「東京電力福島原子力発電所事故への科学者の役割」(2011年11月26日、日本学術会議、研究開発戦略センター主催)基調講演から

米科学アカデミー原子力放射線研究委員会運営責任者 ケビン・クロウリー 氏

ケビン・クロウリー氏

 

福島の事故は国境を越えたものになっており、科学者の責任はますます重要になっている。ここでいう科学者とは、科学者、技術者、医師などさまざまな専門家を含めたものだ。公共政策の立案者、個々人の選択は、科学者の研究結果から得られた情報に基づいている。その情報がどのような意味を持つかよく知っているのは科学者だから、情報を伝えるのも科学者が一番うまいはずだ。

しかし、科学者は政策立案の専門家ではない。それは選挙で選ばれた政治家の仕事である。科学者が特定の政策や見解を提唱すると、信頼を失いかねない。政策立案は、科学だけでなく、一般人の好み、文化的規範、経済性といったさまざま要因を勘案して決められるものだからだ。科学だけに基づいて決められることはほとんどない。科学者の役割は、政策立案者の賢明な意思決定に貢献することと言える。

福島原発事故を例にとってみる。福島原発周辺の避難地区の規模と場所をどうすべきか、 

という質問に対しては、科学者が客観的な科学的手法を使って答えられるのは、どれだけの放射性物質が放出され、どこに行ったか、健康へのリスクはどうか、ということについてである。しかし、規範的(normative)な手法でしか答えられないこともある。どのレベルの健康リスクなら受け入れられるか、つまりどれだけ安全であれば、十分安全と言えるのかということだ。個人の価値観、好みの問題といった科学と関係のない要因も入れないと答えは出せず、国によっても異なるし、時間がたてば答えも変わってくるかもしれない。

原子力の将来はどうあるべきか? 日本にとって今重要な問題になっている質問になると、さらに複雑になる。どのような代替エネルギー源が利用できるかは、それぞれの代替エネルギー源について技術開発の世界的状況を見れば科学的に答えられる。代替エネルギー源にどのようなリスクがあるかも、それぞれ技術、健康リスクがどのくらいかを科学的に答えることは可能だ。

また、科学と政策の中間的質問もある。どのくらい早く代替エネルギーが開発できるか、である。技術開発の状況を精査することは科学的手法で可能である一方、経済性に関わる土地利用や予算の優先順位付けなどは規範的(normative)な問題として答えられる。ただ最後には純粋に規範的(normative)な手法でしか答えられない質問がある。どれだけのリスク、コストなら受容できるか、という問いだ。

ここから2つの教訓が得られる。政策立案者は、どのような情報が必要かを科学者に提示しなければならない。科学者は、政策立案者の質問をよく理解し、必要とされる客観的情報を提供する必要がある。ただし、政策については政策立案者に任せるということだ。

米科学アカデミーは、南北戦争最中の1986年に設立された。戦争で科学者の声が必要だったから政府がつくったのだが、独立の非政府機関だ。非営利の機関で、政府に助言することによって利益は得ない。調査、研究を行うための実費をもらうだけだ。1年に200-300もの報告を出しているが、ほとんどが政府からの要請に応じたものだ。調査研究には年間6,000人以上のトップレベルの科学者、技術者、医師が参加している。海外からの協力もある。これらの科学者たちはボランティアで、お金は支払われない。科学アカデミーの調査研究に参加することは名誉であり、公への奉仕だ、と考えてもらっている。

私が担当しているのは、原子力・放射線研究部門で、これまで調査した中には、低レベルの放射線被ばくの健康リスクを検討し、従業員や一般人に対する放射線防護基準を決めてほしいと頼まれたものもある。広島、長崎の被ばく調査結果を大いに利用させてもらった。

また、使用済み核燃料が、乾式、湿式施設でそれぞれ貯蔵中に事故やテロにあった時、どのようになるかの調査も依頼されたことがある。調査結果はNRC(原子力規制委員会)に送られ、使用済み核燃料の管理方を変える結果になった。間もなく、議会からも「福島原発事故の教訓を、米国の原子力発電所運転にどう生かすか、という要請が来ると思われる。上院で審議中だが、法案ができれば、われわれは日本政府や関係者と協力することを要請される。

なぜ、米科学アカデミーが米政府からも市民からも信頼される助言提供者とみなされているか。それはまず独立の機関であるということだ。われわれの調査、研究に政府は口出ししない。次に中立であるということ。特定の政治思想には関わらず、議会との関係においても民主党、共和党いずれともきちんと連携している。設計思想から多くの科学者が一緒になって、統一された声になるよう意識した形で調査、研究のプロセスが設計されている。それぞれの分野のトップを選び、バランスの取れた専門家グループをつくるための念入りなプロセスができている。

さらに、厳しいピアレビューを経た後に公表される。調査に直接関わらなかった人々、団体が自分たちの意見を反映させたいと考える場合、どのような形が可能かも明文化されている。

国際協力も重要だ。幸い多くの国に科学アカデミーのような機関がある。2国間の協力、多国間の協力をロシア科学アカデミーとはソ連時代からの50年続く協力関係がある。放射性廃棄物管理や核燃料サイクル、核不拡散など両国の科学者がすることで、両国政府にも大きな影響を与えてきた。

科学アカデミーが一般からの信頼を得られているのは、助言をまとめるプロセスが透明であることが大事だ。一般公衆の意見を反映するプロセスが入っており、調査の成果を一般の人々も使えるようにしていることだ。

また調査結果をどのように伝えるかも大事。科学者同士で使っている言葉が、一般には全く違った意味で捉えられることよくある。この問題を解決するには、一般の人に説明できる言葉で伝えることが必要となる。政策立案者に対しても同様だ。

日本と米国は文化の違いもあり、米国のやり方がそのまま当てはまるとは限らない。日本が自らベストなアプローチを見つけることが必要だが、米国のやり方が参考になれば幸いだ。

="">
ケビン・クロウリー氏
(kevin・Crowley)

ケビン・クロウリー(kevin・Crowley)氏のプロフィール
プリンストン大学で地質学を修め博士号取得。マイアミ大学オハイオ高、オクラホマ大学、米地質調査所で教育・研究職を経た後、1993年米科学アカデミースタッフに。現在は米科学アカデミーが中心となっている全米研究会議(NRC)の原子力放射線研究委員会(原子力の安全性と安全保障、放射性廃棄物管理、環境浄化、放射線の健康への影響などを対象)の運営責任者を務める。

ページトップへ