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低炭素社会こうして実現する
第2回「エネルギー効率向上が鍵」

科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター長、三菱総合研究所 理事長、前東京大学 総長 小宮山宏 氏

掲載日:2010年6月28日

シンポジウム「日々のくらしのグリーン・イノベーション」(2010年4月13日、科学技術振興機構 主催)基調講演から

科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター長、三菱総合研究所 理事長、前東京大学 総長 小宮山宏 氏

小宮山宏 氏

 

それでは、自動車の消費するエネルギー、あるいは自動車のエネルギー効率は何倍になるのだろうか。欧米と日本を比べてみると、同じ重さの車で20%もエネルギー消費が違う。日本のエネルギー効率が高く技術も高いことを示すよい事例で、ハイブリッドになるとさらに半分になる。電気自動車、燃料電池車になると、さらに半分になる。

2050年に車は燃料電池車と電気自動車になっているだろう。そうすると、それだけでエネルギー消費は今の車に比べ5分の1になる。さらに電気自動車や燃料電池車になると燃焼部分がないから、プラスチックのような材料を使うのに非常に適している。恐らくカーボンナノファイバーなどとても安くなるだろうから、そういう最先端の技術もあって車の軽量化が進む。電気自動車、燃料電池車で今の半分くらいの重さになるとすると、エネルギー消費が10分の1とか20分の1になってしまうということだ。

2050年ごろになれば世界で現在の3倍から5倍くらいの車が走ることになるだろう。中国で皆が車に乗ったら地球は破綻(はたん)だ、などと言われているが、そんなことはない。きちんと技術でもって燃費をよくすれば10分の1になるから、3倍の車が走ってもエネルギー消費は逆に3分の1に減らせるということだ。

私が「ビジョン2050」をつくった20年前、2050年には当時の5分の1のエネルギーで車は動くと仮定した。その時はほとんど皆、信用しなかったけれども、ハイブリッドが出て、電気自動車などのモデルも出たので、今言ってもそう皆さん驚かないのではないかと思う。理論というのは間違わない。

ただ、何でもエネルギーが減るわけではなく、セメントはもう減らない。セメントは炭酸カルシウムの吸熱反応で作るので、この熱だけはどうしても供給しなければならないからだ。日本の最先端のプロセスは、既に理論値の1.5-1.6倍まで来ている。米国は日本の60-70%も大きなエネルギーを使っており、さらに中国は世界のセメント生産の半分くらいのセメントを今作っており、効率も多分米国並みかそれ以下と言われている。これが日本と同じ効率で生産すれば、世界のセメント生産の半分が1.7分の1のエネルギー消費でできるようになるわけだ。

さらに、リサイクルが省エネルギーになる。先ほど言ったように人工物は飽和する。廃車したのと同じ数の自動車をつくればいいし、ビルは壊した分だけ、新しいビルをつくればいい。ビルをつくる鉄、あるいは太陽電池をつくるアルミニウム、こういうものはもう天然資源を掘る必要がなくなる。これが人工物の飽和ということだ。そうなるとリサイクル社会になる。今でも鉄、アルミニウムという基本的な金属は、リサイクルされている。別に規制をかけているわけでもないのになぜか。安いからだ。なぜ安いのか。エネルギーを食わないからだ。鉄鉱石を掘り出し、コークスで還元して鉄にするのと比べると、スクラップなら集めてきて溶かすだけ。鉄鉱石から鉄をつくる場合には還元のエネルギーが必要だが、スクラップの場合には溶かせばいい。還元エネルギーと融解エネルギーの差は27対1もの違いがある。

アルミニウムは、ボーキサイトつまり酸化マグネシウムを電気分解してつくる。スクラップから作れば、エネルギーは工場で調べても30分の1ですむ。リサイクル社会というのは、低炭素社会ということだ。世界の自動車の数が一定になり、エネルギー効率が5倍になる。セメントのようなものは技術移転で世界のエネルギー効率を上げていく。リサイクル社会になる。こういった基本的なことをすることで、エネルギー効率を平均して3倍に上げることができるはずだ。

2050年には人口が90億人くらいに増える。恐らくほとんど世界のすべてが今の先進国並みの状況になるだろう。そのときに日本や欧州並みのエネルギーを消費すると考えると、エネルギー消費は大体3倍になる。1人当たり1年に2.3トンの炭素を90億人が消費すると考えると3倍になる。大気中の二酸化炭素(CO2)濃度も600ppmになるし、石炭ですら枯渇が議論されるというような消費状況になる。これは破綻のシナリオだ。

しかし、「ビジョン2050」のように、車の数が増えてもエネルギー効率を3倍にすれば、現状1990年と同じエネルギーの消費量で済むことになる。そして非化石エネルギーの部分を倍にする。これが「ビジョン2050」の第2のアサンプション(前提)だ。

ここで重要なのは、低炭素社会というとすぐに化石資源に代わる代替エネルギー、原子力か太陽電池かという議論になりがちだが、それは明確に間違いということだ。20年間言い続けているけれども、今でも皆が間違えている。

一番大事なのはエネルギー効率を上げることで、エネルギーの需要を減らす。ここに最先端の技術が必要になる。自動車の軽量化の技術など、素材から部材までさまざまな最先端の技術が必要になるということだ。

(続く)

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科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター長、三菱総合研究所 理事長、前東京大学 総長 小宮山宏 氏
小宮山宏 氏
(こみやま ひろし)

小宮山宏(こみやま ひろし)氏のプロフィール
東京都立戸山高校卒。1967年東京大学工学部卒、72年東京大学大学院化学工学専門課程博士課程修了、88年東京大学工学部教授、2000年工学部長、大学院工学系研究科長、03年副学長、05年総長、09年三菱総合研究所理事長。09年12月科学技術振興機構が設立した低炭素社会戦略センターの初代センター長にも。自宅を太陽光発電やヒートポンプを取り入れたエコハウスとし、温室効果ガス削減を実生活でも実践していることでも知られる。著書に『Vision 2050 -Roadmap for a Sustainable Earth』(Steven Kraines)、「サステイナビリティ学への挑戦」(岩波書店)、「『課題先進国』日本:キャッチアップからフロントランナーへ」(中央公論新社)など。

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