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炭素社会こうして実現する 第1回「人工物の飽和 - 意外に理解されていない問題」(小宮山宏 氏 / 科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター長、三菱総合研究所 理事長、前東京大学 総長)

2010.06.22

小宮山宏 氏 / 科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター長、三菱総合研究所 理事長、前東京大学 総長

科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター長、三菱総合研究所 理事長、前東京大学 総長 小宮山 宏  氏
小宮山宏 氏

 低炭素社会戦略センターは、答えを出していく。もちろん分析はするが、大事なことは答えを出していくこと。20世紀は「大変だ」という警告を発する時代だったが、21世紀は、答えを出して行動を起こしていかないと間に合わない。

 私は「ビジョン2050」という提案を20年ほど前からしている。その骨子は、エネルギー効率を3倍にする。再生可能エネルギーを2倍にする。物質循環システムを構築する。この3つが根幹となる。再生エネルギーは、非化石エネルギーと言ったほうがより正確で、原子力を含む。20年前に提案したこのビジョンは正しいと確信している、大体この方向にいろいろなものが向かっていると思っている。

 重要なコンセプトの一つに、人工物の飽和ということがある。案外理解されていない問題だ。地球の面積が一定で、人口も飽和に近くなっている。現在67-68億人の地球の人口は、2050年には90億人になるといわれている。面積が一定の地球の中でいろいろな人工物がどうなっているかを見ていくと、先進国は一目了然だ。例えば車は、2人に1台くらい所有されたところで台数は飽和する。日本なら7,000万台で、これ以上もう増えない。軽自動車やトラックを含め7.000万台が大体12年で買い替えられるとなると、7,000万割る12で1年間約600万台。これが日本の車の内需ということになり、実際この20年近く変わっていない。

 住宅を見ると今6,000万戸あるがこのうち1,000万戸は空き家だ。世帯数が5,000万で住宅も5,000万戸だからこれ以上増えない。平均50年でもし建て替えられるとすると、5,000万割る50で、1年に100万戸というのが国内で売れる新築家屋の数となる。人工物の飽和、需要がこういう構造になるということが、先進国における需要不足、生産過剰の本質的な背景だ。これが非常に重要なことといえる。

 では、今世界を引っ張っている中国はどうか。中国は大きいからしばらくもつのではないかと考える人が多いが、大きいところは入る数も大きい。時間がそんなに変わるわけではなく、むしろ時代とともにスピードは速くなっている。

 セメントの使用量で見てみると、中国は2008年までに既に一人あたり11トン投入している。米国は16トン、フランスは22トンで、日本は26トンだ。中国は後2年で米国、6年でフランス、10年で日本に追いつくだろう。このままいくと数年で中国のセメントも、ほぼ先進国の飽和状態に近づくということだ。

 自動車から見てみる。先ほど2人に1台で先進国は飽和すると言った。だから100人が50台車を所有し、平均12年で廃車にすれば、毎年100人に4台売れるわけだ。100人に4台というのが、定常状態に入ったときの先進国の需要ということになる。日本は、100人に1台ある時代になってから100人に4台に達するまでに、6年しか要していない。韓国も同じだ。日本より22、23年遅れて1987年に100人に1台となり、それから100人に3台というところまで5年しかかかっていない。

 ちょうど昨年、2009年に中国は1300万台、つまり人口100人につき1台売れるという時代に入った。特に中国が、日本、韓国よりもスピードが遅れるという感じは、今までのデータをいろいろ調べる限りない。そうすると、自動車の販売ということから見ても、セメントの使用量を考えても、中国で人工物が飽和に近づくのは5年から10年だと考えていいということではないかと思う。つまり、人工物は飽和に向かう。これがとても重要なことだ。

科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター長、三菱総合研究所 理事長、前東京大学 総長 小宮山 宏  氏
小宮山宏 氏
(こみやま ひろし)

小宮山宏(こみやま ひろし)氏のプロフィール
東京都立戸山高校卒。1967年東京大学工学部卒、72年東京大学大学院化学工学専門課程博士課程修了、88年東京大学工学部教授、2000年工学部長、大学院工学系研究科長、03年副学長、05年総長、09年三菱総合研究所理事長。09年12月科学技術振興機構が設立した低炭素社会戦略センターの初代センター長にも。自宅を太陽光発電やヒートポンプを取り入れたエコハウスとし、温室効果ガス削減を実生活でも実践していることでも知られる。著書に『Vision 2050 -Roadmap for a Sustainable Earth』(Steven Kraines)、「サステイナビリティ学への挑戦」(岩波書店)、「『課題先進国』日本:キャッチアップからフロントランナーへ」(中央公論新社)など。

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