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「人のやらないことをやる」に活路を(伊澤達夫 氏 / 東京工業大学 理事・副学長)

2010.06.02

伊澤達夫 氏 / 東京工業大学 理事・副学長

シンポジウム「環境・エネルギーと電気電子情報技術」(2010年5月28日、日本学術会議 主催)基調講演から

東京工業大学 理事・副学長 伊澤達夫 氏
伊澤達夫 氏

 日本のGDP(国内総生産)は、1955年から着実に上がって来たが、最近、停滞している。この中で電機・電子産業がどのような位置を占めていたかは、実質GDPに占める製造業の業種別シェアの変化を見ると分かる。1970年ごろはほとんどゼロだったのが年を追うごとに増えていく。98年には約27%に達した。70年から98年の間にGDPも約100兆円から500兆円近くまで急拡大した。電機・電子産業は多くの同業者がよい意味で競合し、消費者が求めるものを効率的に製造、販売し、急拡大する。このころ私も1技術者として電機・電子産業を取り巻くいろいろな環境がよくなってきたことを実感している。研究開発投資も大規模に行われた。

 しかし、今は急激に伸びてきた勢いをほとんどなくしている。競合が激しくなった結果、多くは利益の出ない企業に変質し、研究開発投資も非常に小さくなっているのが実態だ。大変、元気な米国の企業との違いは大きい。

 日米の企業の違いは何か。各社の年次報告から見てみると売上高はそれほど変わらないのに、ネットインカム(純利益)が大きく異なる。結果として、研究開発費も大きく違う。マイクロソフトを例に取ると売り上げは580億ドル、1ドル100円で換算すると5兆8,000億円あり、1兆4,500万円の純利益を上げている。インテルも同様で、これが米国の優良企業の実態だ。これに対し、日本企業は純利益が非常に少ない。

 米企業は事業内容がシンプルで、一つか二つの事業しかやっていない。日本は総合企業として多くの事業を展開している。米企業が大きな利益を上げ、比較的狭い分野に多額の研究開発費を投じているのに対し、日本は少ない利益で、投資も多くの研究開発分野へ分散している。

 なぜこのように大きな違いが出てきているのか。米国の場合、ベンチャー企業ができて10年前後で大企業になったところが多い。日本はソニーを除くと創業が古く、最初はベンチャー企業だったのに変革が遅れた結果、利益の出ない名門企業になってしまっている。

 日本は同じ業種に多くの企業が参入して、競合する文化があり、通信機器を製造する企業もたくさんある。米国には通信機器メーカーはほとんどなく、有名企業もフランスの企業と合併したり、つぶれてしまっている。日本は不採算の事業部を採算がとれている事業部が結果的に支援し、新規事業のリスクをとらないようになっている。これでは利益の出る企業はなかなか出てこない。

 これからはよそでもやっている研究や技術開発への参入はやめ、ものづくりも大事だがもっと付加価値を付けることを積極的に考えることが必要だ。さらに遠慮がちに話すという日本特有の文化を変え、自分の研究の独創性を明確に主張すべきだし、新しい分野を切り開いた人、独創的な研究を行った人をもっと尊敬し、敬意を払うべきだ。そうすることで若い人がこの分野に入ってくるような環境をつくることもできる。

 ソニーの創業者である井深大さんは「人のやらないことをやる」と常々、言っていたそうだ。今に至ってもこのメッセージは繰り返し実践すべきだ。そうすることにより、勢いが落ちている電機・電子産業を再び活性化していくことができると確信している。

東京工業大学 理事・副学長 伊澤達夫 氏
伊澤達夫 氏
(いざわ たつお)

伊澤達夫(いざわ たつお)氏のプロフィール
東京都立西高校卒。1965年東京大学工学部卒、70年東京大学工学系研究科電子工学専攻博士課程修了、日本電信電話公社電気通信研究所研究主任。62年日本電信電話株式会社基礎研究所物質科学研究部長。同社光エレクトロニクス研究所長、研究開発本部副本部長、取締役基礎技術総合研究所長を経て、1998年NTTエレクトロニクス株式会社代表取締役社長。2004年同取締役相談役、07年同特別顧問、2007年から現職。低損失の光ファイバーを量産化する気相軸付け技術「VAD法」を開発したことで知られる。

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