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グリーン成長 - 韓国にとって唯一の生きる道(朴賛謨 氏 / 韓国研究財団(NRF) 理事長)

2010.05.21

朴賛謨 氏 / 韓国研究財団(NRF) 理事長

シンポジウム「低炭素社会を目指すグリーン・イノベーション促進のための国際協力」(2010年5月17日、科学技術振興機構 主催)基調講演から

韓国研究財団(NRF) 理事長 朴賛謨 氏
朴賛謨 氏

 李明博・韓国大統領は、2008年8月15日、韓国建国60周年の時、低炭素・グリーン成長(Green Growth)を韓国の新ビジョンの核にすることを発表しました。グリーン成長とは、温室効果ガスの排出を軽減し、環境破壊を防ぎ、持続可能な成長をしていくということです。新しいパラダイムとして、新しい成長と雇用をグリーンテクノロジーなどを通じて推進していくというものです。

 韓国のこの60年間を振り返りますと、1946年から2006年で人口は2倍になり、一人あたり国内総生産(GDP)は240倍に、GDP自体は660倍になりました。このほとんどは、科学、技術、特にIT(情報技術)によるものです。過去60年間、韓国が行ってきたのは経済成長でした。次の60年間に政府が取り組むのがグリーン成長です。これは単に新しい政策ということではなく、新しいパラダイムとして、人々の考え方、行動を変えていこうというものになります。

 グリーン成長というのはオプション(選択の自由)ではありません。韓国にとって今後生き残っていくための唯一の選択肢なのです。韓国政府は、大統領が議長を務める大統領直属のグリーン成長委員会を組織しました。委員会では、低炭素、グリーン成長に関する施策の調整・レビューを行った上で、アクションプランを作成し実行しています。09年2月に低炭素・グリーン成長基本法の草案を作成し、4月に施行されました。さらには国の5カ年計画も実施されます。

 グリーン成長につながるテクノロジーが重要です。これは新しい成長のエンジン(原動力)になります。グリーンエネルギー・パラダイム、そしてグローバルコミュニティへの貢献、さらには世界人類の生活の質の向上に貢献することになります。では、グリーンテクノロジーとは何なのか。韓国のコンセプトは次のようなものです。これまでグリーンテクノロジーというと、新エネルギーや再生可能エネルギー、原子力エネルギー、インテリジェント交通車両、インテリジェントビル管理などが言われていました。現在では、例えば、公害や廃棄物の処理など、さまざまな課題に対応して、IT、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、環境技術などすべてを組み合わせて、今後台頭して来るであろう新しい技術を作り出していくことがグリーンテクノロジーになります。

 現在の韓国におけるグリーンテクノロジーの状況を説明します。韓国のレベルは先進国の50-70%です。世界市場の占有率としてはたった1.4%にすぎません。グリーン競争力指標としては、主要15カ国のうち、日本が1位で米国が7位ですが、韓国は11位です。グリーンテクノロジーのレベルを2012年には80%にし、20年までには先進国の90%にまで上げた。さらに12年までに16万人以上の雇用を創出することを目標にしています。世界市場の占有率も12年までに7%以上、20年までには10%以上に、と考えています。

 低炭素・グリーン成長を達成していくためには、すべての国のセクターからのサポートが重要になります。そのために5つの協議会を設置しました。私が議長を務める科学技術協議会、地方政府協議会、産業界が参加するビジネス協議会、財務・金融協議会、民間非営利団体(NPO)や非政府団体(NGO)といった普通の人々から構成されるグリーンライフ協議会です。

 科学技術協議会には、5つの専門家グループがあります。研究開発(R&D)、技術移転・商業化、教育、インフラ、国際協力です。国際協力というのは科学技術協力の中でも最も重要な一つです。韓国政府は、グリーンテクノロジーに多くの予算を配分しています。また、基礎研究についても今後、力を入れていきたいと思っています。例えば、昨年から今年にかけて、政府予算の基礎科学関係予算は300%増加しました。他のR&D予算の増加率が30%ですので、かなり大きなものになります。

 グリーンテクノロジーに関するR&D予算ですが、08年の総投資が1兆ウォン(8.7億ドル)、09年は1.2兆ウォン(10.4億ドル)、10年予算では1.4兆ウォン(12億ドル)になります。例えば、原子力エネルギー、インテリジェント交通システム、ニューシティ、スマートグリッド、海洋環境などへの投資が増やされました。

 韓国政府は非常に強力なリーダーシップを持っています。大統領がグリーンテクノロジーの重要性を常に協調しています。さらに5つの協議会には国内の代表的なプレイヤーが参加しています。ビジネス協議会には産業界も積極的に参加しています。財務・金融協議会では、ITを利用したコンバージェンステクノロジー(金融技術の一つ)などを進めています。

 大統領は科学技術に関して政策を策定すると確実に実行しています。ビジョンを実際に実現化し行動につなげていくということが重要です。大統領はGDPの2%をグリーン予算とすることを約束してくれました。

 今後活力を持続するためには、すべての人々を巻き込んでいくことが重要です。そのために、5カ年実施計画がありますし、政府によってグリーンニューディールも発表されました。プライベートやパブリックの財政をグリーン成長に向けて再構築していくことも発表されました。R&Dに関しても同様です。

 低炭素・グリーン成長基本法がこの4月に施行されました。7章65条項からなっています。すべての必要な成長がカバーされています。この基本法が最も高い優先度を持っています。今後、国の政策を立てていくための法的根拠になりますし、グリーン経済、グリーン産業、そして現在の業界をグリーンビジネスに変革していくための支援をしています。またグリーンR&D、グリーン投資を行っていきます。

 さらに温室効果ガス排出に関して、具体的な目標を立てていきます。温室効果ガスの削減・低減、エネルギーセキュリティ、再生可能エネルギー供給が盛り込まれています。ビジネスによる温室効果ガス排出の削減というものは、それぞれのビジネスが今後、報告をすることが必須となっています。例えば20年までに何%削減するかを宣言しなくてはなりません。さらには環境に優しい土地の利用、グリーンビルディング、低炭素交通、グリーン消費・生産があげられます。

 こうした取り組みによって、世界の中でのモデル国家を目指しています。気候変動の軽減、エネルギーの自立、そして経済成長に関する新しい原動力をつくっていく、さらには生活の質(QOL)を向上し、国際的なリーダーシップを発揮していく。このために10のアジェンダ(行動計画)があります。グリーン・イノベーション・テクノロジーに関しての戦略プロモーション(促進)などがあります。そして、核となるグリーンテクノロジーが、発光ダイオード(LED)、CCS(二酸化炭素貯蔵・回収技術)、クリーンカー、再生可能エネルギー、スマートグリッドなどです。

 グリーンテクノロジーに関する投資ですが、12年にはR&D予算の16%、20年には20%、50年には30%にしていきたいと思っています。国としての中期の温室効果ガス削減目標は、20年までにBaU(現状から特段の対策を行わない場合の推計値)から30%削減することを考えています。もちろん、非常に厳しすぎるという指摘もありましたが、今では合意を得ています。

 本格的なグリーン成長戦略を実施し、韓国を先進国として位置づけ、グローバル韓国モデルを示すという3つの目的を達成するため、国全体で7大実践課題というものを設定して、取り組んでいます。国としての削減目標の達成、10大削減技術の創造・促進、主要産業のグリーン化、グリーン交通・グリーンビル・グリーンファイナンシャルの促進、グリーンライフスタイル、エネルギー価格・エコフレンドリーな税制、国際協力があります。

 この7つの中で3つの重要課題についてお話しします。まずは、10大中核グリーン技術の成長エンジン化と優秀グリーン技術の創造・促進をしていくということ。例えば、次世代2次電池ですとか、改良型軽水炉、そして高度水処理、二酸化炭素貯蔵・回収技術、スマートグリッドが成長原動力としてあげられています。

 グリーンライフスタイルに関してですが、「Me First」つまり「私から」ということを掲げています。例えば、私は今日、グリーンのネクタイをしています。韓国にいらっしゃれば、多くの男性がグリーンのネクタイをしていることに気づくかもしれません。大統領委員会で多くのグリーンのネクタイを作製しました。そして委員会に来た人に無料で配布しているのですが、このグリーンネクタイを身につけることにより、いつでも韓国の重要な方向としてグリーン政策があることを意識します。この「Me First」というコンセプトを実践していくことが重要です。例えば、実践キャンペーン、カーボンフットプリント、グリーン商品などについてもさまざまな取り組みを行っています。

 さらに新たな国際協力を進めていきます。グローバルにグリーン成長の研究所を作って、それに対する投資をしていこうと思っています。

韓国研究財団(NRF) 理事長 朴賛謨 氏
朴賛謨 氏
(パク・チャンモ)

朴賛謨(パク・チャンモ)氏のプロフィール
ソウル大学卒、米メリーランド大学カレッジパーク博士課程修了。専門はコンピュータ工学、情報科学工学。米国、ドイツ、日本での海外研究生活経験も豊富で、北朝鮮とも平壌情報センターとのバーチャルリアリティに関する共同研究にかかわった。03年から07年まで浦項工科大学総長、08年から09年まで大統領科学技術特別補佐官を務めた。旧教育人的資源部と旧科学技術部の統合を受けて09年に韓国学術振興財団、韓国科学財団、韓国国際科学技術協力財団が統合して発足した韓国研究財団(NRF)の初代理事長に就任。韓国研究財団は、ボトムアップ型資金援助として基礎研究事業、源泉技術開発など、目的志向型資金援助として、気候変動対応、原子力研究、宇宙開発、核融合エネルギー開発などを行っている。09年予算は20億3,800ドル(約1,900億円)。

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