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考える人を増やそう

研究開発戦略センター長、前産業技術総合研究所 理事長 吉川弘之 氏

掲載日:2009年11月20日

シンポジウム「グリーン・ニューディール - 世界、そして日本はどう変わるのか?」(2009年10月29日、科学技術振興機構 主催)基調講演から

研究開発戦略センター長、前産業技術総合研究所 理事長 吉川弘之 氏

吉川弘之 氏

 

国連の世界人口統計2006年版によると、今後、先進国の中でも日本は特に人口減少が激しく、極めて小さな国になっていく。小さいだけでなく高齢化率も極めて高く、2050年には65歳以上が人口に占める割合は40%になる。GDPで見るとロシア、メキシコ、ブラジル、中国といった大国の一人あたりのGDPは、皆日本と同じになる。一人あたりが同じになるのだから、人口の多い国のGDPが大きくなるのは当たり前だ。日本は現在、世界全体のGDPに占める数字をとって「10%国家」の地位にあるが、2050年には「3%国家」になると言われている。

そのような社会条件の中で、「生涯健康な」あるいは「安心、安全な」社会形成といった社会的な期待をどうやって実現していくか、3%の経済国家として一体どうやって国際競争力を持ちながら経済を発展させ、世界の中で大きな存在意義を持ち貢献をしていくか。こうしたことが現実の問題となってくる。

私は施策化が必要だと考える。これから新しい状況に向かう日本は、「ものを考える人」を増やさなければ駄目だ、ということだ。いい製品を安くつくるということだけではなく、新しい問題に常に対処して何が必要なのかを独創的に着想し、考えていく。今の研究者の定義とは違うが、とにかく考える人を増やそうという提案をしたい。

われわれは大学、研究所、公的機関を、企業も研究所をつくってきた。これを活かさない手はない。要するに人材を強化する、考える人つまり新しい研究者を増やそうということだ。

新しい研究者とは何か。ただ数を増やすだけではなく、研究者になる過程をまず多様化することが必要になる。研究という職業の定義を拡張することも必要だ。基礎研究者、研究補助者に加え、設計者、起業家なども考える人ととらえ、これらの職を相互に移動可能にする。それによって旧来の狭い意味での研究者と非研究者の変化を連続的にする。旧来の研究者、拡大された定義での研究者たち、つまり考えることが好きな人たちはある場合には大学の研究者にもなれるし、ある場合には設計者になって新しい製品を作る、またある場合には起業家となって儲(もう)ける。そういったさまざまな分野を自由に動けるようにするということだ。

私たちは、現実にそういうことをしたいという若者をたくさん知っている。しかし、残念ながら、ある研究所に勤めてしまうと、その研究所に一生いるのが得だということで、ベンチャーをやるのはあきらめている実態がある。せっかくそういう能力をもっている人たちを押さえつける制度があるということだ。

科学技術立国というのはそれを支える人間が必要で、そうした人たちについてのイメージ、ビジョンというものをしっかり持つことが、少なくとも若者に対するメッセージとして極めて重要なことではないか。ポスドクは、大学、研究所に行って行き先がなくなり、失業者製造装置などとばかなことをいう人がいるが、とんでもない。ポスドクというのは今の日本の宝物だ。この人たちがハッピーに生きられるような社会をつくる責任が大人にあるということだ。

研究開発戦略センター長、前産業技術総合研究所 理事長 吉川弘之 氏
吉川弘之 氏
(よしかわ ひろゆき)

吉川弘之(よしかわ ひろゆき)氏のプロフィール
1952年東京都立日比谷高校卒、56年東京大学工学部精密工学科卒、株式会社科学研究所(現・理化学研究所)入所、78年東京大学工学部教授、89年同工学部長、93年東京大学総長、97年日本学術会議会長、日本学術振興会会長、98年放送大学学長、2001年産業技術総合研究所理事長。2009年4月から現職。1999年から2002年まで国際科学会議会長も務める。1997年日本国際賞受賞。「社会のための科学」の重要性をうたった「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」を採択した99年世界科学会議(ユネスコと国際科学会議共催)で、基調報告を行う。科学者の社会的責任を一貫して主張し続けており、産業技術総合研究所の研究開発方針でもその考え方が貫かれている。

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