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犯罪から子どもを守る面接法(仲眞紀子 氏 / 北海道大学大学院 文学研究科 教授)

2009.04.15

仲眞紀子 氏 / 北海道大学大学院 文学研究科 教授

「犯罪からの子どもの安全」シンポジウム「被害実態をつかむ -子どもたちの叫びが聞こえますか」(2009年3月10日、社会技術研究開発センター 主催)講演とパネルディスカッションから

北海道大学大学院 文学研究科 教授 仲眞紀子 氏
仲眞紀子 氏

 子どもが犯罪や事故に巻き込まれること、虐待にあうことが増えています。このような子どもたちから、何がどのように起こったのかを聞き出し、事実を明らかにしていくことはとても大切です。その証言が捜査に役立ち、子どもたちの身の安全を確保し、以後の防犯対策にもつながっていくからです。

 ところが子どもたちから事実を聞き出すことは、容易なことではありません。子どもにも、証言する能力はあります。しかし、その証言が信用性の高いものであるかどうかは、聞き出す側の面接の手法や能力によって、大きく左右されます。また、子どもであるが故の事実認識の難しさという問題点もあります。

 例えば、あまり話そうとしない子どもに対して、面接者がたたみかけるように多くの質問を浴びせることにより、子どもの発言を誘導してしまうという問題があります。「たたかれたんでしょう?」「痛かったんじゃない」といった質問を繰り返しているうちに、最初は「当たった」「痛くなかった」と言っていた子どもが、「たたかれた」「少し痛かった」と答えるようになることがあります。

 また子どもは、実際に体験したこととそうでないことの区別が、大人に比べてあいまいです。実際には体験していないことであっても、何度も尋ねているうちに、体験したと話し始め、本当に体験したと思い込むことがあります。事実ではない記憶がつくり出されてしまうのです。

 このように、面接の初期に子どもの証言を誘導し、記憶を書き換えてしまうと、犯罪や事故の正確な状況や出来事を知ることができません。その結果、正しく事情聴取ができていれば防げた虐待や、解決できた犯罪から子どもたちを守ることができなくなります。司法の現場でも採用できるような正しく質の高い情報を的確に聞き出す面接法(司法面接法)の開発が現代社会の大きな課題となっています。またそのような面接の手法を取得した人材の養成も急務と言えます。近年、認知心理学、発達心理学の成果を活かした面接法が各国で開発されています。残念ながらわが国は、この分野が立ち後れていると言わざるを得ません。

 私たちの研究グループは科学技術振興機構の支援を受け、「犯罪から子どもを守る司法面接法の開発と訓練」という4年間にわたる研究開発プログラムを立ち上げました。認知心理学、発達心理学の基礎研究や専門家への研修を通して、日本の実情に合う日本版司法面接プログラムを開発し、それを評価し、広めていくことが目的です。昨年度、北海道大学の文学研究科内に、プロジェクト室として「司法面接支援室」を設置しました。ここを中心に、札幌市の児童相談所の協力を得て、4年間で延べ144名の専門家に面接法の研修を行っています(北大グループ)。また、福岡教育大学の杉村智子教授らが人物同定にかかわるキットを作成しています(福岡教育大グループ)。さらに、英国の面接法ガイドライン開発の中心人物であるブル教授(レスター大学)をアドバイザーにお迎えして国際的な視点からも検討を加えています。これらの過程で明らかになってきた問題点については、さらに改良を重ねていくことにより、より社会のニーズに応える司法面接法の確立を目指しています。

 コーディネーターの新谷珠恵・東京都小学校PTA協議会会長から、「研究成果を実際の社会に還元、実装していくにあたり、コラボレーションしていく相手やそのあり方をどのように考えていらっしゃるのでしょうか?」というご質問をいただきました。コラボレーションの相手は、北海道や札幌市の児童相談所、家庭裁判所、北海道警察、学校などです。こういった専門家との連携はたいへん貴重です。日本では定期的な人事異動が一般的で、数年かけて関係づくりをしてきても、担当者が異動されるとまた一から始めなくてはなりません。こういった問題も乗り越え、お互いの専門性、そして実証的エビデンスにもとづく活動を展開していければと思います。

(SciencePortal特派員 森岡和子)

北海道大学大学院 文学研究科 教授 仲眞紀子 氏
仲眞紀子 氏
(なか まきこ)

仲 眞紀子(なか まきこ)氏のプロフィール
1979年お茶の水女子大学文教育学部卒(心理学専攻)、79-81年お茶の水女子大学大学院修士課程(心理学専攻)、81-84年同博士課程(人間発達学専攻)、87年学術博士取得(お茶の水女子大学)。お茶の水女子大学助手、千葉大学講師、千葉大学助教授、東京都立大学助教授を経て2003年から現職。研究領域は、認知心理学,発達心理学、法と心理学(記憶、会話、目撃証言、面接法、メモリートーク、自伝的記憶、母子会話、語彙獲得)。法と心理学会常任理事、認知心理学会理事、発達心理学会理事。

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