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途上国支援は資金から頭脳へ

元財務大臣、元科学技術政策担当大臣、STSフォーラム会長 尾身幸次 氏

掲載日:2009年4月7日

シンポジウム「新時代の科学技術外交」(2009年3月23日、科学技術振興機構 主催)来賓あいさつから

元財務大臣、元科学技術政策担当大臣、STSフォーラム会長 尾身幸次 氏

尾身幸次 氏

 

私は、サイエンス・アンド・テクノロジー・イン・ソサエティー・フォーラム(科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム=STSフォーラム)を主宰している。簡単に言うと、ダボス会議の科学技術版だ。世界各国のノーベル賞受賞学者や科学技術関係の大臣、あるいはアカデミーの会長やビジネスのトップの方々が集まり、科学技術の光と影について、人類の将来を科学技術の観点からどう切り開いていくか、どう問題を解決していくかなどについて、単に科学技術の専門家だけではなしに、ビジネスも、政治も、マスメディアの人も、みんな一緒になって相談しよう、という会議だ。既に京都で5回開かれており、昨年は89カ国から科学技術担当大臣が40人ほど、またトップレベルの大学の学長が30-40人、アカデミーの会長、ビジネスの方々など約800人の方に来ていただいて議論をしている。

そこで、5年ほど前、科学技術面における先進国と発展途上国の間の協力をもっと強化すべきではないか、政府開発援助(ODA)の予算のある部分を科学技術に使うべきではないか、という提言がカナダの代表から出された。以来、STSの会議においてずっと、先進国と発展途上国の間の科学技術の協力を進めるという提言を出している。

STSフォーラムで考えたのは、今までのODAの支援というのは、主としてお金を出して橋をつくったり学校をつくったり病院をつくったり道路を整備したりする。つまり先進国のお金だけを使ってやるというのが主流だった。しかし、先進国のお金だけではなく、発展途上国の人材をそういう国々の発展のために活用する道がある。科学技術における発展途上国と先進国の間の研究協力を進めることの意味が大きい、と考えたわけだ。

例えば、日本の大学の若い助教や准教授が発展途上国の大学へ行き、研究費も年間2,000万円とか3,000万円持って行って、そこで10人ぐらいの学生あるいは研究者と一緒に、ある種のテーマで共同研究をやる。そうすると、そういう人材が研究の過程でどんどんレベルアップして、例えばアフリカの人たちが米国の大学へ行って勉強したり研究したりするのと同じような効果が得られ、それによって研究の成果も出ると思う。さらに、参加した人たちが科学技術の力をつけてくる、その力をもって自分の国の発展のために貢献することができるという意味で、少ないお金でかなり成果が挙がる。発展途上国なら10人くらいの人をその金額で使うことができる。それによって人材の育成もでき、そしてそこに新しい人類の将来が開けてくる。こういう考え方で、ずっとその提言をしてきたわけだ。

昨年6月に閣議決定された「骨太の方針2008」を決めるときに、いろいろな議論が自民党の中であった。私は、ぜひ新しく科学技術外交という柱を立てるべきである、と主張した。ただお金だけを出すという考え方ではなしに、科学技術の力をもって外交を進め、またほかの国との協力を進めていくということが、日本としては自分の持っているポテンシャルパワーを使うという意味で一番有効だし、またアピールする、と。文部科学省、総合科学技術会議はすぐ賛成した。外務省の方はなかなかこの考え方になじまず、頭の切り替えができなくて大変だったが、最後にようやく「骨太の方針2008」の中に科学技術外交を推進するという柱を立てていただいた。科学技術外交のための予算をわずかだがとってもらい先進国との間あるいは発展途上国との間において科学技術における協力を促進することになった。日本という国の持っている力、お金の力だけではなしに、科学技術の力を外交に活用して世界に貢献する。これは全部の国ができるというわけではない。日本という国が世界に貢献する大きな1つの柱が立ったと考えている。

今まで日本には「資源外交」という言葉があった。しかし、資源外交という言葉を外国の人に言えるだろうか。資源が欲しいから外交をやっているんだ、と日本の中では言えるけれども、外の人に言うこと自体が基本的な外交の考え方に反しているのではないか、と私は思っている。科学技術外交という言葉は、世界に向かって日本が大きな声で言える言葉であり、かつ実態も、そこで相手国にプラスになり、また、もちろん日本にもプラスになるようなやり方がある。

1月に米国ワシントンに行って来た。ちょうど、ワシントンの米国科学アカデミーでハーバード大学のカレスタス・ジュマという教授が科学技術外交の講演をするというので、ジュマ氏の前座で10分ほど話をさせてもらった。ジュマという方は父親がケニアの出身で、オバマ大統領の父親が生まれたところから60キロしか離れていないところだ。ジュマ氏は特にアフリカを中心とする科学技術外交の推進を図っている。科学技術外交は日本の専売特許だと思っていたら、オバマ政権のもとでサイエンス・アンド・テクノロジー・ディプロマシーをやるとジュマ氏があちらこちらで講演をしている、と知って大変驚いた。

オバマ政権は科学技術に非常に熱心といわれ、米科学界は非常にエキサイティングな気持ちになっているが、米国もサイエンス・アンド・テクノロジー・ディプロマシーをこれから大きな柱にしてくると思う。科学技術外交を米国と日本がやれば、世界全体がサイエンス・アンド・テクノロジー・ディプロマシーという世界の国際交流、発展途上国に対し、お金だけではなしに、頭脳の方の支援もやるという大きな流れができると私は期待している。そういう大きな流れの先頭を切って日本も頑張ることを期待している次第だ。

いろいろな意味で閉塞感がある日本が、これで世界に貢献するという柱で、私も政治の面からこうした運動をこれからも推進していくつもりだ。柱に中身を肉づけし、スローガンと中身がぴったり合うようなことをやっていき、そしてそれがまた日本のためにもプラスになるようなウイン・ウインの関係を築いていくことになる、と確信している。

元財務大臣、元科学技術政策担当大臣、STSフォーラム会長 尾身幸次 氏
尾身幸次 氏
(おみ こうじ)

尾身幸次(おみ こうじ)氏のプロフィール
1956年一橋大学商学部卒、通商産業省入省、在ニューヨーク総領事館領事、通商産業省南アジア東欧課長、科学技術庁官房総務課長、中小企業庁指導部長などを経て83年衆議院議員初当選(群馬一区)。経済企画庁長官、沖縄及び北方対策担当大臣、科学技術政策担当大臣、財務大臣を務める。2001年には議員立法で科学技術基本法を制定する中心的役割を担った。「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」(STSフォーラム)の創設者・会長。著書に「科学技術で日本を創る」(東洋経済新報社)、「科学技術立国論」(読売新聞社)など。現在、自民党国際競争力調査会会長も。

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