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コラム - ハイライト -

アジア研究圏の具体化を

科学技術振興機構・社会技術研究開発センター長 有本建男 氏

掲載日:2009年2月20日

米科学振興協会年次総会・セッション「科学技術政策と変化する世界経済」
(2009年2月13日、シカゴ)講演「科学・イノベーション政策と世界展望」から

科学技術振興機構・社会技術研究開発センター長 有本建男 氏

有本建男 氏

 

グローバリゼーションの一環としてアジアを見ると、1980年代までの国をベースにした雁行的発展から、近年は国境を越えて都市、企業がつながった経済統合が著しい。一方、この発展の下で環境汚染、格差の拡大などの負の影響も拡大した。

日本をみると、国内総生産(GDP)で現在、世界2位にあるが、ゴールドマン・サックス社の予測のように、2050年には中国、インドに追い抜かれて経済中位の国になると見られている。では、何を国の目標にするのか。世界経済社会の構造転換の下で、近年、国力を計測する視点として、さまざまなものが提案されている。軍事力や経済力のようなハードパワーから、生活の質、文化、安全、教育・研究などのようなソフトパワーまで。

第3期科学技術基本計画を策定する際、国民に科学技術に何を期待するか、アンケートをとったところ、上位に並んだのは環境、安全、健康であり、これまで一貫して重視されてきた経済は大きく後退した。これは大変印象的だった。

日本は今、150年間続いたキャッチアップ、近代化して欧米を追う立場から、フロントランナーの位置に立たされ、併せてグローバリゼーションの下で、国のビジョン、価値観から、制度、科学技術のシステムまで大きな転換が必須となっている。

現行の第3期科学技術基本計画と、これに続く2025年をにらんだ長期戦略指針「イノベーション25」で、科学と社会をつなぐあたらしい仕組みつくりを強く打ち出し、科学・技術の開発だけでなく、社会制度、人々の意識の転換まで政策がカバーする範囲を大きく広げた。これが、イノベーション政策と呼ぶものだ。現在世界中で、科学技術政策からイノベーション政策への転換、拡大が起こっている。研究助成制度からみても、大きな制度改革が必要とされている。

イノベーションの概念は、100年前の元祖シュンペーターから、それ以後の経営学者が考えたものを越えて、その目的は、企業利益や経済成長だけでなく、雇用や環境保全、社会の安定などに大きく広がっている。企業、政府、大学、学問分野、公共政策なども、既存の組織、国境、分野、枠組みを超えて、大きく展開している。産学官連携やオープン・イノベーションもその一環だ。これによって、新しい価値が生み出され始めた。企業も持続するためには、社会・公共的寄与が必須になっており、大学も同じだ。

われわれはこの3年間、グローバル・イノベーション・エコシステムという新しいコンセプトを提唱し、特に、地球規模問題の解決には、地方、国、地域、世界の枠を越えた協働の枠組みつくりを提案してきた。世界のフラット化は否定できないが、フラット化した世界は、一様ではない。異質性、多様性、歴史性に富んでおり、それぞれの地域に合わせたプログラムやシステムつくりが重要であることを、今回の経済危機は認識させた。

こうした状況の下で、アジアにおいては、何が強く求められているか。経済と環境を両立させた持続的発展のために、課題に対する科学・技術を基盤とした分析、解決策の検討と社会への実装、若手人材の養成と交流が急務となっている。したがって、Asian Research Area(アジア研究圏)、Asian Research Foundation(アジア研究財団)の具体化設置を検討する時期に来ている。

 

(編集者注:この講演で示された日本の近代化とその先を見据えたアジアの経済統合、アジア研究圏構想に対しては参加者の大きな関心を呼び、セッション終了後も有本氏と一般参加者多数を交えて議論が続いた)

 

有本建男 氏
(ありもと たてお)

有本建男(ありもと たてお)氏のプロフィール
広島修道高卒、1974年京都大学大学院理学研究科修士課程修了、科学技術庁入庁。同庁国際科学技術博覧会企画管理官、宇宙開発事業団調査国際部調査役、科学技術庁科学技術情報課長、海洋科学技術センター企画部長、科学技術庁原子力局廃棄物政策課長、日本原子力研究所広報部長、科学技術庁科学技術政策局政策課長、理化学研究所横浜研究所研究推進部長、内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)文部科学省大臣官房審議官(生涯学習政策局担当)などを経て、2004年文部科学省科学技術・学術政策局長。05年内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官、06年から現職。04年から政策研究大学院大学客員教授(科学技術政策)も。著書に「高度情報社会のガバナンス」(共著、NTT出版)。幅広い経験を持つ科学技術官僚として第2期、第3期の科学技術基本計画づくりでも中心的な役割を果たした。

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