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2030年までに食糧・エネルギーの純輸出国に

政策研究大学院大学 教授 黒川 清 氏

掲載日:2009年1月19日

新春科学技術交流会(2009年1月14日、科学技術振興機構、新技術協会主催)講演から

政策研究大学院大学 教授 黒川 清 氏

黒川 清 氏

 

日本のこれまでの政策は10年、20年先を予測して構築するという哲学がない。私が日本学術会議会長時代に、第3期科学技術基本計画策定の参考にしてほしいという目的から「日本の科学技術の要諦」という学術会議の声明をまとめた。ここで2050年までに日本が「品格ある国家」、「アジアの信頼」を構築する国家ビジョンを持つべきであることを提言した。さらに福田前首相の時に洞爺湖サミットに向けて地球温暖化の問題に対しエネルギー政策はどうあるべきかを検討した特別懇談会(奥田碩座長)に、内閣特別顧問として加わった。この会で「2050年までに食糧とクリーンエネルギーの純輸出国になる」との目標を掲げ、実現するための道筋を提言した。各省から、「皆無理だと言っている」という反応が来た。

しかし、私は目標をもっと高くし、「2030年までに、食糧とクリーンエネルギーの輸出国になる」という国家ビジョンを持つべきだ、と元旦のブログで書いた。

日本はいまトウモロコシの世界最大の輸入国だ。今、原油価格はいったんは下がっているが、5年先10年先にはまた必ず上がる。食糧はどうなるか。世界のコメ、トウモロコシなど穀物備蓄量は下がりっぱなしだ。どこかで干ばつが起きたらどうなるのか。日本には今、埼玉県と同じ面積の耕作放棄地がある。国際的な状況を考えればこんな無責任な国はない。

今後10年を見ると、人口増加と経済成長の核はアジア。中国もインドもジャポニカ米が好きだ。日本の食文化を国際的に優位な環境で輸出産業とし、アジアを中心とする「食料メジャー」になれる巨大市場が出現しつつあるというのに、日本は何をしているのか。「2030年までに食糧の純輸出国になる」という国家目標を提示し、そのために農業を大きなビジネスにするインセンティブを上げ、地方を活性化する。業種、国、経営形態を越え、連携するパートナーの農業への参加を広げ、これらの人たちに株主になってもらう、土地の貸借料金を払うなど、こんな農業イノベーション特区を全国10カ所くらいつくり、新しい成長産業とするといった大きな構想を立てるべきだ。

エネルギー問題でも日本の特徴を生かすことが大事だ。海に囲まれている。温泉がある。水もまあまあある。山がやたらに多い。弱点としては地震が多い。こうした地理的な特徴のうち、弱いところはグロ-バルの連携を確立しながら、強さを活かした世界を目指すクリーンエネルギー政策を立てるべきだ。ローカルでいかにクリーンなエネルギーを得るかも大事。温泉の熱をヒートポンプで利用する、ビルや家庭の断熱の早急な推進などだ。今はセルロースにするまでにエネルギーを要しているが、バイオ燃料では、食料との競合を避けることのできる稲穂、木材などセルロース系次世代バイオエタノールの開発を進める必要がある。中国などでは高い材木の需要が高まっているから、数十年のスパンで高い材木を生産し、炭素サイクルを確立しつつ進めるビジネスも有望だ。国による支援など要らない。これは企業であり、企業にするのである。

政策研究大学院大学 教授 黒川 清 氏

黒川 清 氏

 

日本は、大きなシステムをつくるのが弱い。携帯電話は世界で1日300万個売れているが、そのうち40%はノキア製。モトローラ、サムスン(各15%)と続き、4位にようやく日本のソニーエリクソンが入るが、最近では韓国のLGに抜かれたかも知れない。しかし、部品の65%はメイド・イン・ジャパン。これで満足していたら、日本は部品屋でしかない。

例えば水に関して言えば、日本の浄化技術は非常に優れている。しかし、この世界の市場は1兆円程度。水を配給し、生活水を処理し、課金する全体のシステムになると市場規模は100兆円になる。この分野では欧州の3社が、各地の都市づくりの時点から入って、現地で人を育て、事業体をつくって大株主になり、利潤を吸い上げている。グローバルには日本は一番下の水純化技術の部分とそのプラントの一部だけしかかかわっていない。東京の上下水道システムを私企業とし、世界に事業展開をするのだ。

私は昨日までワシントンに行っていた。いろいろな人に会ってきたが、新しい大統領に対する期待が非常に高まっている。オバマ次期大統領のすごいところは、科学技術関係の閣僚や顧問の人選にも見られる。エネルギー長官に指名されたノーベル物理学賞受賞者のスティーブン・チュー氏、科学顧問のジョン・ホールドレン・ハーバード大学教授、ハロルド・バーマス・元米国立衛生研究所(NIH)所長(ノーベル医学生理学賞受賞者)、エリク・ランダー・マサチューセッツ工科大学教授など研究者として尊敬、信頼されているだけでなく、従来から低炭素社会の実現、環境問題などで自分のコミットメントがどこにあるかをはっきり発言し、実際に自分で活動をしている人たちばかりである。

エネルギー、環境についてオバマ政権の方向は明白だ。国内の経済問題をはじめパキスタン問題、アフガン問題、革新的な右派の存在、ガザ地域をどうするか。難題は多く、しかも急を要することばかりである。そんなに甘い政策が出てくるわけはない。しかし、20日の大統領就任式の演説後、大きな変化が起こり始めるだろう。この点では、グローバル世界からの日本への期待も小さいので気楽なのだろう。

今年はダーウィンの生誕200年、去年は「種の起源」出版の150年目だった。進化論の一番のメッセージは、生物の種を歴史的にみれば、生き延びて勝ってきたのはその時代の一番強い者ではない。一番賢い者でもない。環境の変化に適応した者だ、ということなのだ。

近代日本の歴史は約70年サイクルで2回の激変があった。どこの世界でも同じようなサイクルだ。今のグローバル世界で日本のおかれた状況は、日本にとっては「明治維新」、「太平洋戦争」以来の激変のときであり、前の2回のような目に見える物理的な破壊的行動(黒船、大戦争)がないので、その危機が見えないだけなのだ。

「2030年までに、食糧とクリーンエネルギーの純輸出国になる」。そんなことは不可能だと思う、言うかもしれない。しかし、今日のここでの講演会に来ていただいた方々で1年前にオバマ氏が大統領になると予想した人はいるだろうか。最初から不可能だと思う人たちははじめから負け犬なのだ。5年先、10年先の日本をどうするか、脳の5%、1週間の労働時間を40時間とすればそのうちの2時間でもよいからこの国家ビジョンのために使ってみよう。そして、毎日、行動の5%をそこへの行動として一歩踏み出そう。それは可能なのであり、これこそが政治と国民一人ひとりの意志の問題。「Yes, Together, We Can」だ。

黒川 清 氏
(くろかわ きよし)

黒川 清(くろかわ きよし) 氏プロフィール
1955年成蹊高校卒、62年東京大学医学部卒、69年東京大学医学部助手から米ペンシルベニア大学医学部助手、73年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部内科助教授、79年同教授、83年東京大学医学部助教授、89年同教授、96年東海大学医学部長、総合医学研究所長、97年東京大学名誉教授、2004年東京大学先端科学技術研究センター教授(客員)、東海大学総合科学技術研究所教授。2003年日本学術会議会長、総合科学技術会議議員に就任、日本学術会議の改革に取り組むとともに、日本の学術、科学技術振興に指導的な役割を果たす。06年9月10日、定年により日本学術会議会長を退任、同年10月-08年10月内閣特別顧問。06年11月から現職。特定非営利活動法人 日本医療政策機構 代表理事も。「イノベーション思考法」(PHP新書)、「大学病院革命」(日経BP社)など著書多数。

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