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21世紀こそ教養重視の大学教育を

国際基督教大学 学長 鈴木典比古 氏

掲載日:2007年12月17日

記者会見(2007年11月30日、日本記者クラブ)スピーチから

国際基督教大学 学長 鈴木典比古 氏

鈴木典比古 氏

 

国際基督教大学(ICU)は、来年4月から今までの日本にはなかった大学教育を始める。

世界の高等教育の中で米国がスタンダードになりつつあることは共通の認識だが、米国の大学教育について日本ではなかなか認知されないことがある。米国には大規模な大学とともにリベラルアーツカレッジという2つのカテゴリーの大学があるということだ。実は、米国においてはリベラルアーツカレッジの方が正統的、伝統的な大学教育であるとみなされている。17世紀ごろの欧米で社会のリーダー育成を目的に設立された典型的、伝統的大学の一形態が、リベラルアーツカレッジだ。

文系、理系の垣根を越えた教養教育を重視するカリキュラムを持っており、入学時に専攻を決めさせない。少人数教育で教員一人あたりの学生数が少なく、教員と学生の比率が1対10かあるいはそれ以下というところが多い。4年間の教養教育を受けた多くの学生がロースクールやメディカルスクールに進学するということで、教養教育と専門教育が連動している。総合大学とは別のカテゴリーの大学だ。日本では、総合大学こそ米国の大学と思われているがそうではない。

米国には3,000以上あるといわれている大学のうち、500校くらいがリベラルアーツカレッジといわれている。リベラルアーツカレッジに進学するということは、将来の社会を担っていくということと同値と見られており、実際に社会にリーダーシップを発揮する人材を数多く輩出している。ICUは、日本で唯一のリベラルアーツカレッジであり、1953年の開学以来、このような教育を行ってきた。1学年620人という学生数で、日米両語を公用語としたバイリンガル教育で、学生は学問分野を越えた知識の探求、自律的に学習する教育を進めてきている。

来年4月からこれを徹底するため新たなカリキュラムを開始する。現在の学科制を廃止し、志願時に学生が学科を選ぶ必要をなくす。1年次と2年次には広やかな関心を持ってさまざまな分野の科目を履修し、2年次の終わりに専修分野を決めればよい。

なぜ、リベラル教育が必要かということだが、教育というのは時代を超えて普遍的や役割を持っている。教育が人間を作り、人間が時代を作り、時代が人間をつくるという「人間」、「時代」、「教育」の間にはサイクル的な関係がある。その関係が20世紀と21世紀でどう違うかが問題になる。20世紀においては、同一水準、同一規格の同じような考え方、知識を持っている人間が大量に必要だった。それを輩出するいわば少品種多量生産の学校教育制度が求められた。19世紀にベルリン大学でフンボルト博士が始めた近代国家を作るための大量の有能な人材を作り出すシステムといえる。効率、経済性、成長を追求する時代の目標があったからだ。これが成功して近代国家にはなったが、一方で、成功ゆえに隘路に陥ってしまっているのが現状といえる。

21世紀は、ここから抜け出すために、違った原則、視野を持って教育がなされなければならない。個性豊かな人間1人1人を大切にする教育、つまり多品種少量生産が、われわれの目的とするリベラルアーツ型の教育だ。21世紀になってますますグローバリズムが進展すると思われる。これに飲み込まれないよう個性豊かで、多様性を寛容し、個をしっかり持った人間を育てるのが21世紀の課題だ。

21世紀を担う若者に、21世紀に立ち向かい、挑戦する力を与え続けるためには、現状にとどまっていることは許されない。いまの教育改革論議の中にみられる大規模校中心の改革では、「いつか来た道」になることを危惧している。ICUの改革のようなものが絶対必要だと確信している。ICUのみならず、日本の教育改革への提言として、ICUがまな板のコイになる覚悟で、批判をいただきながら改革を進めていきたい。

鈴木典比古 氏
鈴木典比古 氏
(すずき のりひこ)

鈴木典比古(すずき のりひこ)氏のプロフィール
1945年生まれ、68年一橋大学経済学部卒業、72年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、78年米インディアナ大学経営大学院博士課程修了、経営学博士(DBA)、ワシントン州立大学経営学部助教授(国際経営・国際マーケティング)、82年同大学准教授、82年イリノイ大学経営学部助教授、86年国際基督教大学社会科学科准教授、90年同大学国際関係学科教授、92~93年ワシントン大学経営学部客員教授、95年国際基督教大学国際関係学科長、2000年同大学学務副学長、04年から現職。日本私立大学連盟常務理事、大学基準協会理事・大学評価委員会委員長なども。「多国籍企業経営論」など著書多数。

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