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マイクロ水力開発への期待

茨城大学 農学部 准教授 小林 久 氏

掲載日:2007年11月2日

シンポジウム「食料とエネルギーに関わる水問題」(2007年10月29日、日本学術会議 水問題分科会、東京大学大学院農学生命科学研究科 主催)報告から

茨城大学 農学部 准教授 小林 久 氏

小林 久 氏

 

商品は金儲けの手段である。金儲けという手段がなくなってしまえば、商品は供給さえ止まる可能性がある。

資源と捨て場の枯渇に直面している今の人間社会では、食べ物と同様に、エネルギーにもそれぞれの地域で自分たち自身が発見、活用、供給して負荷を削減するとともに、その恒常性・安全性を保つことを地域で考えることが求められているのかもしれない。活用できる再生可能なエネルギー資源が賦存する環境にある地域は、その恩恵を十二分に活用し、地球環境に負荷をかけることから可能な限り手を引くことが必要かもしれない。そのためには、地域に賦存する小さなエネルギー源を無視しないで、環境に調和した活用を模索しなければならない。エネルギーにも「地産地消」の本質である「商品ではない資源」の利用としても位置づけがあってもよい。

中山間地で河川から取水される水のほとんどは、農業用水(年間533億立方メートル)として利用され、水利ネットワークを通して国土の隅々まで配水されている。この水利ネットワークの延長は約40万キロに及ぶという。農地面積1平方キロ当たり8キロ以上の農業用水路が張り巡らされていることになる。

水力利用という視点で、このような水利ネットワークを見直せば、わが国のような水に恵まれた地域には数キロワットから数百キロワットのマイクロ水力の開発サイトが、中小河川だけでなく至るところにある。明治時代のわが国には、水車小屋の地点数が12万個所を超えていたという話も、富山には数万台の投げ込み式らせん水車(数キロワット)が使用されていたという話も全く不思議ではない。

ドイツでは、毎秒4立方メートル取水し、落差1.1メートルで約35キロワットの発電設備を稼働している例がある。中小河川の水の流れが突然半減し、しばらく下がるとまた増加する様子をしばしば見かける。流れが半減するのは、水車に水を導くための水路に河川水が取水されるからであり、再び増水するのは水車を回転させた水がまた河川に戻るからである。

ドイツの丘陵、山地における河川こう配は3%以下と考えられるので、短い水路では落差が1~2メートルしかとれない。しかし、その落差で水車が回っている。ドイツには、このようなマイクロ水力発電所が今も1.5万~2万くらい実働しているという。平均出力を50キロワットとすると、マイクロ発電だけで100万キロワットに迫る総出力があることになる。

ドイツより急峻な地形で、かつ降雨量の多い日本で、数十キロワットのマイクロ水力発電を行える、エネルギー集落が少ないとは思えない。自給を超え、集落外へ電力を供給することができる数百キロワット出力の発電設備を設置できるエネルギー生産型の集落も決して少なくないはずである。

数十キロワットから数百キロワットの発電設備を数万の集落に整備するという数のメリットを活かすことは、エネルギー資源が賦存する農村にもエネルギー消費地の都市にも全く同じサービスを提供するという今の電力あるいはエネルギー供給システムを大きく変える可能性がある。フローベースの再生可能エネルギーに依存する社会の姿が、今の大規模エネルギー供給完全主義からの脱却であるのならば、マイクロ水力発電とエネルギー自立~生産型農村の可能性・意義は、将来の社会構造を考える上でも積極的に検討されてもよいように思えてならない。

茨城大学 農学部 准教授 小林 久 氏
小林 久 氏
(こばやし ひさし)

小林 久(こばやし ひさし)氏のプロフィール
長野県生まれ。東京農工大学大学院博士課程(連合農学研究科生物生産学専攻)修了。建設コンサルタント会社勤務、コンサルタント事務所主宰を経て、現職。国際協力機構(JICA)国内支援委員会委員、広域関東圏産業活性化センター(GIAC)『小水力発電のまち』推進方策検討委員会WG主査、全国小水力利用推進協議会理事などをつとめる。地域資源循環システムの計画手法で東京農工大学農学博士。農業・農村活動の環境影響評価、バイオマス資源循環システム、地域再生可能エネルギーシステム、参加型地域開発などの研究を推進。主な著書に「記憶と移動のダイナミズム(環境・文化・人間の関係学)」(大学教育出版、共著)、「小水力エネルギー読本」(オーム社、共著)、「再生可能エネルギーで地域がかがやく-地産地消型エネルギー技術-」(公人の友社、共著)など。

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