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ビスマス系高温超電導体の米国特許取得で一苦労

物質・材料研究機構 特別名誉研究員 前田 弘 氏

掲載日:2007年7月12日

井上春成賞贈呈式(2007年7月11日、科学技術振興機構・井上春成賞委員会 主催)受賞者あいさつ、記念パーティー談話から

物質・材料研究機構 特別名誉研究員 前田 弘 氏

前田 弘 氏

 

この研究成果が実用化されなかったら多くの人たちに無駄なことをさせたことになると、19年間ずっと心配だった。この受賞を機にその呪縛からようやく解放された。ビスマス系高温超電導体を発見してよかった、という思いだ。

懸案だった米国での特許取得もようやく決着した。今の特許法では権利期間はあと半年くらいしか残っていないことになるが、幸い古い法が適用されるのでこれから17~20年間は有効だ。高温超電導線材がこれからますます売れて、利用されてほしい。私の懐にも報奨金が入るので(笑い)。

特許取得では本当に苦労した。5年間で3度くらい渡米した。米国ではご存じのように先発明主義で、日本を初め多くの国が採用している先願主義と異なる。特に外国人の申請に対しては、出願した日を発明した日としている。それがいろいろ問題を起こしており、われわれもそれに引っかかった。出願したのは1988年の1月19日だが、なんとその4日後に(ビスマス系高温超電導体に関する米国人の)論文が投稿されている。論文の中に「われわれの作成した超電導試料は2週間安定な状態を維持している」と書いてあるのが、問題になった。論文を出した2週間前が発明した日になるから、われわれより早いということになってしまう。

これは、その研究グループの助手が書いたものの中に「前田の発見を伝える新聞記事を見て研究を始めた」というくだりがあるのを発見し、事なきを得た。しかし、もう一つ問題にされたことがある。「(新聞記事で知ったとすると)わずか4日間で材料をつくり論文を書くということができるか」というわけです。これは北澤宏一さん(当時、東京大学工学部教授、現・科学技術振興機構理事)が、服部幹雄さん(当時、科学技術庁材料室長、現・高輝度光科学研究センター常務理事)に出したファクスがものを言った。北澤さんは科学技術庁傘下の研究所で新しい発見があったことについて服部さんに祝意を伝えるとともに、「一晩でこの材料をつくり超電導体であることを確認した」と書いてくれていたからだ。

服部さんからこのファクスのコピーをもらっていたことを思い出し、それを提示したところ「4日間で論文を書くことができるか」と言っていた米国の審査官もやっと納得してくれた。特許裁判にもなったことで、本当に貴重な経験をした。もう十分、これ以上はやる気がない(笑い)。

前田弘 氏
前田 弘 氏
(まえだ ひろし)

前田 弘(まえだ ひろし)氏のプロフィール
1988年、科学技術庁金属材料技術研究所(現・独立行政法人物質・材料研究機構) 総合研究官当時、臨界温度が絶対温度100Kを超える初めての高温超電導体を発見、世界的に注目された。ビスマスに初めて着目した成果で、この成果を基に住友電気工業が超電導線材の実用化に成功している。2005年1月にこの線材を用いた世界で初めての実用化レベルの超電導同期モーターが開発され、同年4月には、モーターの界磁コイルと電機子コイルの両方にビスマス系高温超電導線材を使った世界初の超電導モーターが完成した。さらに昨年7月、米国ニューヨーク州でビスマス系高温超電導線材を使った高温超電導ケーブルが世界初の実用送電路として施設され、安定した運転実績をあげている。米国で認められた特許は、ビスマス、ストロンチウム、カルシウム、銅、酸素の5元素からなる超電導体をカバーする基本的な特許となっている。

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