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信頼できるがんの最新情報を届ける —国立がん研究センターとヤフーの新たな取り組み—

2018.04.11

橋本裕美子 / サイエンスライター

 国立がん研究センターが2018年1月、ヤフーと連携し、同センターが運営する「がん情報サービス」の情報を、スマートフォン版「Yahoo!検索」の検索結果を示す画面上部の目立つところに優先的に表示する取り組みを始めた。さまざまな医療情報があふれるインターネットの中で、信頼できるがん情報にいち早くたどり着けるようにする試みだ。

科学的根拠のあるネット情報は半数!?

 病院に行くほどではないけれど、どうも体の調子が悪い。日常に障りはないけれど、気になるしこりやちょっとした痛みがある。そんな風に感じたとき、あなたはどうするだろう。家族や友人に相談してみたり、インターネットで類似の症状に関する情報を探したりする方が多いのではないだろうか。

 では、がんと診断されたら、自身のがんの治療法や病院について、どこで情報を入手するだろう。平成26、28年に内閣府が日本全国の20歳以上を対象に実施した「がん対策に関する世論調査」によると、20〜59歳の半数以上が入手先は「インターネット」であると回答している。

 今やインターネットにはさまざまな医療情報があふれているが、情報の入手が容易になった一方で、その内容は必ずしも信頼できるとは限らない。数年前には、医療系のニュースや記事を収集し提供するメディアが扱う情報に問題があり、良質な医療情報がインターネット上で見つけづらくなっていることがニュースになった。インターネットの検索で表示されるがん治療法に関する情報のうち、診療ガイドラインなど科学的根拠に基づく治療法(標準治療)は半分以下との調査結果もある。また、検索結果の順位は必ずしも信頼できる順位とは言えず、専門知識を持たない私たち一般市民が医学的根拠のある正しい医療情報を見極めることは困難だ。

最新かつ正確な情報を一発で入手するために

 そこで始まったのが、国立がん研究センターとヤフーによる今回の取り組みだ。「Yahoo!検索」でがんについて調べると、通常は広告枠になっている検索結果画面の上部に、「がん情報サービス」の提供する病気の概要や症状、原因などの情報が表示されるようになったのだ。「がん情報サービス」は、「正しい情報に基づいて、国民のためのがん対策推進を支援する」ことを使命として、2006年から10年以上にわたり、一般向け、医療関係者向けに最新のがん情報を整理し、提供し続けてきた。今回の取り組みでは「○○がん」「○○がん 症状」などと検索した場合が対象となる。

 試しに「喉頭がん」というワードで検索してみると、図1のような検索結果が得られた。目にぱっと飛び込むのは、画面の半分近くを占める大きくきれいなビジュアル。身体のどの部分に異常が現れるのかがわかりやすく示されており、その上部には、喉頭がんとは何かを端的に説明する文章が表示される。サイトを開くと、喉頭がんに関する基礎知識や診療の流れ、治療法、転移や再発まで、国内トップレベルのがん研究機関である国立がん研究センターがまとめた具体的な最新情報が、コンパクトに紹介されていた。これなら、正しい情報にたどり着くまでに多くの時間を費やしたり、信頼性の低いさまざまな情報に触れては迷いを増幅させていくような悪循環に陥ったりしなくて済みそうだ。利用者にとって、情報難民になることなく一発で信頼のおける最新情報にたどり着けるのは、ありがたく心強い。現時点では、「喉 がん」や「喉頭 がん」で検索すると他サイトが表示される。「利用者が正確な病名で検索するとは限らない」という課題への対応はこれからだ。

図1 スマートフォンの「Yahoo!検索」」で「喉頭がん」と検索した際に表示される検索結果画面。喉頭がんとは何かが、文章とビジュアルで端的にわかりやすく表示される。
図1 スマートフォンの「Yahoo!検索」」で「喉頭がん」と検索した際に表示される検索結果画面。喉頭がんとは何かが、文章とビジュアルで端的にわかりやすく表示される。

患者の得た情報が治療の選択に生かされるように

 実現に際して、国立がん研究センターでは、スマートフォンでの見やすさや情報へのアクセスのしやすさにこだわったという。「スマートフォンでスクロールしなくても読むことができる150文字程度を1段落として記述するようにしました。コンテンツがイメージしやすいよう、できるだけ図表も掲載することを目指しています。さらに、利用者によく検索される『白血病』と『皮膚がん』は新しく分類ページを作成し、そこに含まれるがんの種類が細かくわかるように工夫しました」と国立がん研究センターがん対策情報センターの早川雅代(はやかわ まさよ)さんは語る。今回の新しい取り組みをきっかけに、「がん情報サービス」のサイト内も改良が進められた。

図2 がん情報センターのトップ画面から行ける「それぞれのがんの解説」ページには、白血病と皮膚がんの分類ページを新設。アクセスの多い情報をさらに掘り下げて提供するように改良した。
図2 がん情報センターのトップ画面から行ける「それぞれのがんの解説」ページには、白血病と皮膚がんの分類ページを新設。アクセスの多い情報をさらに掘り下げて提供するように改良した。

 「Yahoo!検索」を経由したがん情報サービスへのアクセスは、増加しつつあるそうだ。今後も反響を見ながら、国立がん研究センター、ヤフーともに、使いやすさの向上を目指した改良を重ねていくという。「現在は『それぞれのがんの解説』というページにある一部の単語のみが検索対象ですが、それ以外の単語を使った検索に対応することや、療養・生活や免疫療法など、がん全般に関する情報についても対応できるようにしたいと考えています」と早川さん。この仕組みを通じて利用者が入手した信頼できる最新の正しい情報が、医療現場での医師や看護師らとのコミュニケーションの助けとなり、患者が適切な治療を選択することに繋がるよう期待しているという。一方のヤフーも、「利用者の方が検索されるワードにはさまざまなバリエーションがあり、現状ではすべて網羅できてはいません。なるべく多くの方に適切な情報をお届けできるように努めていきたいと考えています」と話す。

国立がん研究センターがん対策情報センターの2016年データに基づいた統計によれば、生涯においてがんで死亡する確率は男性で25%(4人に1人)、女性で16%(6人に1人)にのぼるという。自分自身や大切な家族のために信頼できる最新情報をいち早く手に入れたいと願う人の多さは、想像に難くない。そして、これらの情報は、これから治療を受けようとする人たちの重要な選択にも影響を与えかねない。今回の取り組みをきっかけに、がん情報やYahoo!検索にとどまらず、インターネット上の信頼できる情報に素早くたどり着けるこのような仕組みが、より広く、より深く社会に浸透していくことに期待したい。

(サイエンスライター 橋本裕美子)

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