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衣服に貼って洗濯もできる超薄型有機太陽電池の工夫に迫る

掲載日:2017年10月30日

衣服に貼り付けることができる太陽電池は、生体情報を継続的にモニタリングするウェアラブルセンサーなどの電源としてニーズが高い。福田 憲二郎(ふくだ けんじろう)理化学研究所創発物性科学研究センター研究員と染谷 隆夫(そめや たかお)同チームリーダーらのグループは、衣服に貼り付けて洗濯もできる伸縮性と耐水性を兼ね備えた、厚さ3マイクロメートル※1という超薄型有機太陽電池の開発に成功した(写真1)。

※1 マイクロメートル/1マイクロメートルは1,000分の1ミリメートル。

写真1. 超薄型有機太陽電池を白いワイシャツ(綿100%)に貼り付けて中性洗剤液に漬けて洗っている様子 提供:プレスリリース
写真1. 超薄型有機太陽電池を白いワイシャツ(綿100%)に貼り付けて中性洗剤液に漬けて洗っている様子 提供:理化学研究所

取り付けるから身に付ける太陽電池へ

近年、環境中のエネルギーから電力を得る技術とセンシング技術を組み合わせることで、センサーをスマート化する研究が盛んに行われている。特にウェアラブルなセンサーをスマート化することで、生体情報の継続的なモニタリングが可能になる。例えば、血圧・体温・心拍数・心電波形などを継続的に測定できれば、風邪や脳梗塞、心筋梗塞などの早期発見につながると考えられている。

福田研究員は「超薄型の有機太陽電池を衣服に貼り付けることで、十分な面積を確保でき、大きな電力を環境から取り出すことができます」と話す。しかしそのためには、十分なエネルギー変換効率※2、伸縮性、耐水性という三つの要素の同時達成が課題だった。

※2 エネルギー変換効率/太陽光エネルギーを電力に変換する効率。

安価で軽量、かつ柔らかい有機太陽電池

現在、普及が進んでいるシリコン系の太陽電池は、その製造行程で高温・高真空の環境が必要なため、多くのエネルギーが使われ、製造コストが高い。さらに、できあがった電池は重くて曲げることができないため、空き地や屋根などにしか設置できないという制限がある。

一方で、伸縮性、耐水性を付与する点で注目されているのが有機太陽電池だ。有機太陽電池は、光エネルギーを電気に変換するための構造(光電変換層)に有機半導体を利用している。有機半導体の材料であるポリマー(高分子)は可視光を吸収することができ、また有機溶剤に溶けるため塗ることができる。この塗布プロセスは加工への適用に簡便で大量生産ができるため、有機太陽電池はシリコン系太陽電池に比べて安価であり、かつ軽量で柔らかいという特長がある。

エネルギー変換効率を高めた有機半導体ポリマーと逆型構造とは

今回の衣服に貼り付けて洗濯もできる伸縮性と耐水性を兼ね備えた超薄型有機太陽電池の成功には三つのポイントがあると福田氏は話す。「一つ目は、2015年に同じ理研の瀧宮 和男(たきみや かずお)グループディレクターらが新しい有機半導体ポリマー用い、かつ太陽電池の構造を従来の逆型にすることで、有機太陽電池の性能と安定性を向上させたことです」

太陽電池は、p型とn型と呼ばれる2種類の半導体を接合した構造(光電変換層)により発電する。光電変換層が光を吸収すると、エネルギーの高い状態になる。このエネルギーが、プラス電荷のホール(正孔)とマイナス電荷の電子を同じ数だけ発生させる。そして、ホールはp型を移動して正極に蓄積され、電子はn型を移動して負極に蓄積される。こうして電圧が生じ、両極をつなぐと電気が流れる(図1)。

図1. 太陽電池の仕組み 提供:理化学研究所(『理研ニュース』2014年4月号)
図1. 太陽電池の仕組み 提供:理化学研究所(『理研ニュース』2014年4月号)

瀧宮氏らは独自に開発した新しい有機半導体ポリマーPNTz4Tをp型に、既存のPCBMをn型に用いた。この際、p型とn型のポリマーを混ぜて合わせて塗ると、それぞれの領域が入り込んだ構造ができる(図2)。その構造は、図1のような単純なp型とn型の2層構造よりも界面が広くなるため、光を当てたときに電子とホールの対がたくさん発生し、エネルギー変換効率が向上するというメリットがある。

図2. p型とn型の領域が入り込んだ構造 提供:理化学研究所(『理研ニュース』2014年4月号)
図2. p型とn型の領域が入り込んだ構造 提供:理化学研究所(『理研ニュース』2014年4月号)

では、逆型構造とは何か。簡単にいうと、通常の有機太陽電池は図1、2のように、基板上に下から下部電極(正極)、有機半導体による光電変換層、上部電極(負極)という構造をとるのに対し、逆型構造では正極と負極の位置が逆になっている。すなわち、下部電極(負極)、光電変換層、上部電極(正極)となる。PNTz4Tはホールを上部電極方向に流しやすいため、上部が正極の逆型構造の方がエネルギー変換効率は高い。

また、通常の構造では、上部電極としてアルミニウムやカルシウムなどの腐食性・反応性の高い材料を使う必要があるのに対し、逆型構造では非腐食性の銀や金を使用できる。そのため、電極の腐食を抑えられ、劣化に強く、また対環境安定性に優れる。

このようにして、瀧宮氏らは、薄くて軽い有機太陽電池のエネルギー変換効率を世界最高レベルの10%まで向上させることに成功した(参考:理化学研究所2015年5月26日プレスリリース「塗って作れる太陽電池で変換効率10%を達成」)。今回の福田研究員らによる有機太陽電池の基本構造の作製には、この方法が踏襲されている。

有機太陽電池を極めて薄いフィルム上につくる

「もうひとつ、瀧宮先生らは有機太陽電池をガラス基板上に形成していたのに対し、私たちは衣服に貼り付けるという目的のため、非常に薄くて柔らかいフィルム上に形成しました。これが2つめのポイントです」と福田研究員。そのフィルムとは、厚さがわずか1マイクロメートルの「パリレン」とよばれる光を透過させやすい高分子材料である。このパリレン基板上に厚さ1マイクロメートルの有機太陽電池の基本構造を形成し、さらにその上に厚さ1マイクロメートルのパレリンを封止膜として重ねることにより、総膜厚3マイクロメートルの曲げても折ってもつぶしても駆動する超薄型有機太陽電池が実現した。

この超薄型有機太陽電池はエネルギー変換効率7.9%を達成した(これまでに報告されていた柔軟性の高い有機太陽電池のエネルギー変換効率は4.2%)。また、約50%までつぶしても安定して駆動し、非常に高い柔軟性を持つことが確認できた。さらに、5分間水中に浸した後でも、エネルギー変換効率の低下はほとんどみられず、高い耐水性を持つことが分かった。黒水性ペンで超薄型有機太陽電池の表面に染みを付け、洗剤液の中で洗ったところ、その染みは取り除かれ、かつエネルギー変換効率の低下も見られなかった。

高い耐水性をもたせるためのゴムサンドイッチ構造

三つ目のポイントは、耐水性をさらに高めるために、超薄型有機太陽電池をゴムで挟んだことだった。あらかじめ引っ張って伸ばした厚さ0.5ミリメートルの2枚の透明なアクリル系ゴムで、超薄型有機太陽電池をサンドイッチした。すると、超薄型有機太陽電池はアコーディオン状になり、伸縮性を保ちつつ、耐水性を大きく向上させる封止が実現した(図3)。

図3. ゴムサンドイッチ構造により伸縮性と高い耐水性を持つ有機太陽電池が実現。 提供:理化学研究所
図3. ゴムサンドイッチ構造により伸縮性と高い耐水性を持つ有機太陽電池が実現。 提供:理化学研究所

ゴムによる封止がない超薄型有機太陽電池を、120分間水中に浸した後では、エネルギー変換効率が初期値よりも20%低下したのに対し、サンドイッチ構造によるゴム封止では5%の低下に抑えることができた(図4)。また、水滴をデバイス上に滴下し、約50%の伸縮を2時間繰り返しても、エネルギー変換効率は初期値の80%を保った。

図4. 水中への浸漬時間によるエネルギー変換効率の変化。 提供:理化学研究所
図4. 水中への浸漬時間によるエネルギー変換効率の変化。 提供:理化学研究所

衣服を普通用か充電用かで選ぶ時代がやってくる?

このような薄い有機太陽電池は世界中で活発に研究されている。福田研究員は「今回開発した超薄型有機太陽電池は、センサーと電力のマッチングが良いという特徴があります。すでに、衣服の上にセンサーを付けて心拍などを測るものが存在しますが、その電力として使えます。また、有機LED※3用の電力としてもマッチングが良いので、LEDを光らせるというアイデアがあります」と話す。LEDが服についたおしゃれなファッションや、ウェアラブルセンサーと連動させて、体調が悪くなったときLEDが光って知らせてくれるなどの用途も考えられるという。

※3 有機LED/有機材料に電圧を加えて発光させる有機ELを利用した発光ダイオード。低電力で高輝度の発光が得られる。次世代の薄型テレビやパソコン用ディスプレイなどへの応用が期待されている。

今後、エネルギー変換効率をシリコン系太陽電池と同程度の15%まで向上させる方法や、実際の衣服に超薄型有機太陽電池をうまく貼り付ける方法などの課題が残るが、福田研究員らは5年後の実用化を目指している。

さらにはもう少し先になるが、スマートフォンをポケットに入れるだけで充電したり、スマートウオッチを手袋で充電することなども考えられる。「近い将来、今日着る服は普通用にしようか、充電用にしようかと毎朝考える時代が来るかもしれません」と福田研究員は結んだ。そんな時代になれば、私たちの生活はますます便利で面白くなるであろう。これからも超薄型有機太陽電池の進化に注目していきたい。

(サイエンスライター 北原 逸美)

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