サイエンスクリップ

2種類のセンサ内蔵ウェアで腰の負担を可視化して軽減

掲載日:2017年8月21日

腰痛持ちの人のために、 腰のどこにどのくらいの負担がかかっているかを常に把握できたら、症状の悪化を防ぐことができるのではないか。これを可能にするセンサを内蔵した「センシングウェア※1」を、昨年、北海道大学大学院情報科学研究科 田中 孝之(たなか たかゆき)准教授らの研究チームと株式会社ニコンが発表し、さらに2017年6月には、それにアシスト機能を加えた「アシストウェア※2」の開発にも成功した。センシングウェアは、コルセットのように腰に巻きつけるだけで腰への負担を測り作業リスクを知らせてくれる。またアシストウェアは、腰への負担をあらかじめ予測して適切に補助してくれる。両ウェアの最大の特徴はセンシング技術にあり、この技術で計測したデータをビッグデータに蓄積して解析し、腰の負担が懸念される労働環境の改善につなげていく構想もある。2つのウェアの相乗効果で目指すのは、過剰にアシストしすぎない、バランスのいいアシストだという。詳しく見てみよう。

※1・2 「センシングウェア」と「アシストウェア」は、株式会社ニコンの登録商標

リアルタイムで腰の負担を推定する革新的なセンサ

下の写真で腰に巻かれているのが、センシングウェア(左)とアシストウェア(右)だ。
出典:プレスリリース
出典:プレスリリース

どちらも柔軟な素材でできており、コルセットのように巻くだけで装着できる。そのセンサや駆動部を取り出したのが下の写真だ。

出典:プレスリリース
出典:プレスリリース(一部編集)

センシングウェアのセンサは、曲げセンサ、加速度センサ、筋硬さ(きんかたさ)センサの3種類だ。曲げセンサと加速度センサが、腰仙椎アライメント※3を測定し、筋硬さセンサが、荷物の持ち上げなどで背筋にかかる緊張力を正確に検知する。2015年に発表された一つ前のモデルは、曲げセンサと加速度センサのみだったが、筋硬さセンサを加え荷物の重さを推定できるようにして、腰への負担の推定誤差を3~5割減らすことに成功した。

※3 腰仙椎アライメント/腰椎と仙骨の配列。通常緩やかなカーブを描く配列が乱れると、痛みなどの症状の原因となる。

アシストウェアは、センシングウェアが計測した腰にかかる負担に応じて、最大約8キログラム重(1キログラム重は1kgの物質が地表で受ける重力の大きさ)の力で骨盤を締め付ける。締め付け具合を、モーターで調節できるのがポイントだ。骨盤を締め付けると腰の負担を減らせるが、常に締め付けると腰の筋力が低下してしまうので、締め付け具合を調節する機能は画期的だ。

作業者自らが「どこまで頑張れるか」を判断する目安となるセンシングウェアと、作業者が本当に必要な時に的確にサポートしてくれるアシストウェア。どちらも作業者に寄り添い、作業者を尊重するもので、従来のツールに持っていたイメージが覆される。

進化し続けるセンシング技術

上述の通り、研究チームはこれまで、ウェアのセンシング情報から腰仙椎アライメントや背筋活動、腰の負担を推定する基礎的な手法を確立してきた。現在は、さまざまな動きのある作業で、正確かつ安定して表皮情報をセンシングするためのハードウェアやソフトウェアを改良している。また、実際の介護現場などで、問題点の精査や解決策の検討を行っているそうだ。

また、センサで計測したデータは保存もできるため、研究チームはこれを蓄積し、ビッグデータを構築・解析することで、介護施設や運送業など、腰への負担が大きい労働環境の改善も目指している。より具体的なデータで負担の大きな作業が特定できれば、アシストツールを導入したり、人員を増員したりといった改善策を立てられる。すでに解析結果は、腰痛が問題となっている職場で、腰の負担になる動作の分析に役立っているという。その情報だけでも作業の改善や作業者の教育に役立つと、好評だそうだ。

センシングをアシストに活かす

田中さんは、今回のウェアの他にも、他大学や会社と共同で、数々のアシストスーツを開発してきた。「スマートスーツ」、「疲れ知らずスーツ」、「SEnS(上肢作業支援スーツ)pdf は、どれも「軽労化」をコンセプトに作られた“アシストしすぎないアシストツール”だ。アシスト(たすける)、リスク回避(まもる)、トレーニング(きたえる・たもつ)を三本柱に構えた、程よい「軽労化」技術が活用されている。

アシストツールと計測機器を平行して開発するのは大変ではないだろうか。これについて田中さんは、ロボット制御では、計測と制御は表裏一体で、密接な関係にあると言う。アシストツールが状況に応じて的確に作動するためには、リアルタイム制御が欠かせない。そのために、アシストツールだけでなく作業者や周囲の環境も、リアルタイムに計測する必要がある。また、アシストツールを作業者の動作や作業内容にぴたりと合うものにするには、負担のかかる作業や体の部位を分析し、その上で、機能や形態を設計する必要がある。センシングウェアからアシストウェアが誕生したのも、計測と制御の両方の技術があってこそだからだ。

作業者目線にこだわる程よいアシスト

田中さんは、企業との共同開発やさまざまな作業現場での実証実験など、精力的に研究を行っている。その原動力は、軽労化※4社会の実現を目指す産学連携研究体「軽労化研究会」を中心とした幅広い分野の交流にあるという。少子高齢化社会で、労働力の確保がますます難しくなる現代、ロボットによる自動化や無人化の解決策もあるが、人だからこそできる作業も少なくない。本来アシストツールは、作業に不足する身体能力や認知能力を補い、作業リスクを下げるためのものだが、前述のように、アシストしすぎると作業者の能力を低下させる恐れがある。過不足のないアシストは、作業リスクを減らし、人びとが生きがいを持って働き続けられる社会を実現する。田中さんの研究の根底にはそのような構想がある。

※4「軽労化」は株式会社スマートサポート(軽労化研究会事務局)の登録商標

コンピュータ化やロボット化が進み、私たちの生活は便利になったが、たんにツールをパワフルにすればいいとは限らない。負荷のかかり具合をセンシングする技術と、力を添えるパワーアシスト技術が “ちょうどいいアシスト”を生み出すことで、労働の負担が減り質が高まっていく、そんな将来に期待したい。

(サイエンスライター 丸山 恵)

ページトップへ