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大陸も海から生まれた?地球科学における長年の謎に新たな仮説

掲載日:2016年11月24日

地球は、太陽系で唯一「液体の水」を持つ水の惑星だ。同時に地球は、「大陸」を持つ太陽系でただ一つの惑星でもある。その大陸はどうやってできたのか。実はまだよく分かっていない。

かつて「大陸地殻の主成分は花崗岩」と習った人も多いだろうが、昨今の研究で、大陸地殻の平均組成は安山岩に近いことが分かっている。では、その材料である安山岩質マグマはどのようにして作られるのか。実は、これもまだよく分かっていない。

大陸とその材料がどうできたのか。この2つの謎を解く手がかりになるかもしれない新しい仮説が、今年9月、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)から発表された。

新たな発見と、従来の定説を覆す新説とは?

新説を唱えたのは田村芳彦(たむら よしひこ) JAMSTEC 海洋掘削科学研究開発センター 上席研究員らの研究グループ。

これまでの定説は、「地殻の薄い海洋底では玄武岩質、厚い大陸では安山岩質のマグマが噴出する」というものだったが、今回、伊豆小笠原弧とアリューシャン弧の研究から、「地殻の薄い部分の火山は安山岩質、厚い部分の火山は玄武岩質のマグマを噴出する」という新たな発見があったという。この発見を基に安山岩質マグマの成因を探った結果、「大陸地殻が海洋で生まれた」という仮説が唱えられたのだ。

海洋島弧の地殻の厚さに注目する

新たな発見につながる研究の中身に踏み込んでみよう。今回、研究対象とした「伊豆小笠原弧」は、東京から太平洋を南へ約100キロメートルの地点から南方向へ約1,200キロメートルに渡って延び、「アリューシャン弧」は、アラスカ半島からカムチャッカ半島にかけて約2,000キロメートルに渡って延びている。どちらもプレートの沈み込みによって形成される代表的な海洋島弧であり、大陸から遠く離れた両海洋島弧は既存の大陸地殻の影響が少ないと考えられるため、大陸がどのように誕生するのかを研究するのにうってつけだ。研究チームは、この2つのエリアについて、地殻の厚さを調べ、海底火山から噴出したマグマの特性を比較した。

実測した調査データが豊富に揃う伊豆小笠原弧を調べると、北部は水深0~2,000メートルと浅く、地殻は32~35キロメートルと厚い一方で、噴火活動と島の拡大で注目を集めた西之島がある南部は水深2,000~4,000メートルと深く、地殻は16~21キロメートルと薄いことが分かった。この水深と地殻の厚さの相関関係は、「アイソスタシー」が成り立っているためと考えられる。

アイソスタシーの成立とは何か。大小の氷が浮いた水槽を思い浮かべてほしい。氷は水より密度が小さいので、水に浮く。そして、水面から出ている部分が多い大きな氷ほど、水面下に漬かっている部分も多い。これは氷の重さと氷に働く浮力が釣り合っているためである。地殻とマントルは、この氷と水の関係に例えられる。即ち、マントルに比べて密度の小さい地殻はまるでマントルに浮いたような状態であり、地殻の荷重と地殻に働く浮力は釣り合っているとみなすことができる。これがアイソスタシーの成り立っている状態だ。海底面が高ければ地殻が厚く、低ければ地殻は薄い。その結果、水深が浅いほど地殻は厚く、水深が深いほど地殻は薄いと考えることができるのだ(下図)。

図1.地殻はマントルよりも密度が低い。このため、まるで水に氷が浮くように、地殻はマントルに浮いているような挙動を示す。厚い地殻はマントルの中にも厚く張り出す。結果、水深が浅い場所の地殻は厚く、水深が深い場所の地殻は薄いといえる 筆者作図
図1.地殻はマントルよりも密度が低い。このため、まるで水に氷が浮くように、地殻はマントルに浮いているような挙動を示す。厚い地殻はマントルの中にも厚く張り出す。結果、水深が浅い場所の地殻は厚く、水深が深い場所の地殻は薄いといえる 筆者作図

伊豆小笠原弧とは異なり調査データが不足しているアリューシャン弧では、このアイソスタシーの考え方と当該エリアの水深データを用いて、地殻の厚さの推定を試みた。その結果、アリューシャン弧東部の地殻は35キロメートルの厚さを持つが、西部では10~20キロメートルしかないことが判明した。

地殻の厚さとマグマの種類の関係に新たな発見

研究チームは次に、それぞれのエリアの海底火山から噴出したマグマの種類を比較した。JAMSTECがこれまで蓄積してきた岩石データベース「GANSEKI」などの調査データによれば、共に地殻の厚さが30キロメートル以上ある伊豆小笠原弧北部とアリューシャン弧東部では玄武岩質マグマが(図2-(a)(b))、一方、共に地殻の厚さが20キロメートル前後の伊豆小笠原弧南部とアリューシャン弧西部では安山岩質マグマが多く噴出していたことが分かった(図2-(c)(d))。さらに、伊豆小笠原弧の先に続くマリアナ弧を含めると、まだこの海洋島弧ができ始めたばかりでその地殻が薄かったと考えられる約3,400~2,300万年前に、主に安山岩質マグマが噴出していたことが示唆されたのである(図2-(e))。

図2.伊豆小笠原弧の北部と南部、アリューシャン弧の東部と西部、伊豆小笠原マリアナ弧ができた初期(漸新世:約3,400万年~2,300万年前)に噴出した溶岩のシリカ成分(SiO2重量パーセント)の頻度分布を表している。縦軸は分析された溶岩の個数(頻度)、nは分析された全個数を示す。シリカ成分で青く示されている部分が安山岩質マグマの範囲、それよりシリカの少ない部分は玄武岩質マグマの範囲である。伊豆小笠原弧北部、アリューシャン弧東部で玄武岩質マグマが多い反面、伊豆小笠原弧南部、アリューシャン弧西部、マリアナ弧で安山岩質マグマが卓越していることが分かる 提供:JAMSTEC
図2.伊豆小笠原弧の北部と南部、アリューシャン弧の東部と西部、伊豆小笠原マリアナ弧ができた初期(漸新世:約3,400万年~2,300万年前)に噴出した溶岩のシリカ成分(SiO2重量パーセント)の頻度分布を表している。縦軸は分析された溶岩の個数(頻度)、nは分析された全個数を示す。シリカ成分で青く示されている部分が安山岩質マグマの範囲、それよりシリカの少ない部分は玄武岩質マグマの範囲である。伊豆小笠原弧北部、アリューシャン弧東部で玄武岩質マグマが多い反面、伊豆小笠原弧南部、アリューシャン弧西部、マリアナ弧で安山岩質マグマが卓越していることが分かる 提供:JAMSTEC

これは驚くべき発見であった。現在の地球では、大部分の安山岩質マグマがプレートの沈み込み帯で生産されているが、沈み込んだ海洋プレートの上部マントルで噴出するマグマはほとんどが玄武岩質マグマである。海底火山自体も玄武岩組成のものが多い。このため、「安山岩質マグマがどのように作られるのかは分からないが、地殻の薄い海洋底では玄武岩質マグマが、地殻の厚い大陸では安山岩質マグマが噴出する」というのが、従来の地球科学の定説だった。ところが、今回の両海洋島弧における研究成果は、「地殻の厚い場所では玄武岩質マグマが、地殻の薄い場所では安山岩質マグマが噴出する」ことを明示しており、従来の定説を覆したのだ。

地殻の薄い海洋島弧なら、沈み込み帯で生じた安山岩質マグマが大陸に育つ

地殻の薄い場所で、安山岩質マグマはどのように生じたのか。地殻の下にはマントルがあり、一般に火山から噴出するマグマは、一定条件下でマントルの一部が融解(部分融解という)することによって生成される。また、過去に行われた岩石学的(高温高圧)実験から、水を多く含んだマントルが低い圧力で融解すると、安山岩質マグマが作られる可能性が高いことが指摘されている。そこで、今回の2つの海洋島弧における研究成果を根拠にすれば、次のような仮説が成り立つ。

沈み込み帯では、沈み込むプレートからそのプレートの上部マントルへ大量の水が供給されると共に、地殻の薄い場所では直下への圧力が低くなるため、安山岩質マグマが生成される―― つまり海洋島弧のように、沈み込みに伴う大量の水供給があり、かつ厚さ30キロメートル以下の地殻が薄いエリアでは、直下のマントルにおいて安山岩質マグマが生じていると考えることができる。この仮説に基づくならば、地球が宇宙に誕生したばかりのころ、地球上の地殻全体が薄かった場合、海洋では活発に安山岩質の大陸の生成が行われたのではないだろうか。これらの仮説や示唆から導かれるのは、「大陸は海から誕生した」とする新たな説だ。

逆に、地殻が30キロメートルを越える厚い場所では、もはや直下は高圧であるため安山岩質マグマは生成されず、玄武岩質マグマのみが生成される。伊豆小笠原弧北部においては、既に存在している安山岩質の地殻を玄武岩質マグマが溶かしてしまうことが示されており、同様の現象はカリブ海の東端から東南端にかけて分布する小アンチレス諸島の火山やニュージーランドの火山など、世界中で散見される。これらは、安山岩質の地殻はある程度成長したところで、玄武岩質マグマの作用によりその成長に制限がかかることを示唆しているという。

大陸生成プロセス全容解明に向けた次なるステップ

事実、地殻が薄い伊豆小笠原弧南部の西之島では、その海洋底は玄武岩であるにもかかわらず、誕生以来ずっと安山岩質マグマが噴出していたことが昨今の研究調査で確認された。一方で、地殻が厚い北部の三宅島や伊豆大島では、玄武岩質マグマが噴出している。西之島が今後、どのような噴火プロセスを踏み、どのように拡大していくのか。そこには大陸誕生の謎に迫るヒントがありそうだ。

写真1.新しい仮説を生み出すきっかけとなった西之島の噴火。西之島の調査結果及び岩石の分析結果は続いて出される論文で議論される 提供:JAMSTEC
写真1.新しい仮説を生み出すきっかけとなった西之島の噴火。西之島の調査結果及び岩石の分析結果は続いて出される論文で議論される 提供:JAMSTEC

来春3~4月には同じ海洋島弧であるニュージーランドのケルマディック弧、続く7月には西之島周辺海域(土曜海山、海形海山)の調査航海を控えており、これらの調査結果から今回提唱した新仮説の普遍性の検証を重ねていく予定であるという。人類史上初めてマントルへの大深度掘削を可能にした地球深部探査船「ちきゅう」を用いて実際に海洋島弧を掘削すれば、いずれ海底下の安山岩質地殻の存在有無を確認することも可能だ。長年、地球科学分野の謎であった大陸生成プロセスの全容解明に向けた動向に今後も注目していきたい。

(サイエンスライター 橋本 裕美子)

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