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未開の海底資源 ―「海底マンガン鉱床」研究最前線

掲載日:2016年10月5日

陸上の鉱物資源やエネルギーに乏しい日本は、その多くを海外からの輸入に頼っているのをご存知だろうか。しかし近年、日本が持つ排他的経済水域の調査結果から、「メタンハイドレート」や「鉄マンガンクラスト」などの海洋資源が大量に存在することが分かってきた。これらを商業的に実用化できれば将来の日本の産業経済を支える可能性がある。経済産業省が策定した「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」において、例えば「鉄マンガンクラスト」は2028年までに民間企業による商業化の検討が計画されている。これら海洋資源の調査は2011年以降本格化したが、その性質や分布、形成過程など分かっていないことも多い。商業化には、低コストで効率的な採集方法と採集できる区域を明らかにする調査方法を確立することが不可欠だが、そこに至るためにもまずはこれら海洋資源の基本的研究が求められるのだ。海洋研究開発機構(以下JAMSTEC)は、毎年異なる資源をテーマに海洋資源研究の成果報告会を行ない、この会を将来の商業活用に向けた産業界とのディスカッションの場としている。

9月6日に開催された成果報告会「海底マンガン鉱床—コバルトリッチクラスト研究の最前線と資源としての可能性—」を取材した。この記事では、海底マンガン鉱床をはじめとする海洋資源について簡単に解説した上で、4人の登壇者の発表内容を紹介する。

日本の周りの海底資源

初めに、日本周辺の海底に分布するエネルギー資源と、鉱物資源をいくつか紹介する。
その一つが深海底で活動する海底熱水噴出孔だ。海底熱水噴出孔では、海底下より湧き上がる300度以上の熱水が、煙突のような「チムニー」(Chimney。柱状の吹き出し口)から噴出している。チムニーは銅、亜鉛、鉛、銀などの硫化物から成り、レアメタルの金属鉱床となる可能性がある。

図1.インド洋中央海嶺南部海底にある熱水噴出孔。これは真っ黒な熱水を出す噴出孔で「ブラックスモーカー」とも呼ばれる。周辺には白いエビの姿が確認できる(提供:JAMSTEC)
図1.インド洋中央海嶺南部海底にある熱水噴出孔。これは真っ黒な熱水を出す噴出孔で「ブラックスモーカー」とも呼ばれる。周辺には白いエビの姿が確認できる(提供:JAMSTEC)

二つ目がメタンハイドレートで、これは、海底下の低温高圧条件の下で、水分子がメタン分子を取り込み氷状に固まったもの。メタンは海底下の有機物の熱分解によるものと、微生物活動によって作られたものと二種類ある。石炭や石油などの化石燃料に代わる次世代のエネルギー資源として期待される一方で、空気中ではメタンガスは温室効果ガスになりうることが危惧される。

図2.日本海上越沖の海底に露出しているメタンハイドレート(提供:JAMSTEC)
図2.日本海上越沖の海底に露出しているメタンハイドレート(提供:JAMSTEC)

三つ目が今回報告された鉄マンガンクラスト(以下マンガンクラスト)だ。マンガンクラストは、主に鉄、マンガン酸化物から成り、海山の斜面や頂部を覆うように存在する。コバルトや白金などのレアメタル、レアアースも含む。特にコバルトを多く含むものを「コバルトリッチクラスト」と呼ぶ。マンガンクラストやコバルトリッチクラストを含めたマンガンに富んだ重金属酸化物の鉱床が「マンガン鉱床」と呼ばれ、今回の成果報告会のメインテーマである。

今年1月には、無人探査機「かいこうMk-IV」での調査によって、今までで最も深い水深5,500メートルに広がるコバルトリッッチクラストの試料採取を成功させ、研究を大きく前進させる足がかりとなった(関連リンク参照)。

図3・4.上の写真は、四国海盆で撮影された枕状マンガンクラスト (提供:JAMSTEC)。下の写真は、会場で展示されていたマンガンクラスト。

図3・4.上の写真は、四国海盆で撮影された枕状マンガンクラスト (提供:JAMSTEC)。下の写真は、会場で展示されていたマンガンクラスト。 図3・4.上の写真は、四国海盆で撮影された枕状マンガンクラスト (提供:JAMSTEC)。下の写真は、会場で展示されていたマンガンクラスト。
図5.日本付近の海底資源の分布。マンガンクラストを示す赤いポイントはいずれも、海山の頂上や斜面に分布していることが分かる(提供:JAMSTEC)
図5.日本付近の海底資源の分布。マンガンクラストを示す赤いポイントはいずれも、海山の頂上や斜面に分布していることが分かる(提供:JAMSTEC)

4人の研究者の発表より

報告会では、4人の研究者がそれぞれ、1. 海底マンガン鉱床の現在の知見まとめ、海底マンガン鉱床の成因について、2. 太古地球での形成モデル、3. 化学的アプローチ、4. 生物的アプローチの研究成果を発表した。

●海底マンガン鉱床の実態はどこまで分かっているか

臼井朗(うすい あきら)高知大学海洋コア総合研究センター特任教授は、海洋資源の開発調査が初めて行なわれた頃から、40年以上海底マンガン鉱床研究を続けてきた第一人者だ。臼井氏によれば、海底マンガン鉱床の探査研究は、近年のソナー(音波)探査など技術発展の加速により2011∼14年の間に大きく前進したという。最新の調査でその分布は、北西太平洋ではハワイ西方から九州沖まで、深さ1,000~6,000メートル超と、面積も深さも研究開始当時の予想を超える広い域に及ぶことが分かった。海底マンガン鉱床には、鉄とマンガン、コバルトなどの金属が陸上の鉱石に近い割合で含まれているため、陸上に匹敵する膨大な資源が眠っているということになる。

また海底マンガン鉱床は、数百万年かけて数ミリメートルから数センチメートルの速度で成長し、定常的な物質循環によって現在進行形で形成を続ける「生きた鉱床」だという。全世界の深海底に発見されていて、主な金属の起源は地殻物質の風化と火山活動にあると考えられている。しかし、具体的にどのように鉄やマンガンが酸化され濃集されるのか、そのプロセスはまだ明らかではない。超スローな形成スピードが、その解明を難しいものにしている。

臼井氏は、2001年に、有人潜水調査船「しんかい6500」で「酸化マンガンの現場沈着実験」を行なった。酸化マンガンの結晶の核となるプレートを深海底に沈め、海水中でどのように金属が濃集するのかを確かめるためだ。時を経た2014年、沈めたプレートを取り出して行なった分析では、プレートの周辺にレアアースやニッケル、銅などの金属結晶が形成されていることが分かった。臼井氏はこれを、マンガンクラストの初生物質ではないかと考えている。そのプレートは現在も深海底にあり、次回の回収と分析が楽しみに待たれる。また、水深と金属濃度に相関関係が見られるという、自身の最新の成果も紹介された。

●海底マンガン鉱床いまむかし

鈴木勝彦(すずき かつひこ)JAMSTEC海底資源研究開発センター長代理は、陸上のマンガン鉱床をヒントに、海底マンガン鉱床の形成過程を推定する研究を紹介した。地球の46億年の歴史の中で、地球全体が凍結する「スノーボールアース」は2回あったとされるが、陸上最大のカラハリマンガン鉱床(南アフリカ)の下には氷河堆積物「ダイアミクト」が堆積しており、1回目のスノーボールアース(24〜22億年前)の海でできたことが分かっている。またその時代には、大気中の酸素が上昇したことも分かっているという。

図6.地球史を示す図。カラハリマンガン鉱床ができた時期(下の枠中央の赤いバー)と1回目のスノーボールアース(全球凍結)の時期が一致することが分かる (鈴木氏のスライドより。提供:JAMSTEC)。
図6.地球史を示す図。カラハリマンガン鉱床ができた時期(下の枠中央の赤いバー)と1回目のスノーボールアース(全球凍結)の時期が一致することが分かる (鈴木氏のスライドより。提供:JAMSTEC)。

前述の通り、マンガン鉱床は主に鉄やマンガン酸化物から成る。つまり海中の金属イオンを酸化するだけの豊富な酸素があった時代にできたと考えられている。カラハリマンガン鉱床が作られたシナリオはこうだ。地球表面が氷に覆われたスノーボールアースの時代には、陸上や海表面は凍りついていたが、海中には液体の水が閉じ込められていた。そのため海中火山活動によって海水のマンガンイオンが増加した。やがてその時代が終わり、海中のシアノバクテリア※が大繁殖すると、海水中の酸素が増加した。これがマンガンイオンを酸化して海底に沈殿させ、マンガン鉱床が形成した。

※シアノバクテリア/藍色の藻の仲間で、水中や氷河に繁殖する。27億年前、シアノバクテリアが大繁殖した結果、光合成によって地球上に大量の酸素を作り出し、現在の酸素を多く含む大気を作り上げたと考えられる。

このシナリオを確かめるために、鈴木氏らは「Os(オスミウム。白金族元素)同位体」を使って、過去の地球の酸素濃度変化を調査した。オスミウムには187Osと188Osなどの同位体が存在し、陸上の岩石には188Osに比べて、187Osが多い。そして、酸素濃度が大きいほど陸上から187Osが海に流れ出すために、海水の187Osの割合が高くなる。つまり、オスミウム同位体比の変化がそのまま過去の地球大気の酸素濃度変化を表わすと言っていい。この変化を調べると、スノーボールアース時代が終わった時期に、海洋に大量の187Osの供給があったことが分かった。つまり、海中に酸素が豊富にあった証拠であり、鈴木氏らの提唱するシナリオと一致する。

講演の最後に鈴木氏は、太古からの海の成分や温度などの情報を記憶している媒体として、マンガン鉱床は理学的にも大変貴重なものであると強調していた。

●膨大な資源のミクロなプロセス

柏原輝彦(かしわばら てるひこ)JAMSTEC同センター資源成因研究グループ研究員は、マンガン鉱床が鉄やマンガンのほか、資源として期待されるレアメタルなど多様な元素を濃集している点に注目し、その化学プロセスを明らかにしようとしている。これまで、他の元素が、鉄マンガン酸化物のどこにどのように取り込まれているのかを明らかにするため、SPring-8などでのX線解析を行なってきた。

海底のマンガンクラストには、「Te(テルル)」というレアメタルが特異的に濃集することが分かっている。柏原氏らは、それはテルル分子が鉄分子と形が非常に良く似ているためであることを突き止めた。テルルは鉄マンガン酸化物の表面に吸着されるだけでなくその構造内にも取り込まれており、したがってテルルが濃集しているというわけだ。その他、モリブデンやタングステンなど化学的に似たような挙動を示す元素についても解析したところ、固相(固体)と強い化学結合を作る元素はより多く濃集し、電気的に引き付けられるものは相対的に濃集度合いが小さいことが分かった。

将来的には元素ごとの濃集メカニズムの違いを明らかにし、さらに微生物が関わったときにどの元素がどういう振る舞いをするかを予測し、濃集プロセスをコントロールできるのではないか、と考えている。そうすれば、欲しい金属をより多く含む鉱床がどこにあるかを探し出す手がかりになるだけでなく、深海底に行かずとも欲しい金属を手に入れることも可能になるかもしれない。

●海底マンガン鉱床に群がる微生物

加藤真悟(かとう しんご)JAMSTEC同センター資源成因研究グループ特任研究員は、マンガンクラストに生息する微生物には、どんな種類のものがいて、何をしているのかを研究している。例えば、我々の口の中では微生物が歯を溶解することで虫歯ができ、分泌物を沈着させることで歯石を作り出す。微生物は海中でもさまざまな元素と相互作用をしていても不思議はなく、マンガンクラストの成因にも関わっているのではないか、と加藤氏は考えている。試料が深海底にあるため簡単に入手できないことに加え、地表の微生物などと混ざらないように採取・管理することが難しく、ほとんど前例がなかったこの研究は、近年の深海探査技術の発展によって大きく前進した。

「次世代型DNAシーケンサー」を駆使して、マンガンクラストから抽出したDNAを網羅的に解析し、マンガンクラストに25,000種類以上の微生物が存在すると推定した。そのうち99%は未知の微生物でどのような機能を持つかは不明だという。それらの微生物は、クラストの表面のみに生息し、内部にはほとんど生息していないことが分かった。また、特定の系統群の微生物が、水深にかかわらず多く生息していることも分かった。これらの微生物がマンガンクラストの形成にどのように関わっているかはまだ明らかではないが、クラスト表面では、代謝活動によるpH低下が起きたり、粘着物質が産み出されたりしており、少なくとも何らかの化学変化を起こしている可能性があるという。

図7.マンガンクラスト表面の微生物の電子顕微鏡写真。1マイクロメートル程度の棒状の生物が確認でき、その周りにナノレベルの繊維状の分泌物が張り巡らされている様子が見てとれる (成果報告会要旨集より。提供:JAMSTEC)
図7.マンガンクラスト表面の微生物の電子顕微鏡写真。1マイクロメートル程度の棒状の生物が確認でき、その周りにナノレベルの繊維状の分泌物が張り巡らされている様子が見てとれる (成果報告会要旨集より。提供:JAMSTEC)

加藤氏は、海水中のアンモニアが微生物の餌ではないか、あるいは、代謝で作られた粘着物質が鉄マンガン酸化物粒子を吸着しているのではないか、溶解沈殿で鉄マンガン酸化物を作っているのではないか、などさまざまな可能性を視野に、微生物の働きを明らかにしていくという。加藤氏のチームは、深海から採取した試料中の微生物を2年間培養し、マンガン酸化物を作らせることにも成功しており、今後は他の元素との関係も探っていくという。マンガンクラストの成因解明を通じて、我々が知らなかった微生物と元素の関係を知ることができそうだ。

大きなポテンシャル、しかしまだ研究半ば

4人の研究者の報告の後、パネルディスカッションでは、研究者、資源開発関係者らによる意見交換が行なわれた。日本では、レアアース、ゲルマニウム、コバルト、アンチモン、タングステン、マグネシウムなどは海外への依存度が高く、貴重である。マンガンクラストはさまざまな金属元素を含むことから、この窮状に応え得る資源であること、また、深海に存在するマンガンクラストの掘削には陸上よりもコストがかかるが資源自体の価値が高く量も膨大なため、効率的な手法が確立されれば商業化は可能であることが確認された。

マンガンクラストをはじめとする海底資源はどのように生成され、どんな金属を与えてくれるのか。この謎を解明できなければ、海に眠ったままの資源を最大限に生かすことができない。海底資源を「日本を救う宝」にするために、着々と進められている研究に期待したい。

(サイエンスライター 田端萌子)

トップページと一覧ページの写真:本記事の成果報告会で展示された海底マンガン鉱石(筆者撮影 提供:JAMSTEC)

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