サイエンスクリップ

乳幼児の手足を痛くする新しい病気を発見

掲載日:2016年7月25日

泣かない赤ちゃんはいないが、「よく泣く子」は確かにいる。それが病気のサインだとしたら…。京都大学と秋田大学の研究グループは、よく泣く子の中に、遺伝性の手足の痛みで泣いている子がいると仮説を立てて研究を行い、痛みを引き起こす原因の遺伝子を特定、「小児四肢疼痛発作症」と命名した。いったいどんな病気なのか。

手足が痛む、家族性の病気

病気発見のきっかけは、2012年から秋田大学医学部附属病院小児科外来で行った調査だった。手足に原因不明の痛みを訴える6人の患者の家系を辿っていくと、親や子の代、祖父母の代、曾祖父母の代に渡って同じ症状の者が複数確認された。調査で分かった症状は、以下のようなものである。

図1.小児四肢疼痛発作症の症状。提供:京都大学医学研究科
図1.小児四肢疼痛発作症の症状。提供:京都大学医学研究科

痛みの訴えは、膝、足首、手首、肘の順で多く、左右の片側で感じる場合がほとんどで、どちらかというと鈍い痛みで、骨の奥が痛い感じ、古傷が疼く感じ、などと表現される場合もある。患者の多くは痛む所を温めると楽になるという。

痛みの発作は、1日数回、数日に渡る。夜間に痛むことが多く、夜泣きや不眠の原因にもなったり、学童期の児童では頻繁な痛みの発作が原因で、不登校になったりしたケースもある。痛みは15歳位から少しずつ軽減していくが、それまでの治療は、主に鎮痛剤が投与される。

2016年7月現在、国内で30名の患者がいることが遺伝子解析で分かっており、その家系内で症状のある者を含めると89名になる。症状のある子供が必ずしも医療機関を受診するとは限らないので全数を把握するのは難しいが、研究チームは、国内で千〜数千の患者が存在するのではないかと予想している。

痛みの原因は、ある一つの遺伝子の変異

一家系で多数の患者が出る遺伝性疾患は、原因遺伝子が一つであることが多く、本疾患も例外ではない。患者が見つかった6家系から、発症者23名と非発症者13名の遺伝子を調べると、発症者に「SCN11A」という遺伝子の変異が認められた。

SCN11Aは、痛みを感じる仕組みに関わる「ナトリウムイオンチャネル」を制御する遺伝子の一つだ。私たちが痛みを感じるとき、細胞レベルでは、ナトリウムイオンがチャネル(通り道)を通って神経細胞の外側から内側に入る。その結果、神経細胞が興奮し、痛みのシグナルが伝達される。

研究チームは、SCN11Aが患者と同じように変異したマウスで実験し、痛みへの反応が通常より過敏になること、痛みを伝える神経細胞の興奮が起こりやすいことを確認した。ナトリウムイオンチャネルが正常に機能せず、痛みの伝達神経が過剰に興奮するため、痛みを感じやすくなるのだ。

解析技術を組み合わせ、原因遺伝子を探す

ここで、原因遺伝子の特定に貢献した「エクソーム解析」と「全ゲノム連鎖解析」にも触れておこう。

エクソーム解析は、全ゲノムのうちタンパク質に翻訳される「エクソン」と呼ばれる領域のDNA配列を調べる。エクソンは全ゲノムの1〜1.5%しかないが、遺伝疾患の多くはこの領域のDNA配列の変異に起因すると考えられている。全ゲノム解析よりはるかに低コストで高効率に原因遺伝子を探すことができる。

しかし、エクソーム解析だけで原因遺伝子を決定するのは難しい。病気との関連が推測される遺伝子が複数候補挙がった場合、誤った遺伝子にたどりついてしまう可能性があるのだ。実際、候補遺伝子が数個から数十個程度になるケースが多い。

そこで候補遺伝子群をさらに絞り込むため、全ゲノム連鎖解析も同時に行った。この解析では、疾患の原因遺伝子が染色体上のどこにあるかを統計学的に調べる。具体的には、家系内で原因遺伝子と連鎖して遺伝するDNAマーカー※1を利用して、その遺伝子の染色体上の位置を割り出す。これで原因遺伝子決定の可能性は大幅に高くなる。

※1 DNAマーカー/個人の遺伝的性質や、親族関係の目印となる特徴的なDNA配列。

図2.染色体上の疾患原因遺伝子とDNAマーカーのイメージ。疾患原因遺伝子の傍にあるDNAマーカーは、疾患と共に受け継がれる。図は筆者作成。
図2.染色体上の疾患原因遺伝子とDNAマーカーのイメージ。疾患原因遺伝子の傍にあるDNAマーカーは、疾患と共に受け継がれる。図は筆者作成。

このように2つの方法を併用したことが重要なポイントとなり、原因遺伝子SCN11Aの発見に至った。

実態を把握し、治療法開発へ

今後のステップとして、研究チームは、①国内での疫学調査※2による患者数や疾患の頻度の推計と②臨床病型や患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:どれだけ人間らしく満足して生活できているか)の把握が必要と考えている。ただし①については、患者が必ずしも医療機関を受診しているわけではく、医療機関が正しい患者数を把握できていないので、臨床医のみならず一般の方にも疾患を知ってもらうことが必要だという。

※2 疫学調査/地域や集団など社会の大勢の人を対象に調査し、病気の有無や、原因となる環境因子、環境因子が病気を引き起こす可能性などを調べる統計的調査。

また、将来的な治療法の開発を目標として、モデルマウス実験や細胞実験により本疾患の病態解明も進めていくという。本研究では、従来あまり注意を払われなかった環境要因や、年齢が痛みに関与することを明確にした。これらのメカニズムを解明し、新しい視点での鎮痛薬開発につながることを研究チームは期待している。

痛みのために泣き続ける赤ちゃんや、学校に行けない子供を思うと心が痛む。その家族の心配は計り知れない。今後の研究が実を結び、患者や家族の負担が少しでも軽くなることを願う。

(サイエンスライター 丸山 恵)

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