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微生物が作る世界最強の透明バイオプラスチック

掲載日:2016年5月19日

「柔らかい」「使い捨て」といったイメージを覆すバイオプラスチックが開発された。金子達雄(かねこ たつお)北陸先端科学技術大学院大学教授らは、高谷直樹(たかや なおき)筑波大学生命環境系教授と共に、遺伝子組み換え微生物を使って生成した化合物から、世界最高強度のバイオプラスチックを開発した。この新素材が、私たちの生活にどんな変化をもたらすのだろうか。

バイオプラスチック(バイオマスプラスチック)は、一般に生物由来の再生可能なバイオマス(生物資源)からできたプラスチックを指す。石油等の化石原料を使用せず、廃棄時には二酸化炭素と水に分解される、低炭素社会の実現に向けて大きな期待を担う素材だ。

大腸菌を使ったユニークな前処理行程

バイオプラスチックの製造は、とうもろこしやさとうきびのデンプンから得たブドウ糖を「乳酸」に変換し、重合※1させる方法が主流だ。しかし、本研究で微生物生産を担当した高谷教授は、ブドウ糖を「4−アミノ桂皮酸」という自然界には存在しないシナモン系の分子に変換した。これを可能にしたのが、遺伝子工学で作り出した特殊な大腸菌の発酵生産力だ。この大腸菌は、4−アミノ桂皮酸とよく似た天然物質を作り出す微生物の代謝系を移植したもので、4−アミノ桂皮酸の大量生産も可能にした。

※1 重合/プラスチックなどの高分子化合物を作る反応。材料となる小さい分子を鎖のようにつなげること。

世界初の生物由来「芳香族ポリアミド」

一方、プラスチック作成を担当した金子教授は、この4−アミノ桂皮酸から2種類の化合物を合成し、これらに光を当てた後に重合した。その結果、「芳香族ポリアミド」という種類のプラスチックを生成することに成功した。これまでにも、バイオプラスチックの原料を作るために大腸菌が使われたことはあったが、芳香族ポリアミドの原料が生産されたことはなかった。

図.合成直後の芳香族ポリアミド
図.合成直後の芳香族ポリアミド

バイオプラスチックとしての芳香族ポリアミドは世界初である。ポリアミドは、材料となる分子がアミド結合(例:タンパク質のペプチド結合)で多数つながった高分子で、代表的なものにナイロンがある。このうちベンゼン環を持つ芳香族ポリアミドは、強度や耐熱性に特に優れている。ベンゼン環の分子構造が安定しているからだ。

生成された芳香族ポリアミドをフィルム化すると、向こう側に印刷された化学式がはっきり見えるほど透明だった。

図.フィルム化したバイオプラスチックは、力学強度356MPa、光透過率93%(波長450nm)、耐熱温度273℃の物性を持つ
図.フィルム化したバイオプラスチックは、力学強度356MPa、光透過率93%(波長450nm)、耐熱温度273℃の物性を持つ

また、その力学強度※2は356MPaと、ガラス(100~150MPa)や、ナノセルロース膜※3(223MPa)をはるかに超える。一般に、プラスチックを強くする処理は透明度を下げるので、高い強度と透明性は夢の共演だ。

※2 力学強度/ここでは引っぱり強度を指す。単位密度あたりの引っ張る力で、値が大きいほど「軽くて強い」といえる。

※3 ナノセルロース膜/植物由来の繊維を高度な技術でナノ化したナノファイバー。軽い、強い、透明、熱伸縮性が少ない等の優れた性質を持つ再生可能な新素材として、近年注目されている。

低コストな〝スーパーエンプラ〟としての活躍に期待

今、「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」と呼ばれる耐熱性や力学強度に優れたプラスチックが、あらゆる産業界で欠かせない存在になっている。例えば、自動車の部品として金属やガラスの代わりに使えば、車体は軽くなり、燃費が良くなる。今回開発されたバイオプラスチックは、中でも特に耐熱性に優れた「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」の基準もパスしている。車体の軽量化に加え、バイオプラスチックを使うことで二酸化炭素の固定化※4もできるので、大規模な二酸化炭素の排出削減を目指せる。

開発したバイオプラスチックは、コスト面でも実用化が十分可能だ。今回のような遺伝子工学的手法を使えば、1kgあたり2,000∼4,000円で作れるという。そのうえ生産効率が95%を超えるので、生産工程でのロスがほとんどないのも魅力だ。

※4 二酸化炭素の固定化/植物が大気中の二酸化炭素を、デンプンやブドウ糖などの炭素化合物として溜めておくこと。ここでは、できたバイオプラスチックに二酸化炭素を溜めておくと考える。

研究チームが語る「研究の今後」

この優れたバイオプラスチックの発見を、新素材として実用化し、社会に根付かせるためには、どのような課題があるのだろうか。研究の次のステップや広がる夢について、金子教授、高谷教授に伺った。

Q. 本研究の次のステップは何ですか?
A. 透明ポリアミドを大量に生産するための障害を洗い出し、それを解決するステップです。また、本材料の熱力学的物性や光学特性を微妙にコントロールするための添加剤などを開発する必要があります。さらに、エレクトロニクス材料へと展開するために、電子工学的に使用されてきた種々の金属や無機物との接合性を評価し、コントロールする技術を開発する必要があります。これらを踏まえ、企業との連携を密接に行い実用化に向けて発酵生産の効率化とコストダウンを含めた研究展開が重要です。

Q. それを阻む要素として、どんなことが考えられますか?
A. 研究における一つ一つの課題は実用に近づけば近づくほど分野横断的になり、適した共同研究者を見つけるのが難しいという問題があります。ここを間違えると人間関係の問題でプロジェクトそのものが潰れてしまう可能性があります。同様に、企業との関係を問題なく結ぶことにも困難を伴います。特に、大きいプロジェクトになればなるほど、大企業との共同研究が必要となるのですが、大企業で各研究者の動きを全て把握しているところは少なく、例えばプロジェクトを進めた状態で担当者が突然変更し、プロジェクトそのものが頓挫することもあり得ます。この問題を上手く解決する術はなく、産学連携の難しさを如実に示す大きな課題です。

Q. 金子教授、高谷教授が最終的に目指すことを教えてください。
A. バイオから得られる新素材が従来の石油から得られる素材よりも優れていることを証明し、かつ持続可能社会の実現のために、出来るだけ多くの有機材料をバイオベースなものに置き換えていきたいと考えます。全ての素材を我々だけで置き変えるのは極めて難しく、この分野の世界の研究者を集めた大きな会議を定期的に行い、熟した分野へと成長させることが大事です。我々は特に、世界中のこの分野の研究者の中でも芳香族系のバイオ分子に注目することで立ち位置を確固たるものにしてきており、高性能かつ高機能な有機材料への展開を行う使命があると感じています。

新素材をデザインする「マテリアルズインフォマティクス」の時代へ

今回紹介した新素材のように、低炭素社会に向けた新しい材料へのニーズが高まっている。これまで、材料の開発は、既知の元素の組成や構造から、経験や勘を頼りに新たな物質の性質を探ってきたが、求められる機能を持つ材料を、もっと合理的に探す必要がある。そこで、この分野が今目指すのが、材料に関する膨大なデータを高度な統計的手法で系統的に取り扱う「マテリアルズインフォマティクス」の確立だ。これにより、目的の機能を持つ材料のデザインが可能になり、従来10〜20年を要した開発期間は2〜3年に短縮できるという。バイオ材料を視野に入れる場合には、多種多様な生物の代謝についての探索と合成生物学の革新も鍵となるだろう。

日本のバイオプラスチック開発は、アメリカやヨーロッパと並んで世界のトップレベルだ。今後、マテリアルズインフォマティクスの発展に伴い、さらに加速していくだろう。

*図版提供: 北陸先端科学技術大学院大学、筑波大学 本研究チーム

(サイエンスライター 丸山 恵)

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