サイエンスクリップ

科学コミュニケーター養成講座のこれまでとこれから
−英国インペリアルカレッジを参照しつつ考える

掲載日:2016年1月15日

10年前に始まった科学コミュニケーション関連講座

2005年、北海道大学、東京大学、早稲田大学で、科学と社会をつなぐ人材の養成を目指し、政府の科学技術振興調整費を受けて「科学コミュニケーション」関連のプログラムが開設された。北大は学外者にも広く門戸を開いた「科学技術コミュニケーター養成プログラム(CoSTEP)」、東大は東大の大学院生を対象にした副専攻プログラムとして総合文化研究科の「科学技術インタープリター養成プログラム」、早大は正規の大学院修士課程として政治学研究科に「科学技術ジャーナリスト養成プログラムMAJESTy」を開設した。

3講座の修了生は2014年度末時点で合計800人を超える。このような科学コミュニケーション関連の講座の創設は他の大学にもじわじわと広がってきている。※1しかし、日本では「科学コミュニケーター」専門職として働く場は少なく、修了生の受け入れ先が十分に整っているとは言えない。教育・研究機関、企業の広報、メディア、博物館や科学館など、科学コミュニケーションを専門的に学んだ人材が活躍できる場は各所にあるはずなのだが、なぜだろうか。

本記事では、3講座のプログラムの中身に迫り、かつ、京都大学国際広報室で働く英国・インペリアルカレッジの科学コミュニケーションユニット卒業生及び海外の科学コミュニケーション事情に詳しい国際広報室長の話から、大学広報を例に、科学コミュニケーション関連講座の修了生が社会のどのような現場で活躍することが求められるか考えたい。

東大・北大・早大各講座の概要と特徴

    ■ 北海道大学「科学技術コミュニケーター養成プログラム(CoSTEP)」

    北海道大学の「科学技術コミュニケーター養成プログラム(CoSTEP)」は、科学技術コミュニケーターが修得すべき理論とスキルについて体系的なカリキュラムを提供している。実習や演習を通して、サイエンスライティングの基礎、映像メディアの作り方、サイエンスイベントの実施など実践的なスキルも学ぶことができる。

    主に北大の札幌キャンパスで講義・演習・実習を受ける「本科」コースのほかに、遠隔地からでも講義をe-learningで視聴できる「選科」コースがあるのが大きな特徴である。そのためさまざまな場で既に科学技術を伝える役割を担っている、もしくは担いたいと思っている社会人も受講することができる。2014年度の受講生は本科生20名中7名、選科生54人中42人が社会人だ。

    社会の多様な場所・職業で科学技術コミュニケーション活動に取り組んでいく人材の育成とネットワーク作りにより、集合的・協同的な科学技術コミュニケーションの実現を目指している。

     

    ■ 東京大学「科学技術インタープリター養成プログラム」

    東京大学の「科学技術インタープリター養成プログラム」は、東京大学に在学中の主に大学院生を対象とした毎年10名前後の少数精鋭の副専攻プログラムだ。

    科学コミュニケーションの最重要課題は難しい専門知識を分かりやすく、かつ親しみやすく伝えることであると考えられがちだ。この講座ではそうした方法論のみでなく、「社会の中に科学がある」という共通認識のもとで広い視野で科学技術を捉え、問題点を掘り下げて探ることのできる人材の育成を目標としている。

    毎年冬学期(後期)から開始される最短1年半のプログラムの修了にはA4で10ページ程度の「修了論文」の提出が求められる。また、研究施設への研修旅行も実施している。授業では「科学と社会」的なテーマが多く扱われ、さまざまなテーマについてディスカッションを行う。異なる問題意識を抱いた、異なる専門領域の大学院生たちが、同じ課題について議論をする場は刺激に満ちており、多様な形で受講生らの成長を促している。

     

    ■ 早稲田大学「ジャーナリズムコース J-School」

    早稲田大学大学院政治学研究科は、自立的な批判性を持つ科学ジャーナリストの育成を目指し、2005年度より正規修士課程として「科学技術ジャーナリスト養成プログラム MAJESTy」を創設した。これは人文・社会科学と自然科学・技術とを接合した学際的なプロジェクトと位置付けられた。

    MAJESTyは2010年度より日本初のジャーナリズム大学院である「ジャーナリズムコース J-School」に統合され、「科学技術ジャーナリズム・プログラム」「環境ジャーナリズム・プログラム」「医療ジャーナリズム・プログラム」という専門認定プログラムとして引き続き実施している。

    講義や演習では批判的思考力を養うことを重視して方法論科目を充実させており、ジャーナリズムやメディアの構造、歴史、理論などを学ぶ。また、他学部の協力も得て政治・国際・経済・社会・文化・科学技術の各分野の専門知に深く根ざした講義を展開している。

    ジャーナリストを講師とする少人数形式の実践教育や、メディア企業、自治体、科学館などのインターンシップを必修としていることなどが特徴である。

     

(京都大学 修士2年 天野 彩)

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