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生存戦略を反映? 動物と違う植物の体内時計 - 動物には指揮者が1人、植物にはあちこちに -

掲載日:2015年12月14日

京都大学の遠藤 求(えんどう もとむ)准教授は、シロイヌナズナという植物を使って、体のどの部分が日の長さと温度を感知し、開花時期を決め、細胞を伸長させるのかを特定することに成功した。

図1.シロイヌナズナ
図1.シロイヌナズナ

生物の体にある「体内時計」は、体の周期的な反応を制御する。今回の研究では植物の体内時計が組織ごとに自律した制御機構で動いていることが分かった。動物の中央制御的な体内時計のネットワークとは様相が異なる。なぜ、動物と植物とでは、体内時計の制御の仕組みが違うのか。

図2.シロイヌナズナと体内時計の制御機構の模式図。
図2.シロイヌナズナと体内時計の制御機構の模式図。動物は、中央の時計が各組織の時計を制御する「集中型」のネットワークを持つ。植物は、各組織の時計がゆるく連携しているものの、かなり自律して働く「非集中型」ネットワークを持つ。

1990年代末から急速に進んだ体内時計研究

動物でも植物でも、睡眠や覚醒、開花など1日または季節に応じた周期的な体の反応は、体内時計という仕組みが作り出している。1997年に体内時計の実態である「時計遺伝子」が発見されたことで、研究が盛んに行われるようになった。その結果、体内のほぼ全ての細胞で、時計遺伝子群のタンパク質が周期的に増減を繰り返しており、局所的に周期的な反応を起こし、体全体の周期的な反応へとつながっていることが明らかになってきた。

動物の研究では、各組織の時計はまるでオーケストラのように連動して動き、多くの場合、脳の中の特定の領域にある「親時計」が全体を指揮していることが分かってきた。外界からの刺激の情報が親時計に統合され、親時計が体中の「子時計」を制御し、体全体の周期的な反応を生み出しているのだ。

一方で、植物の体内時計については、その指揮系統がどうなっているのかも、指揮者がいるとしたらどの組織なのかも、ほとんど知られていなかった。だが今回、植物には複数の指揮者がいて、それぞれの指揮者は外界からの異なる刺激を認識し、植物全体として異なる反応を指揮していることが解明されたのだ。

植物の体内時計の仕組みを探るための実験

遠藤氏はどのような問いを解決して今回の発見に至ったのか。その興味深い実験プロセスを紹介しよう。

問1:各組織で、時計は同調しているのか?

遠藤氏はまず、植物の各組織の時計が同じ時を刻んでいるかどうかを調べた。この魅力的な問いには、これまでに多くの研究グループが挑戦した。目的の組織を蛍光タンパク質で光らせ、バラバラにした細胞から光る細胞を選び出し、すり潰し、時計遺伝子群の活性を調べる幾多の実験がなされてきた。遠藤グループが成功した理由は、組織の分離の精度と、分離作業のスピードアップにあった。それまで1時間半から4時間半もかかっていた分離作業を、酵素処理と超音波処理を組み合わせることで、30分以内という短縮に成功した。こうして、組織内でぴたりと同調する時計遺伝子群の動きを正確に把握することができたのだ。

この方法で、「維管束」「表皮」「葉肉組織」という3つの組織の時計遺伝子群の活性周期を調べた。すると、全ての組織の時計が同調しているわけではなかった。特に茎の中に一定の間隔で並ぶパイプの集合体のような「維管束」では、他の組織とは周期がずれていることが分かった。

問2:各組織の時計の間に上下関係はあるか?

維管束の時計は特別なのだろうか。その働きを調べるため、維管束の時計を止め、他の組織の時計に与える影響を調べた。周期的に量が変化するはずの時計遺伝子の一つを、維管束でのみ人為的に活性化し続けたのだ。

すると、維管束の時計を止めると、隣の葉肉組織の時計も止まった。葉肉組織中の時計遺伝子群の周期的な変動もなくなった。逆に、葉肉組織の時計を止めても維管束の時計は正常に動いていた。つまり、維管束の時計が上位にあり、葉肉組織の時計を制御していることが明らかになった。

では、維管束の時計が、動物の脳にある「親時計」と同じように、ほぼ全ての刺激に反応して他の細胞の時計を制御する、唯一無二の指揮者なのだろうか。

問3:維管束の時計は何に反応するのか?

植物は、「日長(日の出から日の入りまでの時間)」や「温度」を手がかりに周期的な反応を起こすことが知られている。そこで遠藤氏は、維管束の時計を止めた株の日長に対する反応を調べた。

すると、8時間光を当て、16時間暗くするという短日条件では異常は見られなかったが、16時間光を当て、8時間暗くするという長日環境では開花時期が遅れるという現象が見られた。この現象は、植物が光を感知する仕組みを壊したときにも見られることから、光の刺激を受けて生じる反応として知られている。さらに、開花時期に影響を与えるのは、維管束の時計だけであることが分かった。

図3.各組織で体内時計を止めた株の開花状況。
図3.各組織で体内時計を止めた株の開花状況。植物全体で時計を止めた場合と、維管束の時計を止めた場合でのみ、開花時期が遅れた。維管束の時計が開花時期を制御していることが分かる。

葉肉細胞、表皮、茎頂分裂組織、胚軸細胞・根の組織などの時計を止めても開花時期は正常で、他の組織の時計だけでは植物全体の開花時期に影響しないこと、維管束の時計より上位に位置し、維管束の時計を制御する時計は調べた組織には存在しないことが確認された。

つまり、維管束の時計は、光に反応し、他の組織の時計群を制御し、開花時期を決める「親時計」として働いていることが明らかになったのだ。

問4:周期的な反応全てを維管束の時計が制御しているのか?

遠藤氏らが次に注目したのは、芽生えの茎(胚軸)の成長スピードだった。胚軸の細胞伸長も、開花同様に周期的な現象であることが知られていた。しかし、維管束の時計を壊しても、この胚軸成長には変化が見られなかった。では、胚軸の伸長を制御する時計は何なのか。

先ほどと同じように、各組織の時計を止めた株を調べたところ、「表皮」の時計を止めた株でのみ、胚軸の細胞が長軸方向に伸びる現象が見られた。

図4.各組織で体内時計を止めた株の胚軸伸長の様子。
図4.各組織で体内時計を止めた株の胚軸伸長の様子。植物全体で時計を止めた場合と、表皮の時計を止めた場合でのみ、胚軸の異常な伸長が見られた。表皮の時計が胚軸伸長を制御していることが分かる。

通常、胚軸の細胞伸長を起こす遺伝子群は夜中に活発に働くが、この株ではさらにその働きが活発化していることも分かった。

問5:表皮の時計は何に反応するのか?

胚軸の細胞伸長に関わる表皮時計は、どのような外界の刺激に反応するのか。維管束時計と同様に日長に対する反応を調べたが、胚軸が伸長する現象には変化がなかった。ところが、温度を変化させたところ現象に変化が見られた。胚軸伸長が見られるのは、セ氏18∼27度という、植物にとっての常温の範囲のみだった。表皮時計は温度情報に反応することが分かったのだ。

維管束と表皮、それぞれの時計は自律して動く

実験のステップを積み上げた研究から見えたのは、植物の体内で、組織ごとに自律的に動く時計の姿だった。外界からの刺激を各組織の受容体タンパク質が受け取る。すると、維管束の時計は、日長と温度の両方の情報に反応し、他の組織の時計遺伝子群の働きに影響を与え、開花時間を制御する。一方、表皮の時計は、温度に反応し、植物全体の細胞伸長を制御する。

図5.植物の各組織の時計の役割分担(概念図)。
図5.植物の各組織の時計の役割分担(概念図)。 植物は組織ごとに、異なる刺激を受けて時計が制御されている。(提供された資料を改変)

個々の細胞が持つ時間情報を全体で統合するときには、動物の血管のように植物全体を巡っている維管束が重要な役割を担っている可能性が高い。他の組織の時計の役割と、情報の統合方法に迫る今後の成果が待ち遠しい。

植物と動物の体内時計はなぜ仕組みが違うのか?

植物は動けない。芽を出した場所で、なんとか自分を環境に適した状態に調整することで生き抜くしかない。そのため、動物より多様な環境で生き抜く戦略が求められる。植物が動物よりも多種類の化学物質を体内で作り出しているのは、外界に働きかける能力が進化の過程で必要だったためと考えられている。体内時計の仕組みの違いも、このような生存戦略の違いを映し出していると考えられる。

では、温度と光という別の刺激に対して、別の反応を引き起こす仕組みを持つのはなぜか。それぞれの刺激は常に連動しているわけではない。地球上では、土地ごとに、温度と日長のさまざまな関係が見られる。

図6.サウジアラビア、日本、イギリス、ニュージーランドの都市での月平均気温と月平均日長の年間推移。
図6.サウジアラビア、日本、イギリス、ニュージーランドの都市での月平均気温と月平均日長の年間推移。気温は日長だけで決まらない。(2012年11月∼2014年10月、気象庁HP・国立天文台で公開されているデータより遠藤氏が作成)

植物は、温度と日長それぞれに対してきめ細かな対応を準備することで、より多様な環境に適応してきたのだろう。

遠藤氏は言う。「動けない植物にとってさまざまな情報を半独立的に使うことは生存確率を上げる役割があります。また、植物の場合、動物とは異なり新しい器官を一生にわたって作り続けるため、環境(変化)に応じた体づくりはさらに重要です。今回の発見により、器官・組織ひいては細胞レベルでの解析の重要性がはっきりしました。今後は、細胞の持つ個性を理解しつつ、それがどのように協調して個体として時間を測っているかを明らかにする研究が盛んになると思います。私は、組織間の時間情報を共有する仕組みとして、マイクロRNAや糖によるシグナル伝達の可能性を追求していくつもりです。また、今回私たちが解析した組織分離技術を利用して、時間生物学に限らずさまざまな分野で、組織ごとの解析が進んでほしいと願っています」

※写真および図版提供:京都大学 遠藤求氏
(JST 松山桃世)

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