サイエンスクリップ

隕石衝突模擬実験で生命の「素」ができた

掲載日:2015年10月9日

地球の生命はどこから来たのだろうか。生命を形づくる有機物の起源について、これまで「原始地球で自然発生した」「有機物を含む隕石などによって地球外から供給された」などのシナリオが議論されてきた。だが、今回、それらとは異なる第三のシナリオを大きく前進させる成果が得られた。

古川善博(ふるかわ よしひろ)東北大学理学研究科助教らが、小林敬道(こばやし たかみち)物質・材料研究機構主幹研究員、関根利守(せきね としもり) 広島大学大学院理学研究科教授らと共同で、隕石の衝突模擬実験を行ない、複数種類のアミノ酸の他、DNAやRNAの構成物質である核酸塩基が生成することを実験で明らかにしたのだ。無機物を使った衝突実験で核酸塩基が生成されたのは世界で初めてであり、隕石衝突の衝撃によって生命の「素」が形成されるという、中沢弘基(なかざわ ひろもと) 博士が提唱したシナリオ1を大きく後押しする実験結果である。

※1 中沢弘基博士のシナリオ/2006年、当時東北大学教授だった中沢博士(現在、物質・材料研究機構名誉フェロー)が提唱。「有機分子は初期地球で激しかった微惑星や隕石の海洋爆撃により、多種多量に生成した」とするシナリオ。

隕石の海洋衝突による核酸塩基生成のイメージ。原始地球ではこのような隕石衝突は頻繁に起きていたと考えられる。(提供:古川善博氏)
図1.隕石の海洋衝突による核酸塩基生成のイメージ。原始地球ではこのような隕石衝突は頻繁に起きていたと考えられる。(提供:古川善博氏)

有機物はどこから?第三のシナリオ

我々生物の体内では、DNAに記録された遺伝情報を基に、RNAを介して体が形づくられ、生体内のさまざまな反応を司るタンパク質が合成される。だが、DNAとRNAを構成する核酸塩基、タンパク質を構成するアミノ酸などの有機物が、40億年前の無機物しかない原始地球でどのようにつくられたのかは大きな疑問であった。アミノ酸が自然発生した、というユーリー・ミラーの実験2は、原始地球の大気組成モデルが誤りであったとして否定された。一方で、隕石や星間塵などに含まれる有機物が供給源だとするシナリオが有力視されてきた。実際、「炭素質コンドライト」という原始的な隕石の中に、生命物質に関連する有機物が発見されている3。しかし、隕石などが地球にもたらす有機物は、量も種類も十分とは言えない。

これに対して、中沢弘基博士は、鉄を含む隕石の衝突でこのような有機物が生成するという仮説を提案した。隕石の衝突によって、隕石と原始大気と原始海洋との間で化学反応が起こり、多様な有機物が大量につくり出されるという考えだ。これに基づき古川氏らは、2009年に、隕石中に含まれる炭素からアミノ酸の一種であるグリシンが生成することを突き止めている。

※2 ユーリー・ミラーの実験/1953年にシカゴ大学のスタンリー・ミラーとハロルド・ユーリーによって行なわれた有機物生成実験。原始地球において、雷や太陽放射によって有機物が自然発生したことを証明しようとした。水素、メタン、アンモニアの混合気体を原始大気と見なし、放電、加熱、冷却を繰り返して1週間後、数種類のアミノ酸を含む有機物の生成が確認された。
※3 隕石中に有機物発見/以下、参照のこと。「炭素質隕石に、多様な地球外の核酸塩基を含んでいることを発見」(Callahan et al., 2011) (英語)。アストロアーツ「隕石の中からDNAの構成要素と宇宙由来の有機物を確認!

原始海洋に鉄の隕石が激突すると

今回の研究では、原始海洋に鉄を含む隕石が衝突する過程を模擬した衝突実験を行なった。原始大気には二酸化炭素が高い割合で存在しており、海洋に二酸化炭素が溶け出して重炭酸が豊富にあったと考えられる。また地殻活動などによって窒素ガスが還元され、アンモニアも存在すると想定できる。そこで、炭酸水素アンモニウム水溶液を原始海洋水、窒素ガスを原始大気、鉄とニッケルと2種類の鉱物を隕石物質と見なし、秒速0.82∼0.89キロメートル(時速2,952∼3,204キロメートル)の速度で衝突実験を行なった。

その結果、DNA、RNAの核酸塩基であるシトシン、ウラシルの他、グリシン、アラニンなど13種類のアミノ酸の生成が確認された。2種類以上のアミノ酸ができないかと期待して実験に臨んだ古川氏は、予想以上の結果に驚きしかなかったと語り、「分析結果を通常はしないほどに精査し、何度も分析し直しました。何度か分析するうちに驚きが確信に変わっていきました」と振り返る。

有機物をターゲットにした衝突実験は世界的にも数少なく、手法が確立されているとは言えない。そんな中、古川氏らは10年かけて実験容器や試料抽出手法の改良、分析手法の開発を重ね、今回の結果を得た。

衝突実験に使用した一段式火薬銃。この中で試料を高速で衝突させる。(提供:物質・材料研究機構)
図2.衝突実験に使用した一段式火薬銃。この中で試料を高速で衝突させる。(提供:物質・材料研究機構)

地球生命の起源の解明に向けて

古川氏は今回の結果の意義について、「宇宙からの有機物供給とは別の、新たな生成過程を示すものです。今後の研究で有機物の生成量の詳細な推定が可能になれば、生命構成分子の起源を解明できる可能性があります」と話す。最後に、34歳の若き研究者の原動力はどこにあるのか聞いてみた。

「生命構成分子を初めに作り出したのは、地球もしくは太陽系のどこかの環境のはず。それを見つけ出し、『生命はいつ、どこで、どのようにしてできたのだろうか』という人類共通の疑問に答える研究に携わることは、まさにエキサイティングです」

サイエンスライター 田端萌子

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