アーカイブ - サイエンスコミュニケーション - What's on ~インタープリターU.K.訪問記~ -

危険なジンジャー・エール

日本科学未来館 長沢まゆみ 氏

掲載日:2007年4月23日

このコーナーは、日本科学未来館のインタープリターが、ブリティッシュ・カウンシルの支援(*)でイギリス(U.K.)を訪れたときの体験談をご紹介しています。「サイエンス」や「コミュニケーション」をキーワードとする出会いや発見を、インタープリター自身が5回シリーズでレポートしました。

※日本科学未来館インタープリター:日本科学未来館の展示フロアで来館者と対話し、科学をわかりやすく伝え、ともに考える展示解説員としての役割を担うとともに、先端科学技術の動向のリサーチや、館内外での科学にかかわるさまざまなイベントの企画を行っています。また、展示フロアで日々接する来館者やイベント参加者との対話をもとに、科学技術に対する社会の評価や意見を研究者にフィードバックする役割も果たしています。

長沢まゆみ 氏

長沢まゆみ 氏

ロンドンから南へ列車で1時間下った海辺の町ブライトンで開かれたサイエンス・フェスティバルに参加した。サイエンス・フェスティバルでは、1週間かけて学校・ショッピングセンター・映画館・パブなど町のいたるところで科学に関するイベントが開催されていた。

Science magicショー
Science magicショー

私は当初、日本科学未来館で私たちが日ごろ行っている科学を紹介する実演を想像していた。ところが、フェスティバルの主催者でもあるRichard Robinson氏のサイエンス・マジックショーを見て考えが大きく変わった。マジックは水の入ったコップをひもでつるし遠心力によって水をこぼさずに回すといった、どこかで見たことがあるようなものばかりだが、Robinson氏の表情の豊かさや演出によって何倍にも魅力的な内容になっていた。特に振り回す瞬間に見せた不安気な表情は役者のようで、眉の動き、声の抑揚、身振り手振りなど全身を使って見ている人の興味をひきつけ、「なぜ?」のきっかけを作る。初めから科学的な話をするのではなく、話を展開していくうちに科学的な説明を取り入れ、謎を解明しようとする子供たちとRobinson氏との対話の一体感を感じることができた。

このような「なぜ?」から始まる科学として私がもっとも印象に残った実演は、高校生が担当していた「ジンジャー・エールを作る」実演だった。レシピを紹介すると…

    レシピ:
  • 500mlのペットボトル 1本
  • ミネラルウォーター 400ml
  • 砂糖 大さじ12
  • 酵母(ドライイースト) 大さじ2
  • 生姜の乾燥粉末 大さじ 2
上記の材料をペットボトルに入れてフタを閉めて振る。担当の高校生には「6時間後に飲んでね」 と言われた。

6時間後。忍び寄る悲劇・・・
6時間後。忍び寄る悲劇・・・

私はうっかりそのまま放置してしまった。すると次の日の朝、「ボン!」という銃声のような音とともにペットボトルが破裂し、ジンジャー・エールが飛び散ったのだ。ペットボトルを包んでいたビニル袋は破れ飛び、臭いの強い酵母の被害にあったのは洗濯して乾いたばかりの衣服、カーテン、カーペット、ベッドカバーなど半径3m以内にあったあらゆるもの・・・。もし破裂時に近くにいたら自分の身にも危害が及んだと思われるその破壊力に、しばし呆然となった。と同時に、「なぜ?」という思いが頭の中を駆け巡った。

破裂したジンジャー・エールと被害にあった靴下
破裂したジンジャー・エールと被害にあった靴下

この「なぜ?」を解決すべく私は日本に帰るとすぐにペットボトルの中で起きた反応について調べた。

C6H12O6(砂糖)→2C2H5OH(アルコール)+2CO2(二酸化炭素)

ペットボトルのなかでは砂糖が酵母によって分解され、アルコールと二酸化炭素が発生する反応が進んでいたのだ。発生した二酸化炭素が密閉容器のなかで水に溶け込むことで炭酸水になり、生姜の風味が加わってジンジャー・エールが完成する。

この反応では砂糖180gから二酸化炭素88gが作られ、気体体積に換算すると約45リットルの二酸化炭素が発生する。この実験で使用した分量で計算すると・・・なんと約15リットルもの二酸化炭素がペットボトルのわずかな空間に発生したことになる。激しい破裂が起こるわけである。

今回の大惨事は、私自身が「なぜ?」を解決すべく、忘れかけていた化学式を調べ、気体定数を思い出すきっかけとなった。この体験を通して、科学は「なぜ?」と思う気持ちが原動力となり、そこから生まれる探究心が何よりも科学を知るきっかけとなることを体感できた。

イギリスでのさまざまなサイエンス・コミュニケーションを体験して、私のインタープリターとしての姿勢は大きく変わってきている。これまではすべて分かっているかのように解説していたが、今では、必要以上に多くを語らず、表情豊かに演出したり、呪文を唱えてみたりして、『科学は不思議であること』を印象づけることも一つの方法だと知った。謎解きの雰囲気から生まれる時間は私にとってとても楽しい時間であり、謎を解明しようと試みる来館者の目の輝きを間近で見ることができて嬉しい。

ところで、みなさんもジンジャー・エールを作ってみませんか? ちなみにお味の方は・・・

 

長沢まゆみ 氏
長沢まゆみ 氏
(ながさわ まゆみ)

長沢まゆみ(ながさわ まゆみ) 氏 プロフィール

大学院修了後、2005年から日本科学未来館のインタープリターとして勤務。「まずやってみる!」をモットーに失敗を重ねつつ成長中?

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