アーカイブ - サイエンスコミュニケーション - 途上国の理科教育、科学技術水準の現状と課題 -

第3回「何でも使えるものは実験道具に」

国際協力機構 青年海外協力隊事務局 理数科教師(ニカラグア) 二木知美 氏

掲載日:2008年8月1日

このコーナーでは、途上国の科学技術の水準や、理科教育における現状および今後の課題について、青年海外協力隊に理科教師として参加した4人の体験談も交えながら、6回シリーズでご紹介しています。なお、青年海外協力隊事業は、「開発途上地域の住民を対象として当該開発途上地域の経済および社会の発展または復興に協力することを目的とする国民などの協力活動を促進し、および助長する」ことを目的に、国際協力機構(JICA)によって実施されています。

ほこりをかぶった器具の修理と洗浄から

実験で作成したばねばかり(左)を使って試しばかりをする生徒たち
実験で作成したばねばかり(左)を使って試しばかりをする生徒たち
ニカラグアのボアコという、山に囲まれた酪農を中心とする町の国立中等学校、日本でいうと中学1年生から高校2年生までが通う学校で働いています。11~19歳が通う朝の部、昼の部と、日中に仕事をしている13~25歳の生徒が通う夜の部があり、約1200人の生徒が通う比較的大きな学校です。この国の国立学校には中流層以下の家庭の生徒が多く、私の学校では50人のクラスで教科書を持っている生徒が7、8人くらいしかいません。夜の部の生徒だけでなく、午前中に学校に来て午後に働くという生徒もたくさんいます。

私の活動内容は、理数科教師といっても数学にはまったくタッチしていませんし、要請もマンパワーの理科の先生というよりは、実験インストラクターです。理科、生物、化学、物理それぞれに関する実験を教師たちに指導したり、2カ月に一回、ボアコ県内の教師たちが集まる研修会で実験指導をしています。

「ニカラグア一と言われる理科実験器具がありながら、その使用方法や授業での指導ができないでいる。そのため、必然的に理科の授業は理論のみとなっており、教員が実験器具を活用した授業ができ、学生が理科にさらに興味を示すようにするため協力隊員による支援が求められている」というのが要請理由でした。しかし行ってみると、確かにビーカーやフラスコなどの実験器具は他国の援助により購入されたものが何十個もありましたが、多くの実験機器は壊れたり、さびてしまっていたり、木でできているものはシロアリに食べられたりしていてぼろぼろでした。また、実験器具はあっても使える試薬などがほとんど無い状況でした。

まずは、それらの実験器具を直せるものは修理し、ほこりをかぶっている物は洗浄するというところから始まりました。しかし、物を洗浄するにも2日に1回数時間しか水が出ないため、貯めておいた水が無くなったら、次に水が出るまでは仕事を中断せざるを得ないので、なかなかはかどりませんでした。

 

まずは人間関係

レモラチャ(ビート)から採取した指示薬で塩酸基の実験。左が二木氏
レモラチャ(ビート)から採取した指示薬で塩酸基の実験。左が二木氏
実験指導については、一度教師に指導し、その後、教師が実際授業で指導する際に補助として参加するという方法でやってきています。初めのころ、教師が実際に実験指導をしている際に間違いを指摘したところ、その教師のプライドをひどく傷つけてしまったらしく、嫌な顔をされたことがあります。自分よりも10歳も20歳も若い子から生徒の前で間違いを指摘され、注意を受けるなんて、自分だってそうされたら嫌だろうなと、それからは反省し、間違いがあったら隅に呼んで、小さい声で指摘するようにしました。

人間関係さえうまくいけば活動もなんとかなるものです。多少言葉がしゃべれなくても、向こうから理解しようとしてくれたり、よくあることですが、私が言葉を探してる間に、「こうなんでしょ」なんて推測して解説を付け加えてくれたりと、多くのことを助けられながら活動しています。

今まで板書による授業を受けてきたためか、実験をすると毎回、教師も生徒も「すごーい」を連発してくれ、そんな時は異国に疲れた心が癒される気がします。

実験は、なるべく現地にあって安く入手できる材料を使用することがコンセプトです。実験試薬などは自分の足で探したり、同僚や町の人々との会話で出てきたりしたものを購入して、試し、使えたら使うことにしています。

現在私たちが実験試薬として使っているものの一例としては、塩酸や水酸化ナトリウムの代わりにトイレや排水管の洗浄剤を、硫酸の代わりにガソリンスタンドでバッテリー用として売っているものを使用しています。酪農の町ということで、牛に焼印するための薬品として硝酸なども売っています。またホルマリンは、暑い国ならではなのでしょうか、死体の腐敗防止用として普通に薬局で販売されています(葬儀から埋葬まで数日間空く場合などは、親族が注射器で遺体にホルマリンを注射するそうです)。

また、現在ある実験器具を活用する以外に、他の実験材料も探し出します。空き瓶、空き缶はもちろん、故障して捨てられた機器からはエナメル線を、使えなくなった電池からは炭素棒を採取したりしています。そして、なかったら作る。ということで、ばねばかりは針金を鉛筆などの丸い棒にきつく巻きつけて作製したり、ヨウ素とヨウ化カリウムを、ヨードチンキ(消毒用ヨウ素溶液)から沸点の違いを利用して取り出したりしています。

途上国の理科教育におけるアドバイスは以下のとおりです。

  1. 語学に関しては、私の場合使用する言語はスペイン語ですが、科学的な用語はやはり英語に似ているものが多いので、英語の学術論文や科学雑誌などを読んでおくといいと思います。
  2. 日本とは多少学習内容が違っているので、科学的なことについて広く浅く知っておく必要があると思います。
  3. これが一番大事だと思うのですが、どこでもどんな状況でも臨機応変に対応できる姿勢を作っておく必要があると思います。

国際協力機構 青年海外協力隊 協力隊レポートより転載

 

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