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アーカイブ - レポート - 「科学技術政策世界の動き」アジア編

第2回「『低炭素・緑色成長(Green Growth)』-韓国から学ぶべきは何か?」

科学技術振興機構 研究開発戦略センターエキスパート(研究開発戦略立案担当) 岡山純子 氏

掲載日:2009年11月27日

李明博大統領の国家戦略

大韓民国建国60年をむかえる今日、私は「低炭素・緑色成長」を新しいビジョンの軸に提示したいと思います。緑色成長は、温室効果ガスと環境汚染を削減する持続可能な成長であり、緑色技術とクリーンエネルギーをもって新成長産業と雇用を創出する新たな国家発展のパラダイムです。緑色技術は情報通信技術、生命工学技術、ナノ技術、文化産業技術を一つにしながらも、これを乗り越えます。緑色技術は良い働き口をたくさん作り、「雇用なき成長」の問題を治します。
大韓民国建国60周年李明博大統領の慶祝辞(2008年8月15日)より抜粋

韓国建国60周年を機に、李明博大統領は「低炭素・緑色成長」の国家戦略を掲げた。これまでの60年は国としての基盤を整えた時期であり、今後60年は成熟した国家になるための時期との位置づける中、「成長」の軸に「緑色(=環境)」産業を選んだのだ。

李明博政権発足(2008年2月)後の政策展開は実にダイナミックである。科学技術政策に関連する側面だけでも、政権発足と同時に大規模な省庁再編を行い、前政権時代に既に承認された第2次科学技術基本計画をつくり直した。詳細については、CRDSのレポートに紹介しているが、これらの動きを「緑色成長」の文脈で見ると、韓国の戦略がより鮮明に見えてくる。

 

緑色成長に向けた政策の枠組み

韓国では2009年1月、大統領府に緑色成長委員会が設置された。ここでは、緑色成長に向けたさまざまな取り組みを省庁横断で行う。また、李政権は2008年2月の就任と同時に、大規模な省庁再編を行った。この際、産業に加え、情報通信(旧情報通信部所管)、エネルギー(旧産業資源部所管)および産業技術(旧科学技術部所管)を一元的に担う省庁として知識経済部を新たに発足させている。スマートグリッドを推進することを想定した場合には有利な組織形態といえよう。さらに、遠い将来に備えた基礎研究に対しては、教育(旧教育人的資源部所管)と科学技術(旧科学技術部所管)を担う省庁を統合した教育科学技術部を発足させ、持続的なイノベーション創出のための基礎体力を養わせる考えだ。「政府の形」にも李明博大統領の一貫した考えがあらわれていると感じずにはいられない。

また、各種政策が「緑色成長」を基軸としたトーンへと再検討された。産業技術政策を記した「新成長動力と発展ビジョン」をはじめ、さまざまな政策で環境技術をより重視する姿勢が打ち出され、研究開発の「緑色成長」分野への投資は着実に増えている。

さらには、遠い将来に備えるための基礎研究への取り組みにも真剣だ。また、2012年までには、国全体での研究開発投資を対国民総生産(GDP)比率5%(注:2006年実績で韓国3.22%、日本3.67%)以上とすることを目指すと同時に、政府研究開発予算の半分を基礎・基盤研究に割り当て、公的部門は「民間にできない研究」により重点を置く方針だ。

 

緑色成長の具体策は?

先に述べた「新成長動力と発展ビジョン」は、緑色技術産業をはじめとする下表の産業分野を対象に、新たな成長分野を創出すべく産業構造転換を図るための研究開発、社会への実装試験、公共調達による初期需要創出、関連する法制度の改正、国際標準獲得などに総合的に取り組む政策である。

韓国政府が示した新成長動力(3大分野・17新成長動力)

3大分野 17新成長動力
緑色技術 再生可能エネルギー、炭素低減エネルギー、
発光ダイオード(LED)応用、グリーン輸送システム、
高度水処理、先端グリーン都市
先端融合産業 放送通信融合、IT融合システム、ロボット応用、
新素材・ナノ融合、バイオ製薬・医療機器、
高付加価値食品産業
高付加価値サービス コンテンツ・ソフトウェア、グローバルヘルスケア、
グローバル教育サービス、グリーン金融、MICE・観光(注1)

(出典:JST/CRDSデイリーウォッチャーの情報をもとに作成)

具体例として、韓国トップの理工系大学であるKAISTが取り組む「オンライン電気自動車(OLEV)」を紹介する。

OLEVは、道路に埋設された電線の上(on line)を走る電気自動車である。この電線から電磁誘導により、自動車に充電する仕組みだ。最大のメリットは最大走行距離の制限がなくなる点にある(バッテリーは補助エネルギー源として使用)。

KAISTでは、既にOLEVのモデル車の開発に成功しており、2009年2月には李明博大統領も試乗するなど政府の後押しも強力だ。今後はソウル市内の一部や済州島全域といったモデル地区で実証試験を重ねつつ、普及を促進する方針だ。

 

われわれは何を学ぶべきか?

緑色成長に向けて、欧米との具体的な協力も他のアジア諸国に先駆けて進んでいる。米国との連携について、スマートグリッドを例に取ると、両国の業界団体である米・Grid Wise Allianceと韓・Korea Smart Grid Associationとの協力や、GEの韓・ヌリテレコム(韓国のITサービス企業)へのスマートグリッドにかかわる技術供与といった企業間の技術協力が既に緒についている。欧州連合(EU)との連携については、欧州の技術・市場へのアクセスの足がかりとしてEUREKA(マーケット志向の研究開発協力を行う欧州のプロジェクト)に欧州圏外で初めて加盟(2009.6)した。もちろん、これらの動きには韓国政府の後押しがある。さらに、商品化が実現した暁には、米国や欧州と既に締結を進めている自由貿易協定(FTA)を通じた市場へのアクセサビリティを確保している。

このように、官民が一体となり、世界が環境産業に向けて大きくシフトする時宜をとらえ、迅速に国を「緑色成長」の軌道へと乗せようと国際的にアピールする韓国の熱の入れようは、かつての半導体産業育成政策を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 

グローバルなネットワーク構築

スマートグリッドに代表される、分散エネルギーシステムの完全型はまだ見えていない。このような時期だからこそ、韓国は、技術を「システム」としてパッケージ化し、海外の技術・標準動向を把握し、国際的な協業を進めることで自国で開発したシステムが、グローバルに接合する形を整え、海外市場へのアクセスを確保することを他者に先駆けて行い、次のパラダイムでのデファクト確保に必死だ。

われわれも、真剣にグローバルな視点で今起きようとしている変化の意味を理解し、細かなパーツへのこだわりをあえて捨て、全体のシステムをダイナミックに設計し直す勇気を持つ必要があるのではないか。日本はものづくりに強みを持つが、このままでは川上のシステムづくりを行う国にモノやサービスを供給するだけとなってしまう。新たなシステムをとらえて初めて、日本の製造業の強みは持続的なものとなるはずだ。

 

  • (注1)MICE・観光:外国人旅行客集客方法の一つ。MICEは、Meeting, Incentive, Convention/Congress, Event/Exhibitionの頭文字。

 

本稿は、2009.10.29に開催された JST未来挑戦シンポジウム「グリーンニューディール」での筆者の講演内容をもとに作成しています。

 

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