アーカイブ - レポート - オバマ米政権の科学技術政策

第1回「オバマ・バイデン科学イノベーション計画」

科学技術振興機構 研究開発戦略センターフェロー 坂口敦 氏

掲載日:2009年3月31日

米国大統領選挙中の2008年9月に、オバマ陣営は科学技術分野での同陣営の方針として「Investing in America’s future: Barack Obama and Joe Biden’s plan for science and innovation」を発表した。オバマ政権の科学技術政策を体系的に把握するためには、この文書が最適であるため、以下に紹介する。

計画は5項目から構成され、(1)公正な科学政策の再構築 (2)基礎研究への投資の拡充 (3)理数教育の強化 (4)民間でのイノベーションの促進 (5)21世紀のグランド・チャレンジへの対応 -から成る。

 

(1) 公正な科学政策の再構築:

近年、連邦議会での政治論争において、政治家が科学的データを都合よく解釈し、自身の主張の根拠とする行為が大きな問題となっていた。本項はこの問題への対処を目的としており、オバマ政権の科学イノベーション政策の特色と言える。本項では特徴的に用いている単語、「Integrity(公正さ)」を強調しており、科学技術的根拠に基づいて政策決定を行える体制を再構築するための施策を4点打ち出している。中でも注目すべき施策が科学技術担当大統領「補佐官」(APST)の任命であり、ホワイトハウスにおいて大統領の意思決定にAPSTが直接参画できる体制を築くとしている。なお、前政権ではAPSTは任命されておらず、John Marburger氏は大統領「顧問」であった。また、オバマ政権のAPSTにはJohn Holdren氏(Woods Hole Research Center所長)が指名されており、近々議会の承認を得るものと思われる。

 

(2) 基礎研究への投資の拡充:

「特定の研究プロジェクトの結果を予測する事は不可能であるが、基礎研究はあらゆる分野の発展を促進する」とし、基礎研究への重点投資を掲げている。本方針はパルミザーノレポートやオーガスティンレポートを受け、一般的な支持を得ている。注目すべきは予算倍増の対象機関として、前政権でも対象とされていた国立科学財団(NSF)、エネルギー省(DOE)科学局、国立標準技術研究所(NIST)のほかに、新たに国立衛生研究所(NIH)が加えられた点である。NIHの予算増額は強く主張されており、同予算がほぼ横ばい状態で推移した前政権とは明らかに異なっている。なお、後に成立する景気対策法は、本方針を着実に反映している。

 

(3) 理数教育の強化:

教育に対してはオバマ大統領の思い入れが強く、多くのアイデアが挙げられている。また、理数教育が科学者育成の観点のみならず全国民に必要であるとし、その理由として「民主主義の維持」に理数教育が必要であることをうたっている点が面白い。初等中等教育と高等教育に分けて述べられているが、初等中等教育の例としては幼稚園から高校までの教員の能力および人数の双方の向上、連邦政府と州政府の理系教育活動の連携を促進することを目的としたOSTP内への理数教育委員会の新設、高等教育の例としては研究者数の増員を目的としたNSF大学院生奨学金の支給数の3倍増などがある。

 

(4) 民間でのイノベーションの促進:

連邦政府が基礎研究や人材育成に尽力する一方で、開発は民間に大いに期待するとのスタンスを取っている。そこで、民間の高い研究開発能力をイノベーションに直結させられるように、連邦政府がなすべきイノベーションのための環境整備方針について5点挙げている。中でも重要視されている施策が民間企業の研究開発活動に対する税控除であり、同様の税控除法が2007年末に有効期限を満了したため、恒久的な税控除法を成立させる意向である。そのほかに、ビザ制度の改善や特許制度の改善などが挙げられているが、米国競争力イニシアティブや米国競争力法で既にうたわれている事項であり、目新しい動向ではない。

 

(5) 21世紀のグランド・チャレンジへの対応:

科学技術による新規課題の解決を21世紀のグランド・チャレンジと呼んでおり、分野別に(1)クリーンエネルギー (2)医療 (3)国土安全保障 (4)製造技術 (5)IT (6)交通⑦宇宙⑧農業―が挙げられている。特にクリーンエネルギー、医療、製造技術、交通、農業は前政権よりも優先度が向上した分野と言える。ただし、クリーンエネルギーは前政権が2006年1月に発表した先進的エネルギーイニシアティブとかなり重複している。これらのチャレンジの具体的内容として注目すべき点は、クリーンエネルギー分野の連邦政府の研究開発予算を10年間で倍増、NIH予算を10年間で倍増、製造業の支援のためにNISTのMEP(Manufacturing Extension Partnership)予算を倍増、連邦政府のCTO(Chief Technology Officer)の新設、選挙中にオバマ候補が否定的発言をしていた宇宙分野への支援、そして科学外交の一部と思われる途上国向けの農業研究開発などがある。なお、CTOは未定であるが、2009年3月に連邦政府のCIO(Chief Information Officer)としてVivek Kundra氏が任命された。また、全体的に産業界支援志向とIT活用志向が見受けられる。

 

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