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「資源リスクと対応」第4回「資源問題を激化させる『80%の人々』」

物質・材料研究機構 元素戦略材料センター 元素戦略統括グループ長 原田幸明 氏

掲載日:2012年3月1日

原田幸明 氏 質・材料研究機構 元素戦略材料センター 元素戦略統括グループ長

原田幸明 氏(物質・材料研究機構 元素戦略材料センター 元素戦略統括グループ長)

 

資源はなくならない!?

“人類経済の持続可能性”としては「資源がなくなるかどうか」が問題ですが、はっきり言って資源はなくなりません。

資源の「埋蔵量」をタンク内の水量に例えて、底面積が「年間消費量」、高さが「耐用年数」を表す図があります。しかし、これほどいい加減な図はありません。大体のレベルを知っておく分にはいいのですが、耐用年数が「何年だ」と言ってもなくなるはずがないのです。その理由の1つは、年間消費量が変わり、それに伴い埋蔵量も変化するからです。埋蔵量というのは「掘ればお金になるが、今は掘らない量」です。資源の存在量は一応「埋蔵量ベース」で示されますが、埋蔵量は値段が上がれば増えるのです。

典型的なのは石油の埋蔵量です。埋蔵量が世界で1番の国はサウジアラビア、2番目はカナダです。2番のカナダは5年前には埋蔵量などほとんどなかった。それが原油価格の上昇であの質が悪いといわれたオイルシェールが価格的に成り立つようになったわけです。そうしたら一気に埋蔵量として大きく量が増えたのです。そうしたことがあって、埋蔵量は資源がなくなったら増えるので、そう心配することはないのです。レアアースについても同様な図を描くと、年間124キロトンの消費量に対して99メガトンの埋蔵量があります。しかし同じような意味から、どこかで新たな鉱床が見つかったというニュースがあっても、単純には喜ばない方がいいと思います。

 

耐用年数は“自転車操業の厳しさ”

「耐用年数」は、資源の消費速度とストック量(埋蔵量)の関係から算出したものです。いわゆる“自転車操業の厳しさ”を比較しているだけであり、いつストックがなくなり倒れるかを示すわけではないと思ってください。金の耐用年数は1962年には20年ありましたが、71年には11年、2000年には18年というように“ふらふら運転”がうまかったのです。ところが鉄の耐用年数は1962年には464年でしたが、71年には240年、2000年には121年、2011年の現在では100年を切りました。今までとは違う体系に入ってきているので、備えなければならないのですが、みなさんはあまり危機感を持っていないようです。

 

資源の枯渇のシナリオ

資源が枯渇すると、どうなるのか。鉱山の「資源の枯渇」を判断する手がかりとして、よく用いられている「ラスキー(Lusky)の式」があります。経験的に得られた関係式で、鉱石の品位のパーセンテージが低くなるほど、掘り出す鉱量(累積鉱石量)は増えてきます。得られる金属量は、鉱量に品位のパーセンテージを掛けたものとなるため、極大値を持つグラフになります。そうなると、品位の薄い鉱山であってもとどんどん掘っていけば金属量は増えて行きますが、極大値を過ぎてしまうと「あれっ、おれたちは土ばかり掘っている」という話になり、この段階で鉱山は閉山となります。これがどの鉱山でも全体的に起きるのが「資源の枯渇」なのです。要するに、掘って、掘って、さらに掘るための設備投資がばからしくなる、そういう構造になったときに枯渇が起きるということです。

現実はもっと単純に「枯渇」が起きます。まず、資源が希薄化してくるので、生産性が低下してきます。すると基礎価格が上昇し、特にレアメタル類は、投機・占有化によって価格の不安定化が起きます。問題としてはここで、定常供給への不安が増大してくるわけです。そうなると受け入れ側、いわゆる資源を使っている会社の側では定量供給のリスクを考えて、代替あるいはラインの変更に入ります。この段階で資源が使われなくなると、価格は下がり、供給側も投資をストップするなど、後は廃鉱に追い込まれていくだけです。こうした「資源の枯渇」のシナリオが考えられるのです。

レアメタルについても、枯渇があって、そこで使われなくなるのではなく、使う側が「枯渇を決める」ということです。その意味からすると、代替技術は「資源を枯渇させるための技術だ」とも言えるわけです。典型例が日本の石炭です。使用する側が石油に切り替えたわけです。だから、あくまでも「資源の側からなくなる」という意味での「枯渇」はないということです。

 

「80%の人々」の豊かさへの追求

こうした資源問題の激化には、2つの要因があります。1つは、世界の人口の80%の人たちが豊かを追求することによる資源需要の拡大です。例えば中国は、どういうことをやっているか。実はエチオピアが今、人口の8割に携帯電話を持たせようという国家プロジェクトを進めています。そのためにはアンテナや基地局などのインフラ整備が必要であり、それを中国が一手に引き受けているのです。中国には「80%の人々の豊かさ」への強い意識があるわけで、中国版新幹線を売ろうと海外でいろいろ動いているのもそのためです。ところが、日本はまだ、そうしたことを意識していない。そのことが大きな差にもなっているのです。だから「80%の人々」が動き出すことを意識しておかないと、これから先の資源需要も読めてこないことになります。

もう1つは、エコイノベーションや情報技術などの新テクノロジーにおいて、新たな資源需要が生じていることです。これが急激に伸びているので、今後の展開はなかなか予測できないでいるのですが、一つ注意しないといけないのは、これとあわせて「80%の人々」の資源も必要になるということです。例えば新テクノロジーとして、太陽電池を屋外に設置するときに、何製の容器に入れて設置するのか。紫外線の問題もあるから、まさか太陽電池をプラスチックに入れることはしません。そうなると、日本ではやはりステンレス製ということになりますが、これがインドとかの国になると、おそらく亜鉛メッキ鋼板でしょう。急速にそれら関連の資源需要が増えてくるわけです。亜鉛や銅などは、新テクノロジーにおける要注意部分であり、最初の資源的な危機もこの辺りから起きてくる可能性があるのです。

 

2050年までの需要量予想

「80%の人々」の資源需要として、鉄と銅、白金についての2050年までの年間消費量の推移を予想すると、いずれも中国やインドの需要が伸びてきます。埋蔵量との関係では、現在は比較的に豊富な鉄でさえも、2050年ごろには現有埋蔵量をほぼ消費してしまいます。銅は2030年ごろには現有埋蔵量を突破し、2050年ごろには埋蔵量ベース(注:経済的に採掘が困難なものを含めて、現時点で確認されている資源量)さえも消費量が超えてしまうような勢いです。これは大変だということで、対策が考えられていますが、ほとんど探し尽くされているので、かなり厳しくなることが予想されます。また、枯渇にはほど遠いとされている白金も、米国のほかに日本での消費も伸びてくるので、2050年ごろまでには現有埋蔵量を超過し、埋蔵量ベースぐらいまで行くだろうと予想されています。

ちなみに、日本で白金を一番使っているのはガラス産業です。ガラス産業ではブラウン管用ガラスや光学用レンズ、液晶用カバーガラスなどの製造で、溶解用るつぼ容器の表面に白金を薄く引いて使っています。高品位ガラスでは極端に不純物を嫌うので、容器との接触部分でコンタミ(異物混入)が起きないように白金を用いているわけで、白金はガラス産業ではなくてはならない存在なのです。

その他の金属を含めて、2050年までにどんなものが危ないか調べてみると、かなりの金属が現有埋蔵量の何倍もの量が必要となります。特に2050年には現有埋蔵量をほぼ使い切るのは鉄、モリブデン、タングステン、コバルト、白金、パラジウム。現有埋蔵量の倍以上の消費量となるのはニッケル、マンガン、リチウム、インジウム、ガリウム。埋蔵量ベースをも超えてしまうのは銅、鉛、亜鉛、金、銀、スズなどです。

現有埋蔵量に対する2050年までの累積需要量

 

資源制約の4タイプ

こうした資源の危機的な状況は、資源の採掘に関するいろいろな制約があるために生じています。そうした「資源制約」には大きく4つの要素があります。

まずは「量的な要素」。今の技術で掘り出せる絶対量に、限界が見えてきたということです。亜鉛や銅、金ですね。これらは今後、量的にかなり厳しい状態になってくると、価格の不安定さが現れてくる可能性があります。次に「地政学的要素」というのがあって、1、2カ国に資源が偏在している白金や二オブ、ディスプロシウム、リチウム、コバルトなどが、その国の事情(地政学的な要素)によって生産が左右されます。

さらに「製造技術的要素(エネルギー要素)」。これは電力価格などに依存するものでチタンやアルミニウム、マグネシウム、シリコンなどです。これらの危機はまだ現れていませんが、先ほども言ったように、中国がマグネシウムを抑える動きによって、シリコンが今後どうなるのか。それから、エネルギー消費型資源なのに、珍しいことに日本が一番生産しているチタン。今後も維持できるか、大きな技術的問題になってきます。ほかの金属については日本が手放しているだけに、このチタン技術がかなりのキーテクノロジーになる可能性があります。そして「環境要素」。廃水や廃鉱石などの環境コストの増大による、資源の制約です。レアアースの希土類などがその典型的です。

 

数年しのぐ代替技術を

さらに資源制約に関係する“プラスワンの要素”が、供給速度の問題です。これはリチウムなど、副産物の金属がそうです。実は、レアメタルのほとんどが副産物で、リチウムはカリウム、モリブデンは銅、インジウムは亜鉛の副産物です。

逆に考えれば、レアメタルなど副産物系の金属に関しては、数年しのげればいいのです。数年しのぐ技術を持っていれば、何も“100%代替”を意識する必要はありません。適当に数年しのげるだけの代替技術を確保していくことです。リサイクルの場合も同様に“100%リサイクル”を目指す必要はありません。そのときに資源の供給がおかしくなったり価格が変動したり、あるいは投機の対象とされたときなどに、自分たちの手持分だけの資源のリサイクル技術を確保しているかどうかが問われるわけです。特に投機によって翻弄されることに対しては、きちんとリスク管理を設計しておかなければなりません。レアメタルなどの副産物系の金属については、そういう見方が必要であり、金や銀、銅などの場合とは違うことを頭に置いておいてください。

 

未利用の資源は多い

資源問題は「神(自然)が与えたもうたものとわれわれの使い方が違うところに起因する」というのが私の原則論的な考え方です。そもそも資源(元素)は地球の地殻に普遍的に存在しているものです。しかし市場規模によって、利用されている資源の種類や量にアンバランスがあります。まだまだ利用されていない資源もあるわけで、長い目で見れば改善できる余地があるのではないか。今のわれわれの使い方が下手なだけであって、さらに未利用の資源を探し出し、うまくバランスを取ることができれば資源問題は解決すると思っています。

そこで、“持続可能な資源・エネルギー”の究極の答えは何か。エネルギーに関しては“父たる太陽エネルギー”の利用です。資源に関しては“母なる大地”あるいは土壌物質(Si、Ca、Al、Fe、Oなど)といった、普遍的にあるものをうまく使い切っていくことです。これはすぐ実現できるわけではありませんが、これらをベースにした技術開発を長期的な視野に置いておく必要があると思います。

 

資源利用で重要な4つの実践

資源問題への対応として、供給側は「未開発の地域から・未利用資源から・既採掘の残滓(ざんし)から資源を探す」ということをやっています。

資源を使う側として重要なのは、まずは素材として「使わなくてすむものは使わない」ことです。さらに、使うならば「徹底して使う」ことです。これは資源のリユースにも対応することですが、徹底して品質管理や製品管理を行い、次に回せるようにしていくことです。

そして「何度でも使う」こと。この考え方で割と抜けているのが「信頼性」の問題です。要するに、部品としての寿命は長いが、製品全体としては寿命が短いというケースがたくさんあります。例えばLED(発光ダイオード)は一生懸命になって寿命を長くしていますが、製品としてあれほど長い寿命を使いませんよね、エコ商品としても。それでも“長寿命”をうたうのは、製品を「使わせる」のが答えだからです。というのはLED単体に関しては寿命が長くて、その周りの照明の器具に関してはさらに変えることができるわけです。資源の使い方についても同様で、「信頼性」を確保してまた使っていける技術的な基準を確立すること、そのコミュニケーションの仕方も考えていくことが重要です。

そして「よりありふれたものを使う」こと。特に代替技術では、これまでのようなニーズに対する受身的な代替ではなく、よりありふれたものを資源化して活用していけるような未来型の代替技術へと変わっていく必要があると思っています。

 

代替技術の3基盤

代替技術には3つの基盤ができています。1つが、材料の原子1個のレベルまでも見られる「解析技術」です。さらに、コンピューターを使って物質の創生や製造方法の最適化を目指す「計算材料技術」。これは、クラスターレベルから物質レベルに近いところまで第一原理計算(注:量子力学や統計力学を用いて、電子状態を計算・予測する)ができるまで来ています。もう1つが、原子レベルでの加工を可能にする「ファブリケーション技術」ですね。これら3つの基盤技術をうまく使うならば、機能の代替も実現できるのではないか。そうした技術を今から、資源問題への一歩先のところで準備しておくことが必要です。そのために、電子構造計算のためのデータベースなどをそろえて、研究者や技術者が代替物質の基礎設計に利用できる情報プラットホームをつくっておく必要があるのではないか、今がそういう時期ではないかと思っております。

 

原田幸明 氏 質・材料研究機構 元素戦略材料センター 元素戦略統括グループ長
原田幸明 氏
(はらだ こうめい)

原田幸明(はらだ こうめい) 氏のプロフィール
長崎県壱岐生まれ。1969年壱岐高校卒業。74年東京大学工学部卒、79年同大学院博士課程(金属工学)修了(工学博士)。80年科学技術庁金属材料技術研究所研究員。2001年物質・材料研究機構エコマテリアル研究センター長。2005材料ラボ長。2011年から現職。

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