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大学まわり意欲引き出す 研究者を起業家型に

JSTイノベーションサテライト高知 館長 長尾高明 氏

掲載日:2009年3月13日

長尾高明 氏(JSTイノベーションサテライト高知 館長)

長尾高明 氏(JSTイノベーションサテライト高知 館長)

 

JSTイノベーションサテライト高知は、高知県香美市土佐山田町の高知工科大学内に設置されている。サテライト徳島が設置されるまでは四国全体を対象に事業を展開してきたが、現在は高知県と愛媛県を中心に活動を進めている。長尾高明館長は「公正無私」を心がけ、地道に大学や研究所などを回って、地域におけるネットワーク作りを進めてきた。

サテライト高知ができて約3年になります。当初から「公正無私・顧客満足度重視」を念頭に置いて、どんなところにも足を運ぶことを基本にスタートしました。私がひそかに「サンドイッチ・ローラー作戦」と呼んでいるのですが、私が学長とお会いして、それからコーディネーターが各先生方を回ることで、上から話すのと下から話すのを同時に進行して、上下でサンドイッチしていく。1年経ったところで、四国内すべての大学の学長に挨拶して回ったのですが、翌年からは各学部長と高専の校長先生のところも回っています。

その中で高専のコーディネーターにもお会いして、その方が苦労している実情がよく分かりましたので、自分のところのコーディネーターのことだけを考えるのではなく、他の組織のコーディネーターのことも十分考慮しながら、活動する必要があると思いました。

そういう立場で、研究者にも、学長、学部長、研究所長、校長などにも、丁寧にできるだけ平たい言葉で情報を素早く伝える。同時に、そこから出てくる声も拾い上げて、できるだけ東京本部にも伝える。そういうことを実行しています。

四国全体を合わせても研究者の数は1000人くらいしかいないと思います。人口も全部合わせて400万人くらいですから、いわば日本の人口の3~4%。そこにサテライト高知とサテライト徳島と2つあるので、考えようによっては目立つわけです。しかし、サンドイッチ・ローラー作戦やコーディネーターの頑張りによって、段々と皆さんに知られるようになり、それが刺激になって、応募テーマが段々ブラッシュアップされているように思います。

シーズ発掘試験(コーディネーター等が発掘した大学等の研究シーズの実用化を促すための研究事業)についていえば、3年前が応募数130件、2年前が308件、昨年は徳島と高知を合わせて508件。徳島と高知は半々でちょうど254件ずつ。2年前まではサテライト高知しかなく、1年遅れてサテライト徳島ができましたから。今年は高知が315件、徳島が275件、合わせて590件と、尻上がりに多くなっていますし、採択数も最初が10件、次が65件、昨年が96件(徳島と高知48件ずつ)。こういう成果が出ていますので、研究者の方々もやる気を起こしていると思います。

やはり、こちらが足を運び、出してくださいと研究者にお願いして、「なるほど。これは我々にも採択されるチャンスがあるな」と感じていただいて初めて本気で応募していただけると思います。

そうして生まれた成果を企業化に結びつけていくため、サテライト徳島と協力してシーズ発表会などを開いているのですが、地元は企業数が少ないので、高松だけでなく、大阪や東京の秋葉原でも開催しています。また四国経済産業局など、他省庁の組織との協力も大切です。例えば、四国経済産業局は企業のことはよくわかっていますが、研究者のことはあまりわからない。我々の組織はその逆ですから、情報を合わせて協力することで、研究者の研究内容が企業に伝わり、また企業のニーズが研究者に伝わるということで、そういう情報の流れをもう少し積極的に喚起したいと思っています。

東京などでは、役所との協力というと研究者は嫌う傾向がありますが、四国などではだいぶ事情が違い、研究者も役所を助ける雰囲気がありますし、役所も研究者を頼って一緒にやりたいという希望も相当あるのです。逆にそうしないと地域の活性化などはとてもできない。ですから、地域におけるJSTサテライトの役割は非常に大きいと思います。

 

親子科学教室
高知工科大学の10周年記念事業を兼ねた
親子科学教室。
この日はペットボトルロケットを作製、試射した

 

そうした協力を進めるため、昨年、四国内の各組織に属しているコーディネーターのリストを作りました。アイデアは我々が出し、経済産業局がまとめました。四国全体のリストには120人くらいのコーディネーターが記載されていますが、このリストによって協力がさらにしやすくなりました。

育成研究(地域の産学官の共同研究による大学等の研究成果育成プログラム)でも、様々な研究が進んでいます。たとえば高知大学農学部の荒川良教授の研究「広食性土着天敵クロヒョウタンカスミカメを利用した施設果菜類の害虫駆除法の確立」は面白い。クロヒョウタンカスミカメという昆虫がいるのですが、それを害虫駆除に利用しようというものです。クロは色、ヒョウタンは形、カスミというのは小さいという意味で、カメというのはカメムシなんです。昆虫採集してきて、それを増やして、生物農薬を作るという研究で、これは実に高知らしいテーマだと思います。

地域企業とうまくいっているというのでは、高知大学医学部の西岡豊教授の研究「天然資源(枇杷種子由来エキス・室戸海洋深層水)を利用した健康飲料品の開発」があります。生活習慣病やリウマチ、花粉症などに有効な成分を含むビワの種をすりつぶしてお茶にした「ビワの種茶」がこの2月に発売されました。

その他、高知での育成研究としては、高知大学農学部の澤村正義教授の「柚子搾汁後残滓のエココンシャスな精油抽出・処理技術の開発」、高知工科大学の八田章光教授の「無電極マイクロ波放電を用いた無水銀紫外光源」、高知大学医学部の宇高恵子教授の「個人のHLA型に合わせたテーラーメイドのT細胞ワクチンの開発」などの研究が進行しています。

また今年スタートしたものは、愛媛大学農学部の仁科弘重教授の「植物工場におけるスピーキングプラントアプローチで生育を担保した植物部位別温度制御システムの開発」と、高知大学医学部の佐藤隆幸教授の「近赤外蛍光を捕捉する術中ナビゲーションカメライメージングシステムの開発」の2つです。いずれの研究も、学術的に優れ、時代のニーズを捉え、かつ地域性にマッチしたテーマであると自負しています。

高知大学理学部の吉田勝平教授の研究「固体発光性色素を活用した農園芸用波長変換被覆資材の開発」は、色素含有のビニールシートをハウスにかけることで、太陽光のスペクトルを変えて植物の生長を促すというもので、それを実現するビニールシートの開発が目的です。

うまくいけば、高知のようなビニールハウスの多い地域では、朗報になると思うのですが、半年前の中間評価のときに実験データを拝見したところ、シートの耐久性が大幅に不足しており、頻繁に交換しなくてはいけない。それでは役に立たない。その理由は、色素があせてしまうからだという。これをそのまま継続してよいものか。3年間で日の目を見るのか。これは危ないと、大変な危惧を覚えました。

即刻中止か継続か。迷いに迷った末、もっと長持ちするシートの生産方法ができて、適用する植物をもっと付加価値の高いものに集中して、それでうまくいったら、継続するかどうかを半年後にもう一度判断しましょうということになりました。

そして半年後に報告を聞いたら、この2点が見事にクリアされました。1つはビニールの種類を変えて、それから色素も変えた。その結果、長時間持つものができた。また対象となる植物も、高価な植物に集中して、大変有効だという実験結果がでたので、研究を継続することになりました。

コーディネーターの涙ぐましい努力もありましたし、先生の考え方が、シーズ指向からニーズ指向、つまり学者型思考法から起業家型思考法を加味した考え方に切り替わるということも起こりました。

私は、この起業家型思考法を加味するということができない先生は、JSTの課題には一切応募するべきないと思っています。そういう意味では非常に良かったと思っています。

研究というものは、なかなか思い通りには進まないものだが、大学で一般的に行われている基礎研究とは違い、育成研究では明確な「結果」が求められる。もちろん、結果というのは特許や実用化だけではないが、目標に対する責任を果たしうるかどうかは重要な要素だ。そうした点からも、長尾館長の「研究者の考え方を起業家型思考法を加味したものに変えていく」という話は、非常に重要な示唆を含んでいる。

(科学新聞 2008年5月30日号より)
    <所在地・問い合わせ>
    JSTイノベーションサテライト高知
    〒782-8502 高知県香美市土佐山田町宮ノ口185(高知工科大学内)

 

長尾高明 氏
長尾高明 氏
(ながお たかあき)

長尾高明(ながお たかあき)氏のプロフィール
61年東京大学工学部機械工学科卒、66年大学院工学系研究科産業機械工学専攻博士課程修了。東京大学講師工学部、67年助教授、79年教授、99年定年退官、名誉教授。同年高知工科大学教授、05年退職。05年10月からJSTイノベーションサテライト高知館長を務める。専門は、生産工学・加工学・計量経済学。91年にはアメリカから日本の工作機械を遠隔操作運転する実験を世界で初めて実施。89年畑村洋太郎教授と共に設立した「加工の知能化研究会」は、現在「技術の創造研究会」と改称され、畑村会長により今も続けられている。

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