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顔ぶれ豊富な大学や研究者 北関東を照準に社会貢献

JSTイノベーションサテライト茨城 館長 後藤勝年 氏

掲載日:2009年2月6日

後藤勝年 氏(JSTイノベーションサテライト茨城 館長)

後藤勝年 氏(JSTイノベーションサテライト茨城 館長)

 

サテライト茨城は、平成18年10月10日、茨城県つくば市のつくば研究支援センター内にオープンした。東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県という1都5県を対象に事業を展開しているが、他のプラザやサテライトと違い、数多くの大学や研究機関があり、またその規模や得意分野、産学連携に対する姿勢も様々だ。そうした中で、後藤館長は「最初はどこから手を付けて良いのかとまどいがありましたが、ようやく北関東(埼玉県、茨城県、栃木県)を中心に攻めていくという方向が見えてきました」と話す。

後藤館長によると、東京、神奈川は産学連携に対する意識は高く、例えば、東京農工大や東海大などではコーディネート組織がきちんと整備され、非常に積極的に取り組んでいるという。一方、茨城、栃木、埼玉の3県は産学連携に対する意識が低いと指摘する。また、千葉県は産学連携の意識や活性度は北関東と東京、神奈川のちょうど中間あたりだという。そこで、今年4月、千葉大学内にブランチ千葉を設置し、専任のコーディネータを1人配置した。

「千葉県はこれでかなり包括的にやっていただけますので、南関東はとりあえず自分たちの努力でやっていただく。もちろん我々の方に相談に来られるのはウェルカムですが、我々が限られた人数でこの広い地域のどこを重点的にやるかといえば、残りの北関東だと思います。茨城、栃木、埼玉に今年はかなり力を注ごうという方針でいます」

1都5県のそれぞれの特徴は、コーディネータと研究者が共同で提案するシーズ発掘試験の応募・採択数からも見えてくる。20年度の場合、茨城県(応募135件・採択36件)、栃木県(応募75件・採択11件)、埼玉県(応募28件・採択4件)、千葉県(応募78件・採択13件)、東京都(応募280件・採択46件)、神奈川県(応募176件・採択33件)となっている。

後藤館長は、サテライト茨城ができてから、筑波地区にあるほとんどの公的研究機関にJSTの事業説明に行った。「そこでわかったことは、旧国立研究所は大学よりも産官学連携に関する意識が低いことです。独法化したといっても各省庁直属で、各省庁のミッションさえやっていれば研究資金が下りてくるんです。しかも、各省庁がファンディングエージェンシーを持っていますからね。縦割りの最たるものですよ」

そうした事業説明をする中で、各研究所にコーディネータ的な組織を設立するよう求めている。「研究者は世界最先端を目指していますから、その成果がどのように社会に役立つかどうかということはあまり考えていません。しかし、そうしたレベルの高い研究の中には、様々な産業に応用できるものが必ずあるはずです。しかし、人数が少ない中で、我々のコーディネータだけで各研究所の成果を把握することは不可能です。つくば地区にある宝を掘り起こすためにも各機関がコーディネータを充実させるよう求めています」

公的研究機関の中では、産業技術総合研究所が積極的で既に多くのコーディネータをそろえ、産学連携活動を進めていたが、その他の研究機関ではコーディネータの充実は遅れていた。サテライト茨城が積極的にそうした活動に取り組んだ結果、物質・材料研究機構や農業・食品産業技術総合研究機構でも、コーディネート組織を整備し始めた。「サテライト茨城ができたのは、非常に良いタイミングだと思います。つくばエクスプレス(TX)も開通しましたし、つくば自体がものすごく変わりつつあります」

さらに茨城県内のコーディネータが、県北と県南で分かれてしまっているため、これらのコーディネータの交流を図るため、県が中心となって茨城コーディネータ・ネットワーク連絡会を新設し、これまでに3回開催した。

また茨城県は昨年2月と11月、TX沿線への企業誘致を目的に東京で「つくばビジネスセミナー」を開催、後藤館長もパネリストの1人として出席した。「両方とも超満員で企業の関心の高さを感じました。やはり街を活性化するためには、科学技術の集積・進展だけでは駄目です。生活や教育、経済を含む社会システムも並行して変えていかなければなりません」

さらに、つくばテクノロジーショーケース(つくばサイエンスアカデミー主催)には実行委員の1人として参加。いばらき産業活性化シンポジウム、いばらき産業大県フェア、つくば科学フェスティバルなどにも協力している。また、サイエンスカフェを年3回、中小企業のための知的財産・実践セミナーを年2回実施した。

栃木県については、宇都宮大学を中心に公設試とも密接に連携を始めた。「シーズ発掘試験への宇都宮大学からの応募が少なかったんです。そこで昨年から、育成研究のアドバイザリーボードのメンバーに、宇都宮大学知的財産センター長の山村正明教授に入っていただいて、『もっと宇都宮大学から出してください』とハッパをかけたら、今年度のシーズ発掘試験の栃木県からの応募件数が倍増したんですよ。ただし、単にアドバイザリーボードのメンバーに入れば誰でもよいのではなく、そういうことがよくわかっていて、積極的に動ける人でないと駄目です」
問題は、埼玉県だ。「一番どうにも動かないのが埼玉ですね。これをどうするかが問題です。ただ、埼玉の中小企業センターの人たちは、今までJSTの地域結集型研究開発プログラムを推進していまして、その人たちは結構意識が高いんです。もともと埼玉県というのは、中堅・中小企業はかなりしっかりしています。渋沢栄一の出生の地ですから。そういうことで、大学をどうやって本気にさせるかが課題です。上述のようにシーズ発掘試験は、応募数も採択数も少なく全国で最下位なんです」

そこで今後取り組んでいこうとしているのが、関東経済産業局との連携だ。「同産業局はTX沿線および圏央道沿線産業クラスター構想を打ち出しているんです。これは中堅・中小企業にクラスターを作ってもらおうというもので、埼玉県川口市まで入っています。お互いに連携すると相乗効果がでるのではないかと期待しており、学の面と産の面、両方から攻めていければと思っています」

 

リハビリ体操ロボット「たいぞうくん」。
体操だけでなく受講者とやりとりもできる

 

後藤館長一押しの育成研究は、比留川博久・産業技術総合研究所知能システム研究部門副研究部門長の「介護予防リハビリ体操インストラクター補助ロボットの開発」。プロジェクトで試作した体操ロボット「たいぞうくん」は、介護リハビリ体操の現場でインストラクターと一緒に体操をしたり、受講者とやりとりすることで、受講者の好奇心を呼び起こし、体操への参加意欲を高める。昨年11月のねんりんピックでは、開会式に出席するとともに、展示会場でデモンストレーションを行った(写真参照)。「すべての育成研究において3カ月に1度は、それまでの研究成果を確認して、今後の展開について議論しています」

「このロボットは研究開発としては成功しているのですが、大もうけできるようなものではない。しかし、社会貢献という点では大きな意味を持っています。育成研究を採択する際に、いかに社会貢献するかということも一つの視点だと思っています。もちろん、大化けするようなものであれば良いのですが、そんなものはなかなかあるものではない。すぐ商売に結びつけようとするとやはり姑息なことになってしまうと思うんです」

後藤館長は、工学系が多いプラザ・サテライトの館長の中では珍しいライフサイエンス系の出身者だ。後藤館長らが発見したエンドセリンは世界を席巻し、製薬企業はエンドセリン受容体拮抗薬の開発を競ったが、今のところ実用化されたのは肺高血圧治療薬だけだ。「最近の流行だが創薬はそんなに簡単なものじゃない」と話す後藤館長は、産学連携の難しさを非常によく理解している。それだけに、1都5県という多様で奥深い地域のマネージメントができるのだろう。

(科学新聞 2008年8月8日号より)
    <所在地・問い合わせ>
    JSTイノベーションサテライト茨城
    〒305-0047 茨城県つくば市千現2-1-6 つくば研究支援センターA棟3階

 

後藤勝年 氏
後藤勝年 氏
(ごとう かつとし)

後藤勝年(ごとう かつとし)氏のプロフィール
1943年生まれ、高校卒業後いったん就職したものの名古屋市立大学薬学部に入学。東京大学薬学研究科博士課程修了。東大薬学部助手、ウェストバージニア大学客員研究員を経て、77年から筑波大学基礎医学系助教授、90年同教授、2000年から4年間、筑波大学先端学際領域研究(TARA)センター長として産学連携にも取り組む。06年8月から現職。血管作用物質のエンドセリン発見者の一人。

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