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企業や産業活性化の源 大学のシーズ蓄積の努力を

JSTイノベーションプラザ広島 館長 佐々木博司 氏

掲載日:2009年1月9日

佐々木博司 氏(JSTイノベーションプラザ広島 館長)

佐々木博司 氏(JSTイノベーションプラザ広島 館長)

 

JSTイノベーションプラザ広島は、中国地域5県(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)を担当。広島大学(東広島キャンパス)に隣接する広島県東広島市の広島中央サイエンスパークに立地している。同サイエンスパーク内には中国電力技術研究センターや酒類総合研究所、松下電器など企業の技術研究所などが立地し、広島県の一大研究開発集積地域を形成している。

佐々木博司館長は「地域事業とは、その地にある大学等研究機関のシーズをうまく地域事業に生かして、産業を活性化することです」と話す。

プラザ広島は、平成13年11月に開館。佐々木館長は平成17年に就任した。就任当初、プラザ広島は、設立間もないこともあり、大学と対等な関係が築けていなかったという。佐々木館長は、広島大の工学部長を4年間務めた経験を生かし、大学との関係改善に努めてきた。また「財団法人ちゅうごく産業創造センター」と業務提携を締結。中国地域の企業が中心となって、産業活性化を目的に設立した同財団と提携することで、産業界の要望を積極的に採り入れることのできる体制を整えた。

「JSTのプラザはどちらかといえば大学等研究機関に近い組織です。プラザ広島の担当は中国5県ですが、中国地域の交通事情は良いとは言えませんので、限られたスタッフでくまなくカバーするのは容易ではありません。同センターとプラザ広島がお互いにシーズやニーズを紹介しあいながらやっていこうというものです。同センターには研究者時代に知り合った方も多く、話し合いがうまくできていると思います。さらに、中国経済産業局、中国NBC(ニュービジネス協議会)とも密に意見交換をしています」

 

JSTイノベーションプラザ広島の施設内にある研究室の様子
JSTイノベーションプラザ広島の施設内にある研究室の様子

 

プラザ広島における代表的な研究支援は、公募型の育成研究であり、大学等の研究成果(シーズ)の企業化を最終目的に、大学と企業がチームを組んで研究を実施するものです。その募集や採択はプラザやサテライトごとに行っていますが、チームの構成要件は大学等の研究機関が中国地域に在ることです。育成研究は、平成13年から公募を開始したが、最初は応募件数も少なかったという。各大学等を頻繁に訪問し、育成研究のみならず、JSTの各種支援事業の説明を繰り返し行ってきた結果、昨年の応募件数は24件まで増加。事業化の可能性が相当高くなければ応募できないため妥当な件数だという。

「必ずしもそうとは言いませんが、少ない応募からの採択では質の良いテーマを選定することはできないように思います。色々なところに働きかけて、研究者には意欲的に応募してもらいたいと思っています」

これまで終了課題を合わせて16件を採択したが、中には途中で打ち切ったものもあった。進捗状況が説明できない、研究チームがまとまらない、などの問題があったためだという。研究成果そのものより、チーム内でのプロジェクト管理がうまくいかない場合も見受けられ、プラザは全力を挙げてプロジェクトの遂行をサポートしている。

佐々木館長は「企業が研究者の持っているシーズに惚れ込んで、言い方は悪いですが、研究者と心中するくらいの熱意を込めて共同研究してもらわなければ駄目ですよ、といつも言っています。研究者には、うまくいかなくてもへこたれずに粘って研究する自我の強さがあると良いですね」と話した。

育成研究の採択課題で、佐々木館長が特に期待しているのは、平成15~18年に実施した加藤幸夫教授(広島大医歯薬学総合研究科)と(株)ツーセル、電気化学工業(株)、(株)ビー・エム・エルの共同研究による「歯周病と骨疾患に対する細胞治療の事業化」。この成果である間葉系幹細胞研究用無血清培地STK2は、製品として今年5月からDSファーマバイオメディカル(株)で販売されている。従来の牛血清添加培地と比較して安全性、利便性に優れ、大量の細胞増殖が可能だという。

加藤教授はその後研究をさらに発展させ、平成19年からは「間葉系幹細胞の安全性判定法とそれを用いた細胞治療法の事業化」が育成研究に採択されている。

育成研究採択のための評価は、まず外部の有識者からなるアドバイザリーグループと専門委員により申請書を評価してもらう。その結果を基に、科学技術コーディネータと館長でプレゼンしてもらうテーマを決め、アドバイザリーグループによるヒアリングを行う。ヒアリングの評価を基に館長が最終的に採択希望テーマを決定するという手順になっている。

育成研究の成功率を上げるため、今後は、採択テーマの分野に詳しい専門委員2名程度をテーマごとに担当してもらい、四半期の大まかなチェックなども実施したいという。

「他機関と連携を深め、中国地方の大学や企業が元気になってもらうよう努力したいですね」と話す佐々木館長だが、大学と関わる中で、危惧していることもあるという。

「大学のシーズの実用化は、社会からの要請に応える形で今盛んに行われています。しかし、そのシーズは、いわゆる国立大学時代に、ある意味研究者の興味にまかせた研究から生まれてきたものです。特に地方大学は、今一生懸命その時代に蓄えたシーズを吐き出しています。では、次に出すシーズはどうするのか。そのループができていない気がします」

佐々木館長はシーズの実用化の一方で、大学がシーズを蓄積できる機関であり続けるための努力も忘れてはならないという。「若手の研究者には、必ずしも実用化にこだわらず、基礎力を高め、自身の研究を突き進んでほしいと思います」

育成研究の目的とする事業化には、もとになる成果はもちろんだが、共同研究に向かう大学研究者と企業技術者の姿勢も重要な要素になる。単純に資金面ではなく、研究者と企業の技術者が協力できるかにかかっているのかもしれない。

プラザ広島は、企業と積極的に意見を交換するため、ちゅうごく産業創造センターなどの企業団体と業務提携を結んでいる。今回は紹介できなかったが、プラザ広島には事業化に近いと思われる成果が数多く出ている。今後の展開に注目したい。

(科学新聞 2008年7月4日号より)
    <所在地・問い合わせ>
    JSTイノベーションプラザ広島
    〒739-0046 広島県東広島市鏡山3-10-23 広島中央サイエンスパーク内

 

佐々木博司 氏
佐々木博司 氏
(ささき ひろし)

佐々木博司(ささき ひろし)氏のプロフィール
早稲田大学第一理工学部電気工学科卒、同大学院理工学研究科電気工学専攻博士課程単位取得後退学。広島大学講師等を経て89年教授、00年工学部長、04年定年退官、名誉教授。中国電力エネルギア総合研究所技術嘱託の後、05年から現職。専門は電力系統工学、開発した潮流計算プログラムは現在も複数の電力会社で実用に供されている。07年電気設備学会会長。

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