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産官学連携『理想の地』敏腕コーディネータが活躍

JSTイノベーションプラザ京都 館長 松波弘之 氏

掲載日:2008年12月26日

松波弘之 氏(JSTイノベーションプラザ京都 館長)

松波弘之 氏(JSTイノベーションプラザ京都 館長)

 

京都市では、平成14年から京都大学桂キャンパスの隣接地を産学公連携の新産業拠点として位置付け、『桂イノベーションパーク』として整備を進めているが、JSTイノベーションプラザ京都は、京大桂ベンチャープラザ北館・南館、研究開発型企業とともにこの桂イノベーションパークの中に設置されている。その目的は、京都大学をはじめとする京都府、奈良県下の研究機関の研究成果を社会還元させるため、シーズの発掘から実用化までの研究支援開発をJSTの技術移転事業などとの連携を図りながら推進することである。

「ここはイノベーションプラザとして最後になる8番目(平成16年度)にできました。きっかけは、京都大学の工学研究科が吉田キャンパスから新しいところへ移転するということで、京都市がこのあたりを整備し、桂イノベーションパークと名付けました。大学だけ出てきても”陸の孤島”になってしまう恐れがあるとの思いから、京都市等が申請してJSTのプラザが設置されることになったのです。隣には大学の研究成果を活用したビジネスに挑戦するベンチャーを支援する京大ベンチャープラザがあり、また、これまでに、ファーマフーズ、三洋化成工業、マイコムという3つの研究開発型企業もきています」

産官学連携事業を推進するには理想的な環境に恵まれているプラザ京都、それだけに期待されることも大きい。そうした要望に応えるうえで、科学技術コーディネータの果たす役割が非常に大事だと松波館長はいう。

「プラザ京都の総館長を務めるのは、産業界を代表する一人である、堀場製作所の堀場雅夫・最高顧問であり、それから京都、奈良との地域連携も緊密であるのがここの特徴だと思います。

わたし自身は長年、京大で電子工学分野、半導体材料の研究・教育の仕事をしてきました。その関係で産学連携にも関わっていましたが、やはりそれは大学の一員として産業界をみていたわけで、館長就任に際してはなかなか大変だと感じていました。そこで、産学を上手に橋渡しするには、科学技術コーディネータの果たす役割が極めて重要だとの考えから、コーディネータには”目利きの役割”を果たしてほしいと思ったのです。つまり、大学における様々な成果の中で、先行き本当に事業化につながるものであるのかどうかという見方をしてもらいたいのです。

現在、4人のコーディネータがおりますが、それぞれ産業界で30年以上R&Dあるいは事業に関与した経験を持っています。彼らには、総合調整役とか、研究計画の大項目・中項目整理、あるいは進捗状況への提言といった具合に、プロジェクトに強く関与するという立場で仕事をしてもらっています。色々な分野から応募があったときに、コーディネータに第一次のスクリーニングをしてもらいます。企業での長い経験がありますから、人的なネットワークも持っていて、それを通じての判断が期待できるわけです。こうした役割を果たす人は、世界でも珍しい。

外国、とくにアメリカやドイツではエンジニアリングですと、企業の経験者が大学の先生になっているケースが多く、どういう研究に意味があるか、何を要求されているのかをよく知っています。日本の場合、歴史的に、大学は大学、企業は企業でしたから、研究の質は非常に深いのですが、それがどう役に立つのかを考えている大学人はあまり多くなかったのです。そうした意味で、コーディネータの役割は極めて大切だと思います。研究開発の流れで最上流にあるシーズ発掘試験でも、コーディネータが活躍してくれています」

今日では、研究開発の成果(結果)には必ず評価が下される。プラザ事業の中核をなす育成研究でも中間評価、事後評価が義務付けられている。とはいえ、すぐさま事業化に結びつくものばかりに目を向けるのはやはり問題だろう。

「京都にはユニークあるいはオンリー・ワンの企業が多いのです。そうした風土に配慮する必要があります。総館長が言われるように、3年後あるいは5年後にこれだけの事業化を達成していなければならないということだけにこだわったら、研究内容は”小物”になってしまう恐れがあります。できればグローバルスタンダード、デ・ファクトスタンダードになるようなテーマを含めておかないと京都としての価値がないということです」

育成研究から、『研究資源活用型』へ進んだ井出亜里氏(京大院工学研究科 教授)のプロジェクトは、その代表例ともいえるものである。

 

平成19年秋 京都二条城 台所「お城祭り」での展示風景
平成19年秋 京都二条城
台所「お城祭り」での展示風景

 

「この育成研究は、プラザ京都の”第一期卒業生”の1つです。テーマは『超高解像度大型平面スキャナの開発と画像材料推定システムへの応用』で、具体的には文化財専用の大型スキャナを開発し文化財のデジタルアーカイブに活用するとともに、高解像度、高画質の画像から得られた各画素データをもとにして、文化財(日本画)で使われた顔料の材料に関する情報も取得するというものです。デジタルカメラと違い、一度に大型の襖や屏風などをデジタル化することが可能で、さらに、どのような材料で描かれているかも分かります。また、最近開発された表示システムを使って好きな部分を高解像度で拡大・縮小・スクロールして見ることができます。昨年の秋には『触ってみる二条城障壁画』の催しを開催、また、今年3月にはルーブル美術館でデモンストレーションを行いました。この成果は、アウトプットというより、文系と理系の融合をもたらすアウトカムとして非常に価値の高いものだと思っています」

この育成研究以外では、やはり昨年卒業した、『フォトンクラフト技術を応用した生体適合型分子メスの開発』(研究代表者=植田充美・京大院農学研究科 教授)と『バイオインフォマティクスに基づく新規糖尿病治療薬のデザインと開発』(同=辻本豪三・京大院薬学研究科 教授)がとくに注目されるという。

「植田プロジェクトは、フェムト秒レーザー超微細加工技術を使って、生物試料内部の3次元超微細加工が可能な生体適合メスを開発、様々なバイオへの応用を切り開いていこうというもの、一方、辻本プロジェクトは、特許出願した新規受容体の新たな作動薬によって糖尿病治療薬の開発を目指すものです。大学発の創薬にチャレンジしており、新受容体の推定立体構造を使ったイン・シリコバーチャルスクリーニング、それに続く生物活性評価でヒット化合物を探索し、さらに合理的薬物設計によってリード化合物を創出しています。道のりは長いにせよ、今回紹介した3つの研究はいずれもグローバルスタンダードになるものと自負しています」

“卒業生”と呼んでいることからもうかがえるように、プラザ京都で行われてきた研究には、館長としてまさに”育成した”という思いがあるのだろう。今後もそれらに続くような研究が期待される。

(科学新聞 2008年7月18日号より)
    <所在地・問い合わせ>
    JSTイノベーションプラザ京都
    〒615-8245 京都市西京区御陵大原1-30

 

松波弘之 氏
松波弘之 氏
(まつなみ ひろゆき)

松波弘之(まつなみ ひろゆき)氏のプロフィール
62年京都大学工学部電子工学科卒業。71年同大助教授(76~77年米ノースカロライナ州立大学客員准教授)を経て、83年京大工学部教授。半導体材料、光電変換材料を中心とする電子材料の研究に従事。70年ごろから、半導体シリコンカーバイドが半導体材料として世界で認められるために尽力してきた。98年日本結晶成長学会論文賞、02年文部科学大臣賞を受賞。電子情報通信学会、応用物理学会、米国電気電子学会フェロー。04年から現職。

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