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科学が芽生える国へ -T細胞による自己・非自己識別の解明に向けて

高知大学医学部 教授 宇高恵子 氏

掲載日:2007年6月15日

宇高恵子 氏(高知大学医学部 教授)

宇高恵子 氏(高知大学医学部 教授)

 

私は愛媛県松山市に生まれました。夏休み、春休みのたびに農家である母親の実家に行き、野原や川で遊んだのがうれしくてたまらず、何か自然や生き物にかかわれることをやって生きていきたいと思っていました。

愛媛大学医学部の大学院の最終年に米国ペンシルベニア大学で博士研究員として研究をするために渡米し、その後MIT(マサチューセッツ工科大学)へと移ることになりました。MITで夢のような研究生活に浸る一方で、私は、T細胞の研究を進めるうえで、抗原となるペプチドを自由に合成したり解析したりする技術を身につけたいと、有機合成の歴史の古いドイツへ移ることを考えました。

ドイツ最古のチュービンゲン大学には、フリードリッヒ・ミーシャーが世界で初めて核酸を抽出した部屋がそのまま残っていました。大学の入り口には、”ATTEMPTO(挑む)“の文字。サイエンスが芽生える国。2メートル前後の大男たちの中で私はT細胞の抗原ペプチドを解析する技術を開発し、それまで困難であったT細胞の研究や免疫治療に新しい可能性を導入することができました。

さきがけ研究でドイツで開発したペプチドの同定法では十分でなかった部分に、日本電気(株)の理論研究グループと共同でコンピュータアルゴリズムを活用した情報探索技術を導入し、世界で最も精度の高いT細胞抗原ペプチドの同定方法を確立しました。その技術を使って、これまで困難であった、がんやC型肝炎などの難治性ウイルス感染症に対するT細胞誘導型ワクチンの開発が容易になりました。鳥インフルエンザワクチン開発の基礎研究にも私たちの技術が生かされています。

高知大学医学部の教室では、子育てを終えた主婦が研究の推進力となっています。高知の学生も捨てたもんじゃない。うれしい誤算でした。生命現象においては、反応場を理解することがきわめて重要です。私もまた、高知という場を利用してどんなことをやろうか、”ATTEMPT“、大いに楽しみです。

  • 「さきがけものがたり-未来を拓く研究者たちのドラマとその舞台」(アドスリー発行、丸善 販売)から要約転載)

 

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