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名人・達人・鉄人 - 知能の創造と進化

北陸先端科学技術大学院大学 教授 飯田弘之 氏

掲載日:2007年4月13日

飯田弘之 氏(北陸先端科学技術大学院大学 教授)

飯田弘之 氏(北陸先端科学技術大学院大学 教授)

 

小学生のころに子ども将棋大会で優勝し、大内延介の門下に入ってプロ棋士を目指した。今でこそおしゃれな感じがするプロ棋士も、元来は学問と対極の勝負師の世界、大学にまで進学できたのは、大内名人の異例の計らいによる。

在学中にコンピューター将棋に遭遇したのがきっかけで研究者の道に転進し、オランダに留学して「ゲームの理論」などの理論研究を積み重ねた。人間は経験と推論によって物事を判断している。自らの棋士の経験と人工頭脳を組み合わせて、到達出来る極限を見極めようと、さきがけに応募しコンピューター棋士TACOSの開発に挑戦した。

台湾のコンピューターソフトの大会で優勝し、国内の大会でも上位入賞を果すなどの成果が得られたので、プロ棋士と対戦させて実力を評価することにした。しかし対戦相手に「頭が真っ白になった」と言わせたほど肉薄したこの試合は、なぜか人間同士の対局とはかなり違った雰囲気であった。

そもそも「ゲームとしての面白さ」はどこにあるのだろうか。チェスや将棋などの古来から生き残ったゲームを研究したところ、ある調和があることを発見した。それは長い時間をかけて工夫されたものであって、始めから意図的に作り出されたものではない。

有限の盤面に繰り広げられる無限ほどもある試合展開の可能性が、攻守が一手指すごとに狭められたり或いは広げられる、その微妙なバランスと変化のドラマが人々を惹きつけるのであろう。

このようなすぐれたゲームを豊かなものにする重要な要素はやはり人間である。人間同士の思考力の綱引きがゲームの醍醐味を演出する。勝負に勝つ世界を名人、ゲームの面白さを追求する世界を達人と呼ぶとすると、次のテーマは人間の思考の絡み合いを探る世界である。

これを鉄人と呼び地元の陶芸家、将棋の名人、画家、書道家らとコラボレーションしながら追求を続けている。

(科学技術振興機構 上田充)
  • 「さきがけものがたり-未来を拓く研究者たちのドラマとその舞台」(アドスリー発行、丸善 販売)から要約転載)

 

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