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真理は嘘をつかない

九州大学大学院 教授 藤木幸夫 氏

 

学位を取得後、生まれ育った福岡を離れ、米国のコーネル大学へ留学しました。

3年間の研究も終わりに近づいて次をどうしようかと考えている頃でしょうか、思いがけないことが起きました。忘れもしない1978年の12月30日、大学と通りを挟んだスローン・ケタリングがんセンターのカフェテリアで、ランチをとっているロックフェラー大学のムーア教授を偶然見かけたんです。

教科書でしか見たことのないノーベル賞学者が目の前で食事をしているんですよ。子どもの頃、山でオオクワガタに遭遇して以来の衝撃でした。

気がついたら、ムーア博士の前に座って、「私にロックフェラー大学で研究をさせてほしい」と、説得にかかっていました。留学3年目で英語にわずか慣れたばかりの若造がです。

そしたらムーア博士が「じゃあCV(履歴書)を送りなさい」とおっしゃいました。びっくりしましたね。その結果、幸運にもロックフェラー大学のC・ド・デューブ教授の研究室へ就職が許可されることになったんです。

研究者という職業の魅力は、誰も足を踏み入れたことのない未知の領域を探索するところにあると思います。とくに生命科学は奥が深く謎ばかりです。ノーベル賞受賞者を全員集めても、真核細胞一つどころか大腸菌一つさえ創れないのですから。

研究の世界は、チャンスが平等である点も、他の職業とは異なった特徴です。大学院生だって大学教授だって、世界のどこで研究をしていようと結果がすべてですし、自然、生命、宇宙の真理は嘘をつきません。自分のアイデアで結果さえ出せば、世界に認められる。つまり、同じ研究分野なら、大学などで研究を開始した時点で、ノーベル賞を狙っている研究者と同じスタートラインに立っていることになるのです。

私だって日本、いや九州の1研究者にすぎないわけですが、米国のハーバード大学やロックフェラー大学、英国のケンブリッジ大学などの研究陣と対等に戦っていますよ。夢があります!

  • 「科学者になる方法-第一線の研究者が語る」(東京書籍)から転載
  • 藤木幸夫 氏の研究について:
    ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体など細胞を構成する小器官(オルガネラ)が、タンパク質からどのようにしてつくられるか、これらオルガネラの形成に障害が起きた場合、どのような病気にかかるかなどの研究を進めている。ペルオキシソームというオルガネラの一つが欠損で起きる病気「ツェルウェガー症候群」の原因となる遺伝子を見つけた。

 

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