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臨床医から研究者に 新たな治療法求め

京都大学 再生医科学研究所 教授 山中伸弥 氏

山中伸弥 氏(京都大学 再生医科学研究所 教授)

山中伸弥 氏(京都大学 再生医科学研究所 教授)

 

もともと整形外科の臨床医だった私が研究者に転身するきっかけの一つは、ある重症リウマチの女性患者さんを担当したことでした。全身の関節が変形し、ベッドの傍らに置かれた写真にあるかつての面影をほとんど残していないその姿に、ショックを受けたのです。

そして、基礎研究を行えば、こういう患者さんも救える治療につながるかもしれないと考えるようになりました。現状の治療法には限界があるということも、痛いほどよくわかりました。新たな治療法を求めて研究していくことは、患者さんを実際に診療するのと同じくらい、もしくはそれ以上に患者さんを助けることになるかもしれないと考えました。

こうして、臨床の世界を飛び出したわけです。最初は薬理学の研究から始めましたが、やがて、薬の効果を観察するだけでは限界があると悟ります。1990年代の初頭には、遺伝子操作マウスが普及しはじめていました。そこで、大学院修了後は、雑誌の求人広告に応募してアメリカへ渡り、遺伝子操作マウスを扱う研究室に入りました。

留学も終わりに近づいた頃に未知の遺伝子を見つけます。そして、その遺伝子が、ES細胞(胚性幹細胞)の分化を左右する遺伝子であることが、ノックアウトマウスを使った実験によって偶然、確かめられました。その遺伝子を破壊することで、ES細胞が増殖はつづけるけれど分化能力を失うことがわかったのです。

それがきっかけで、私はES細胞の研究に興味を持つようになりました。アメリカでヒトES細胞が培養され、医療に有効であるとわかった98年には、独自にES細胞にかかわるテーマを探し、本格的に研究をつづけていこうと決めました。

研究者にとって一番大切なのは、強い好奇心と、いろいろな現象を不思議と考え、疑問点を自分の手で解決しようという意欲だと思います。研究室に学生を入れる際も、ペーパーテストの結果や過去の経験ではなく、研究をしたいという熱意を重視しています。

  • 「科学者になる方法-第一線の研究者が語る」(東京書籍)から転載
  • 山中伸弥 氏の研究について:
    ES細胞がどのようにしてあらゆる組織に分化する能力を維持しているかを研究、重要な役割を果たす転写因子を初めて突き止めた。一方、ヒトの受精卵を壊さないと作れないという倫理面の問題を抱えるES細胞に代わり得る、より臨床応用に適した細胞を探す研究も続け、この8月、マウスの皮膚細胞から、身体の多様な細胞に分化する「誘導多能性幹(iPS)細胞」を作り出すことに成功した。

 

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