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2010年7月2日編集だより

小岩井忠道

ベスト8入りを逃したのを境に、当然ながらワールドカップの新聞報道も様変わりしたように見える。編集者がまず、ホーッと思ったのは、1日朝刊数紙に掲載された共同通信の記事だ。予選4試合で各チームがどのような闘いぶりをしたかを、さまざまな数字をあげて比較している。野球の報道では、打率や打点、防御率やセーブ数など数字で示されたデータが昔から豊富だ。しかし、それ以外の球技となると、エビデンスベイスド(根拠に基づいた)記事が少ないように思っていたので、この記事は読ませた。 「(日本が)最下位だったのが、60%にとどまったパス成功率。パス総数も1,477本で、トップのスペインの半分ほど。1試合当たり369本は、最下位ニュージーランドの364本に次ぐ少なさだった」

これらの数字からだけでも相当なことが推察できる。試合中、ボールを持っている時間が相手より少なく、パスが何本も通らないうちに奪われてしまうケースが多かった、ということだろう。

次のような記述もあった。「ファウルを受けた数は1試合あたり23回で出場チーム最多。個人でも本田が出場選手中1位で、2位は18回の中沢」。相手に楽なプレーをさせないよう体を張って必死に戦ったということがよく分かる。

昔、通信社の入社試験を受けたとき、尊敬する人物を書け、という欄があった。「父」あるいは「母」と書いておくのが無難。何とでも答えられるから。そんなまことしやかな面接ノウハウが流布されていたように思うが、残念ながらこの手は使えない。親は二人とも若死にしていたから。それで「升田幸三」と書いた。

時事問題にも詳しくなく、英語もさっぱり、おまけに作文は3分の1ほど書いたら時間切れに。そんな人間でもとにかく採用しないわけにはいかないと先方も目をつぶったのだろう。1,2年後にアポロ宇宙船で月に人が、という時期だった。科学記者をとにかく一人採ってほしい。科学部長が必死に社内の根回しに動いた、と後でご本人から聞いた。

役員面接でろくな受け応えができないで困惑していると、編集局長が助け舟を出してくれた。

「君、『何々すべく』なんて書き方をしているが、新聞記事じゃ使わないよ。ところで、升田幸三を尊敬するというのはどうして?」

胸をなでおろしたものだ。これならなんとか答えられる。「将棋は守りを重視した方が勝ちやすい。しかし、自分はあえて攻めの将棋を目指している」。升田幸三氏が語っていたのを、ちょっと前に何かの雑誌で読んでいたからだ。

スポーツも守りがより重要だ、とよく聞く。例えば攻めと守りがはっきり分かれている野球を例にとると分かりやすい。実力は明らかに劣るが、投手が頑張って相手に点を許さない。そのうち相手があせりだし、1点もやれないと気負った投手が四死球を連発、さらにエラーも絡んで1点が転がり込んで勝ってしまう。こんなことは結構ありそうだ。バスケットボールも結構、力の差があるチーム同士だろうと、シュートの成功率にそれほど極端な違いなどない。ディフェンスをしつこくやることで、相手に少しずつ無理なパスやシュートが増えていき、終わってみると個人の能力を足し合わせると劣勢に見えた方が勝ってしまう。そんな番狂わせも相当あるのではないか。

しかし、サッカーはどうだろう。野球やバスケットなど他の多くの球技に比べると、守り重視だけで勝つのは相当、難しいのではないだろうか。1点を取るのが恐ろしく難しい球技に見えるからだ。個々の選手の能力で明らかに見劣りするチームがいくら防御を懸命にやっても、それだけでは点を取るチャンスが転がり込んで来るとは思えない。

冒頭紹介した共同通信の記事に、次のようなくだりもあった。「1試合当たりのシュートは11.5本で、8番目に少なかった」

結局、この記事を読む限り、予選突破は実力をはるかに超える結果のように見える。まだ感激が冷めない多くのサッカーファンはそうは思わないだろうが。

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