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2010年4月19日編集だより

小岩井忠道

ナショナルジオグラフィックという名は、日本でもだいぶ知られるようになっていると思う。National Geographic Society(米地理学会)が毎月発行する月刊誌だ。日本語版を初め、各国語による翻訳版もたくさんの国で発行されているらしい。米地理学会は100年も前にピアリーの北極探検を支援したのを初め、世界中のさまざまな探検、探査、野外調査などに資金援助をしている。その結果は無論、特集記事としてナショナルジオグラフィックの紙面を飾るわけだ。基本的には人がやったことだけを伝える一般向け雑誌とは性格はだいぶ違う。

1909年北極点に到達したとされていたピアリーの業績に対し、その後、疑義が出たため、20数年前、再び資金を出して調査を行ったこともある。その結果(やっぱり北極点には到達していなかったという)もまた、特集記事としてナショナルジオグラフィックに掲載された。

そのナショナルジオグラフィックが、他の科学雑誌を出している出版社と公平な競争をしていない、と指摘されたのを、昔何かで目にしたことを思い出す。ナショナルジオグラフィックは、全世界で1,000万部の発行部数を誇るといわれる(実際は800万部程度らしいが)。学会だから非営利団体である。出版社と同じように税金を払わなくても済むから出版コストが少なくて済むというクレームのようだった。確かに内容の充実ぶりに比べ、1冊あたりの価格は安い。

もう20年以上も前になるが、通信社記者時代、ナショナルジオグラフィックの本部(ワシントンD.C)から、写真付きのプレスリリースの提供を受け、何度もニュースとして流したことがある。見栄えもよい珍しい写真のせいだろう、写真も記事も新聞によく載った。「ガラパゴス諸島の鳥(名前は失念)が気候変動のせいか、異常な繁殖行動を示している」。繁殖時期でもないのに卵を抱いているという鳥の写真を付けた短い記事は、全国紙を初めとするほとんどの新聞に載ったのではないかと思う。

ところがある日、ありがたいニュース源がなくなってしまうという事態となった。ニューヨーク・タイムズ紙と写真提供の独占契約を結んだので、以後、他のメディアには提供できない、というのだ。ニューヨーク・タイムズでは相手が悪すぎる。あきらめざるを得なかった。以降、日本の新聞にも、米地理学会提供というクレジットのついた写真はさっぱり見られなくなってしまったのではないだろうか。

途中経過は省略するが、今日から当サイエンスポータルにナショナルジオグラフィックの写真付きニュースが載り始めた。自然が好きな方々にはとりわけ喜ばれるコーナーになると確信している。

それにしても米地理学会の会員というのはどのような人々からなるのだろうか。日本では、人文地理はともかく地学を履修する高校生などごく一部と思われるのに、地理学に対する関心がこれほど高い理由は何か。

毎月送られてくるナショナルジオグラフィックの中身は相変わらずろくに読んでいない。しかし、米地理学会の会員歴だけは四半世紀に近い編集者としては、あらためて考え込む。

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