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2010年3月10日編集だより

小岩井忠道

日本原子力研究開発機構の広報企画委員会で岐阜県瑞浪市に8、9日と出かけた。日本原子力研究開発機構は前身の動力炉・核燃料開発事業団、核燃料サイクル開発機構時代から、マスメディアの批判にさらされたことが数多い。マスメディア対応に課題がないとは言えないが、数々の試練を経て今の姿があるということだろう。編集者のような外部の人間だけから成る広報企画委員会は年に2回、毎回、場所を移し、地方の事業所で開いている。今回は瑞浪市の東濃地科学センターが開催場所になった。

東濃地科学センターは、将来必要となる高レベル放射性廃棄物の地層処分に備え、地下水の動きなど地下のデータを得ることが目的の施設だ。現在400メートル以上の深さまで立坑が掘られている。初日に300メートルの深さに掘られた横坑までエレベーターで下り、内部を見学した。そこから下をのぞくと底で作業中の人のヘルメットがようやく見える。

そこで考えたのは、子どもの時だったらもっと楽しかったのではないか、ということだ。地下-洞窟(どうくつ)と連想すれば「トム・ソーヤーの冒険」「ソロモンの洞窟」「地底旅行」…。子どものころ読んだ物語がいくつか浮かぶ。

2日目に恒例となっている地元の方々との意見交換会があった。出席者の中に岐阜県先端科学技術体験センター職員という方もおられた。現在は出向中で本業は高校の理科の先生。近く教壇に戻るという。中学、高校生たちにも来てほしいのだが、部活動やら塾通いなどで忙しい。結局、小学生相手が主の体験教室が多くなってしまう。高校で地学を学ぶ生徒もわずかしかいないし、などと悩みを語ってくれた。

施設を地域のために、という気持ちは皆に共通で、本来の研究目的以外にも活用できないか、という話で盛り上がった。いずれ地下500メートルに達する。行政刷新委員会の事業仕分けその他の関門をうまく通り抜けられたら1,000メートルまで掘る可能性も、という立坑である。

まずはたくさんの子どもたちに抗内を見てもらい、自然や理科の面白さに気づいてもらう。家庭での親子の対話から親にも科学や原子力への関心を持ってもらえれば何より。それにはただ見学者に職員が分かりやすく説明するだけでは不十分だ。例えば夏休みなどには見学に来てくれた地元の子どもたちが地学や原子力をテーマにした作文を書くのを手伝うくらいでないと…。いろいろ思いつくまま話したら、センター職員を含め、反応はまずまずだった。

研究施設がある地域の子どもたちの理科や数学のテスト結果が全国平均より軒並みよい。もし、そんな統計結果が出たりしたら、研究施設は危険だから来ないでほしいなどという声は消え去ってしまうのでは、とまでは言わなかったが…。

日本原子力研究開発機構執行役・広報部長の久保稔氏は、評論家の立花隆氏も認める広報マンで、東京大学の立花ゼミで講義をした実績がある。無論毎回、広報企画委員会には同行する。

「科学コミュニケーションの重要性が叫ばれるようになっているが、関心のある人たちの多くに何か欠けているものがあるような気がするが」。ホテルで朝食中、議論をふっかけてみた。科学コミュニケーションとは専門的なことを分かりやすく一般の人に説明すること、と考えている人が結構いるのでは。かねがねそんな印象を持っていたからだ。

「その通り。広報活動にマニュアルなどない。広報担当者はあくまで黒子で、常に当事者、研究者を立て、支援する姿勢でないと」。予想通りの答えが返ってきた。

「言うはやすし、行うは難し」は世の常だが、広報という仕事もまた、一筋縄ではいかないということだろう。ノウハウがなければ成果を正当に評価してもらう機会をみすみす逃す。さらに広報という仕事が難しいということ自体を知らないと、非常に危ない。事故など思わぬこと起きた場合、取り返しのつかない事態を招く潜在的なリスクを抱え込んでしまうからだ。

日本原子力研究開発機構でも最近、広報部を希望する職員が多いという。しかし、向いているという評価を得られた人しか広報部員になれないそうだ。

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