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2009年12月28日編集だより

小岩井忠道

いずれこういう記事が出てもおかしくないのでは、と漠然と考えていたら、やはり28日の産経新聞に載った。「ワクチン大量に余る」。新型インフルエンザワクチンが当初の大騒ぎに反し、どうやら余りそうだ、という記事だ。国産ワクチン5,400万人分に輸入の9,900万人分を合わせ、日本が確保したワクチンは1億5,300万人分になる。しかし、既にかかっている人1,500万人は免疫ができているからもはやワクチン接種は不要。流行も下火になりつつあるので、全員が接種を義務づけられているわけでない有料のワクチンが余るのは間違いない。それも大量に、という内容だ。

喜田宏・北海道大学教授の「新型は季節性のAソ連型と共通する部分があり、1回接種で効果が得られることは予想できた。大量余剰の責任はだれが取るのか」というコメントが入っている。ワクチンの輸入に使われた税金は1,126億円になるとも書かれている。ちなみに喜田教授は当初から、輸入ワクチンに頼るという発想自体を強く批判していたインフルエンザウイルスの研究者だ(2009年8月26日インタビュー喜田宏氏「新型インフルエンザ対策は地道に」第1回「ワクチン輸入には頼れない」参照)。

インフルエンザウイルスがどのような挙動を示すか、というのは専門家にも予測困難であることは指摘されていた。対策が安全側、安全側になりがちなことは、やむを得ない面があるだろう。しかし、訴訟を起こされることを過度に恐れるために科学的には意味のないと思われる対応も、という昨今の風潮を指摘する声が最近、いろいろな場で聞かれることも事実だ。意味のないコストがかかっていないかどうかを問うような記事がもう少しあってもよいのでは、と考える人はいないだろうか。

インフルエンザにかかわらず、日本の感染症対策は不合理な面が多々ある、という話を思い出す。感染症の臨床医で感染症コンサルタントとしても活動している青木眞氏によると日本の感染症対応は米国とは非常に異なるという。インフルエンザ、結核その他、微生物によって引き起こされる感染症の対策は、実際に患者に接する臨床医と微生物学者さらに疫学の専門家が共同で当たらなければならない。しかし、日本では微生物学者が中心になっているためこれら3つの専門分野のアンバランスが激しいというのである。

米国での医療活動が長い青木氏にしてみると、空港での検疫に当初、あれほどの期間、あれだけの数の医師を割いたのは不適切極まりない対応。さらに学校閉鎖などの措置も、ということのようだが、それも臨床医、疫学専門家の発言力が小さすぎる結果ということらしい。

これは重要な指摘なのでいずれきちんと紹介しなければならない、と考えている。

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