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2009年12月1日編集だより

小岩井忠道

「国会議員の仕事は同じ話を10回くらい繰り返して同じように話すこと。有権者に説明したつもりでも『あの時言ったじゃないか』と言ってはいけない」。民主党の山岡賢次・国会対策委員長が党の国対会合で新人議員に指南した、という短い記事が日経新聞の朝刊に載っていた。おもわず苦笑いする。

年末、年始の記事を仕込むため、31日と1日、名古屋、京都でそれぞれインタビュー取材などをこなし、当サイエンスポータルにこれまで何度も登場願っている坂東昌子・愛知大学名誉教授・NPO法人知的人材ネットワーク「あいんしゅたいん」理事長とも京都大学時計台棟内のレストランで会食、懇談してきた。昔、編集者が通信社の京都支局大学担当として2階の大学記者クラブに詰めていたころと、時計台棟の内観は一変している。記者クラブやすぐ前の総長室があった本部は別の建物に移動しているという。

坂東先生によると、その立派なレストランは観光客に有名で昼など外部からの客で混み合い、とても利用できないとのことだ。ただし夜は別らしく、客はわれわれのほかは2人連れの一組だけだった。西洋料理にもうといが、料金は普通でも味は相当なレベルという印象だ。ワインの値段と質も。

会食の前に坂東先生のインタビュー相手をさせられた。「あいんしゅたいん」が全面協力する番組「サイエンス・ニュース・ネットワーク」は、科学技術振興機構が最近、新しく一般向けに始めた映像主体のウェブサービス「サイエンス・ニュース」のコンテンツの一つになっている。この売り物の一つが先生自ら研究者たちにインタビューする「昌子の部屋」というコーナーである。

ウェブサイトに限らないと思われるが、スタート直後は、誰でも知っている高名な方を登場させるのが肝要。その後、新たなインタビュー相手を探す際、前に大家が登場していると断られることが少ない。ウェブサイト編集の“先輩”としてのノウハウを理由に挙げて辞退したのだが、これまでお願いばかりしていた関係である。結局、断り切れるはずもない。厚顔にもインタビュー映像の収録にも応じることになった次第だ。

「あれだけの情報を発信するの大変でしょう」。そんなお世辞をまともに受けて、得々と苦労話を披瀝するほどは図々しくないので、昔取った杵柄(きねづか)との違いをいくつか説明させていただいた。一人でできることなどしれているけれど、通信社の科学記者時代にはやりたくてもできなかったようなことを幾分でも、という日ごろの思いを紹介する。

「新聞というのは一度書いたことは2度書かない、というのが規範になっています」

すかさず合いの手が入る。「研究者と同じね」

しかし、研究者と記者はだいぶ違う。研究者の価値ある論文は同業の研究者仲間に評価され、何度も引用されるから一度発表しただけで何も困ることはないだろう。マスメディア業界は、へたすると大スクープほど他者から無視されることがある。西山毎日新聞記者(当時)の沖縄密約問題スクープの経緯を思い起こす人もいるかもしれない。

「とにかく、一度書いた記事と同じものは書かないという新聞・通信業界の基本的ルールは、読者が毎日その新聞のすべての記事に目を通しているという前提で成り立つ話です。もちろん現実的にはそんなことはまずあり得ません。どんなよい記事でも見落としたら、まずその読者の目に入ることはない、ということです」

という前置きに続き、次のようなことをしゃべらせてもらった。大事なことはむしろ何度でも紹介する。例えば女性研究者支援に関することなど必ずしも新聞にはニュースとして数多く取り上げられないようなことも繰り返し載せる。さらにそれらの記事には、前に伝えた記事も(当サイトの過去の関連記事として)末尾に列記しておく。読者は関連記事として付記された見出しをクリックすることで過去の記事も簡単に読めるから一連の流れを容易に知ることができる。これはウェブの特徴で新聞ではできない。

「国会議員の仕事は同じ話を何度も繰り返すこと」。冒頭に紹介した日経新聞の記事を読んだのは、夜、帰京し自宅に戻ってからだった。坂東先生に問われるまま偉そうに話したことを思い出し、思わず笑ってしまったという次第だ。

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