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2009年9月9日編集だより

小岩井忠道

日本で最初のウラン鉱石採掘地であり、ウラン濃縮誕生の地でもある人形峠(岡山県と鳥取県の県境に位置する)を1、2日に再訪してきた。日本原子力研究開発機構の広報企画委員として、施設を見学させてもらい広報活動の現状とともに活動全般についていろいろ説明を聞く。昔、よく分からないままに記事を書いていたことを思い知らされて苦笑する。

最初にここを訪れたのは濃縮パイロットプラントが運転開始したときだから、ちょうど30年前になる。

パイロットプラントの遠心分離器は既に解体されてしまったそうだが、2001年に運転を終了した性能が一段高い原型プラントがこれから解体されるのを待っていた。原型プラントもパイロットプラント同様、多数の遠心分離器が整然と並んでおり、遠心分離器と遠心分離器はパイプでつながっている。このパイプがどうしてこのようなつなぎ方をするのか、当時、どうもよく分からなかった記憶がある。それでも別に困らなかった。「日本初の濃縮プラント運転開始」。この事実があまりに大きいので、記事の中にそんな細々としたことなど書かなくてもよかったのだ。分かったようで分からなかった、ではなく実は本当に理解していなかったことも多い、と今回、質問してみて知った。

一つ一つの遠心分離器をつなぐパイプは、気体である6フッ化ウランが入ってくるパイプと出て行くパイプがある。重いウラン238をちょっとでも多く含む6フッ化ウランの方が回転するシリンダーの側壁側(中心より離れた)に寄せられ、軽いウラン235をわずかながら多く含む6フッ化ウランの方が中心近くに集まる。これが遠心分離法の基本原理、ということは当時から分かっていた。ウラン235の比率がわずかながら高くなった6フッ化ウランを次のシリンダー(遠心分離器)に送り込む。これを順々に繰り返すうちに原子力発電所の燃料になり得るまでウラン235の比率が高められた濃縮ウランができる、ということも。

問題は、ウラン238の方がさらに多くなってしまった役に立たない(と思われる)6フッ化ウランも再び遠心分離器に戻してやることである。これではせっかく蒸留してアルコール度を高めた酒を薄めてしまうようなものではないか。どうしてこんなことをする必要があるのか。昔、深く追求せず、よく分からないままにしてしまったことの一つである。

話がややこしくなったので結論を言うと、貴重なウラン資源をできるだけ利用するため、ということだった。パイロットプラントの目的は、とにかくウラン濃縮技術を手にすることにあったわけだが、コストが大事な将来の実用化を考えた場合、濃縮の効率とともに、貴重なウラン鉱石をとことん利用することもまた重要ということらしい。仮に核兵器用の高濃縮ウランをできるだけ速く作ろうとするなら、ウラン235の比率が増えた方の6フッ化ウランだけを使ってひたすら濃縮度を高める方法をとればいい、ということか。そう思ったが、この点は今回も深く問いたださなかった。

さて、かつて濃縮という国家プロジェクトで活気づいていた施設も今や「人形峠環境技術センター」と名称も変わっている。どちらかというと後始末的なイメージの強い仕事が主体ということだ。敷地の一角にレンガ工場ができていた。1950年代、日本原子力研究開発機構が原子燃料公社だったころこの地でウラン鉱石を採掘していたときに生じた土砂が、いまだに“環境問題”となっている。放射性という観点からは何の問題もない(化学肥料並かそれ以下)この土砂でレンガをつくり、これを有料で売りさばくことで残土撤去という地元との約束を実行しようという作業が進行中だった。日本原子力研究開発機構と国、鳥取県、同県三朝町との間の協定が締結されたのが2006年5月のこと(2006年5月31日ニュース「ウラン残土問題正式合意」参照)。協定では県外に搬出となっていたが、その後、鳥取県三朝町と岡山県側の鏡野町の「理解」を得て、まず両町にレンガの試用受け入れをしてもらうことが決まっている、という報告を人形峠環境技術センター所長から受けた。

ウラン鉱石採掘残土で作られたレンガを手に取り、意外な重さに驚いているうち、昔、パイロットプラント運転開始の取材を終えた後、近くの奥津温泉(岡山県鏡野町)に1泊したことを思い出した。マージャン好きの他社の記者仲間3人と泊まった宿は、吉田喜重監督が後に妻となる岡田茉莉子の主演で撮った映画「秋津温泉」(1962年、藤原審爾原作)の撮影班が宿舎にしたところ。4人で泊まった部屋は庭に面した一番よい角部屋で、岡田茉莉子が使っていた、と宿の女性が教えてくれた。「吉田監督はときどき岡田さんの部屋を訪ねていましたね」とも。

レンガならぬマージャン牌(パイ)を積んだり崩したりしながらとうとう朝を迎え、結局、その部屋では一睡もすることなく、宿を退出ということになった。

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